2 / 5
Iの言うこと
02
しおりを挟む
綺麗に片付けたはずの机には、身に覚えのないダンボールが置かれていた。
どうやら注文したお香が届いたらしい。さっき頼んだばかりなのにと、不思議に思ってスマホで日付を確認するとあれからもう三日が経っていた。
取り出して封を開けてみたけれど普通のお香と変わらない気がする。やっぱり偽物なのか……?試しに火を付けてみると、淡いピンク色をした怪しげな煙が、ふわふわとゆっくりと上がっていった。
部屋の中に充満する甘い香り。
煙は視界を覆い隠して、自分がどこにいるのかも分からなくなってしまう。
鼻から入り込む甘い香りに、思考が奪われていくような気がした。
それは煙の合間から見える、断片的な光景。
教室でイヤホンを分けて好きなバンドの曲を聞きながら笑い合う俺達。うるさくないか斜め後ろの席が少し気になる。
二人並んで座る図書室の受付で、おすすめの本を教えてくれた。
人通りのない旧校舎。階段から転げ落ちて行くアイツ。手を伸ばす、届かない。届かない……!
どんどん広がっていく煙が邪魔をして、全ては見えない。
アイツの顔が分からない!
――――――「アイツと二人きりになっちゃダメだ。何があっても逃げろ。」
ぐるりと視界が一転する。
「ここは……?」
気が付くと俺は、頂上が見えないくらい高いタワーマンションの前に建っていた。あれ、さっきまで、家にいたはずなのに。スマホで日付を確認すると、アイツと会う約束の日になっていた。どうやらあれからまた時間が経っていたらしい。鞄の中身を見ると、あのお香が入っていて、もう片方の手にはハンバーグの食材が入ったスーパーの袋を持っていた。俺が買ったのか?いつの間にこんなことを。
帰らないと。なぜだか分からないけれど、彼に会ってはいけない気がした。
踵を返し駅の方へ帰ろうとする。
「あれ、優くん?」
「あっ……。」
「よかったぁ、そろそろ来る頃かなって迎えに来たんだ。わぁ、その袋なに、もしかして何か作ってくれるの。楽しみだな。あっ持つよ。さぁ行こうか。」
彼は見た目通りにスマートな奴で、あっという間に俺から鞄と袋を取ったかと思うと、もう片方の手では俺の手を握った。エントランスの門を通り過ぎ、直通だというエレベーターへ乗り込む。その間もずっと手は握られたままだった。両手が塞がって歩きにくくないのかなっと思ったけれど、小さい頃に山で俺が迷子になった事がトラウマで心配だからと、高校生になっても手を握りたがっていた事を思い出す。
「いっくん」
名前を呼ぶと彼はピクリと肩を揺らし、ものすごい力で俺の手を握ってきた。
「いたっ…」
「俺、そう呼ばれるの好きじゃないって言ったよね。ちゃんと呼んで?」
「ご、ごめん、郁実くん。」
「ううん、いいよ。さぁ着いたよ早く部屋に入ろうか。」
ニコリと笑っている彼は、誰にでも好かれるような優しい顔をしているのに瞳は仄暗く、なんだかとても怖く感じた。
「早く、入って?」
本当に入って良いんだろうか、躊躇っていると、彼は俺を力強く引っ張り部屋の中へ入れた。
ドアの鍵が閉まる音がやけに大きく聞こえた。
どうやら注文したお香が届いたらしい。さっき頼んだばかりなのにと、不思議に思ってスマホで日付を確認するとあれからもう三日が経っていた。
取り出して封を開けてみたけれど普通のお香と変わらない気がする。やっぱり偽物なのか……?試しに火を付けてみると、淡いピンク色をした怪しげな煙が、ふわふわとゆっくりと上がっていった。
部屋の中に充満する甘い香り。
煙は視界を覆い隠して、自分がどこにいるのかも分からなくなってしまう。
鼻から入り込む甘い香りに、思考が奪われていくような気がした。
それは煙の合間から見える、断片的な光景。
教室でイヤホンを分けて好きなバンドの曲を聞きながら笑い合う俺達。うるさくないか斜め後ろの席が少し気になる。
二人並んで座る図書室の受付で、おすすめの本を教えてくれた。
人通りのない旧校舎。階段から転げ落ちて行くアイツ。手を伸ばす、届かない。届かない……!
どんどん広がっていく煙が邪魔をして、全ては見えない。
アイツの顔が分からない!
――――――「アイツと二人きりになっちゃダメだ。何があっても逃げろ。」
ぐるりと視界が一転する。
「ここは……?」
気が付くと俺は、頂上が見えないくらい高いタワーマンションの前に建っていた。あれ、さっきまで、家にいたはずなのに。スマホで日付を確認すると、アイツと会う約束の日になっていた。どうやらあれからまた時間が経っていたらしい。鞄の中身を見ると、あのお香が入っていて、もう片方の手にはハンバーグの食材が入ったスーパーの袋を持っていた。俺が買ったのか?いつの間にこんなことを。
帰らないと。なぜだか分からないけれど、彼に会ってはいけない気がした。
踵を返し駅の方へ帰ろうとする。
「あれ、優くん?」
「あっ……。」
「よかったぁ、そろそろ来る頃かなって迎えに来たんだ。わぁ、その袋なに、もしかして何か作ってくれるの。楽しみだな。あっ持つよ。さぁ行こうか。」
彼は見た目通りにスマートな奴で、あっという間に俺から鞄と袋を取ったかと思うと、もう片方の手では俺の手を握った。エントランスの門を通り過ぎ、直通だというエレベーターへ乗り込む。その間もずっと手は握られたままだった。両手が塞がって歩きにくくないのかなっと思ったけれど、小さい頃に山で俺が迷子になった事がトラウマで心配だからと、高校生になっても手を握りたがっていた事を思い出す。
「いっくん」
名前を呼ぶと彼はピクリと肩を揺らし、ものすごい力で俺の手を握ってきた。
「いたっ…」
「俺、そう呼ばれるの好きじゃないって言ったよね。ちゃんと呼んで?」
「ご、ごめん、郁実くん。」
「ううん、いいよ。さぁ着いたよ早く部屋に入ろうか。」
ニコリと笑っている彼は、誰にでも好かれるような優しい顔をしているのに瞳は仄暗く、なんだかとても怖く感じた。
「早く、入って?」
本当に入って良いんだろうか、躊躇っていると、彼は俺を力強く引っ張り部屋の中へ入れた。
ドアの鍵が閉まる音がやけに大きく聞こえた。
44
あなたにおすすめの小説
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
贅沢な悩みなのか、どうかを。
あこ
BL
西川はる、20歳。
彼には悩みがある。
愛されているし、彼の愛情をはるは疑った事はない。
ただはるの彼氏は、はるを“愛しすぎている”のだ。
▷ 「攻めがなよなよ、受けはたぶん健気」を目指していました。
▷ 攻めは『恋人への執着心が年々ひどくなってきたことは自覚しているが、どうしても我慢できない』
▷ 受けは『恋人の執着心が年々ひどくなってきてしんどい』
▷ クスッと笑えるコミカルな話の予定でしたが、そうはならなかった。
▷ タグの『溺愛』と『包容』は、なんだかんだ結局受け入れそうな気配の受けは攻めを溺愛(包容)しているのでは?と付けたました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる