39 / 78
成り立てほやほや王女殿下の初外交
05 許しませんわ
しおりを挟む「子狼さん、私たちが近付くのを、お馬鹿さんたちに気付かれたくはありません。気配を消してくださる。ついでに、映像と音声の保存もお願い」
そう頼んだ途端、私たちの周りを空気の膜が覆った。認識阻害魔法ね。これ結構役に立つのよ。他者からは私たちの姿は見えているけど、脳がそれを認識していないってわけ。
映像を残すのは、万が一のためよ。下手な言い訳をされるのは嫌だからね。
「ありがとう、子狼さん」
私は屈むと、子狼さんの頭をよしよしと撫でて上げる。
やっと表に出て来てくれたのに、他の侍女や近衛騎士に邪魔されたくないじゃない。それに、その醜く歪んだ面を近くで拝みたいしね。当然、私が現れた時の驚愕の顔を見たいじゃない。もちろん、その後の……
「ミネリア王女殿下、顔が完全に悪役になってます」
ボソッと耳元でジュリアが注意する。
あっ、また地が。淑女の顔、淑女の顔。慌てて猫を何重にも被った。
それにしても、さすが、イシリス様の分霊体の子狼さんね。全く気付かれずに、警護中の近衛騎士の脇を通り抜けて行く。忙しなく動く侍女の姿も見掛ける。
この先の庭園ね……
私たちは庭園に足を踏み入れる。同時に、子狼さんは認識阻害魔法を解いた。
参加者たちは私の存在に気付いてはいない。気付いたのは後ろに控えていた近衛騎士と侍女だけ、慌てて止めようとするが、すでに時遅し。
「不味いわ!!」
甲高い女の金切り声が響いた。
主賓席に座る女が、侍女に器に入った紅茶を熱いままぶっ掛けていた。侍女は痛さに顔を歪めている。
「リアス!!」
ジュリアが慌てて駆け寄った。そして、その体を支え、私の元に連れて来る。
「…………ミネリア王女殿下」
弱々しい声で、リアスは私の名を呼んだ。私は小さく頷く。
「よく我慢しましたね、リアス。ジュリア、これでリアスの治療を」
小瓶をジュリアに渡し、後ろに下がらせた。
さぁ……喧嘩を買いに、わざわざ来てあげたわよ。
「ずいぶんと、私の侍女が世話になったみたいで、これが、エンドキサン王国のやり方ですの?」
かなり低い声で私は尋ねた。その声音に、周囲は凍り付く。
突然の私の登場に、お茶会に参加していた者たちは完全に顔色を失った。リアスに紅茶をぶっ掛けた奴と一緒に嘲笑してたのを、私にしっかりと見られているからね。言い訳できないわよ。
そんな中で、かろうじて、余裕をかましているのが、主賓席に座るエンドキサン王国の第一王女。ダラキューロ様が付け入る隙きと称した人物よ。
男兄弟の中で唯一の女子。かなり、溺愛されて育ったらしいわ。我儘で自己中、自分が一番だって思ってる。っていうか、一番にならないと許さないって感じ。リアスに妙な敵対心を持ってたらしいわ。まぁ、パーティーに出ればどうしても比較されるでしょうね。可哀想に。おっと、口元が緩みそうになるわ。気を付けないと。私は淑女。
「どうして、ミネリア王女殿下がこちらに? お呼びしていないのに」
マナー違反を問いたいわけ、あんたが。
平静を保っているように見せたいようだけど、声が裏返ってるわよ。
「散歩していたら、道に迷っただけですわ。それで、先ほどの私の質問に答えて頂いてませんね」
にっこりと微笑みながら、私は返答を促す。さっさと言え。
「……作法を教えていただけですわ。見知った者として」
作法ね……ただの、苛めでしょ。リアスを道下にして楽しんでいただけでしょうが!! あぁ!!
「エンドキサン王国の第一王女が、ベルケイド王国の侍女に対してですか? 体罰を与えてまで、指導を。そうそう、これまでも、度々指導をしてくれていたようですが、全て把握しておりますわ。ベルケイド王国から正式に抗議文を送らせてもらいますね」
楽しみにしててね。徹底的にやるわよ。
「抗議文って……大袈裟な」
第一王女がやや顔色を悪くしながら呟く。
ここまできても、まだ大丈夫って思ってるみたい。ほんと、お馬鹿さん。
「大袈裟ですか? まだ甘いと思いますが。……私付きの侍女を他国の王女が私的に使い、怒鳴り付け、やけどを負わせ皆で嘲笑する。それ以前に、私の侍女に対する度重なる苛めの数々、それが許されるとおおもいで? もしそう考えているのなら、甘いですわね。甘過ぎますわ。私は許しません。当然、ベルケイド国王陛下にも報告いたします。我が民を虐げる者を放置することはできませんので」
「…………この女のせいで、こんな状態になったのに」
やっぱり出してきたか。でも、そんなの関係ない。
「それは違いますわ。選択を間違えたのは、王族たちですわ。リアスではありません。貴女方も、これ以上選択を間違えないようにしてくださいませ」
すでに、じゅうぶん間違ってるけどね。
あら? 誰かが王太子を呼びに行ったようね、騒がしくなって来たから、ここいらで退散しますか。映像と音声はバッチリ撮れてるからね。
204
あなたにおすすめの小説
その発言、後悔しないで下さいね?
風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。
一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。
結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。
一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。
「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が!
でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません!
「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」
※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※クズがいますので、ご注意下さい。
※ざまぁは過度なものではありません。
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです
風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。
婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。
そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!?
え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!?
※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。
※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる