そんなの真実じゃない

イヌノカニ

文字の大きさ
4 / 5
Iの言うこと

04

しおりを挟む
「そうだよ、優くんと幼稚園から高校まで一緒だっただけっていう子だよ。」

「そうだ、……悠馬、……あのバンドが出るフェスがいつも行く山の近くだから一緒に行こうって誘われ……?、あれ……?アイツと俺は名前が同じだから俺達は苗字の「悠馬くんが俺と仲が良いから、優くんは嫉妬して彼を階段から突き飛ばしたんだよ」

「え?」

「彼は、今も病院で意識が戻らず眠ったまま。」

「俺が……?」

「よく思い出してごらん。優くんは俺のことが大好きで、横からいつも俺を搔っ攫っていく悠馬くんが許せなかった。怒りが溜まった優くんは、あの日の放課後、人通りが少ない旧校舎へ彼を呼び出した。」

「そう、だ、あの日、二人とも見当たらなくて、なんだか嫌な予感がして、学校中を探し回っていたら、郁実くんが旧校舎で階段からアイツを「人のせいにしないでよ、違うでしょ?」

「……そうだ、違う、俺が、アイツを、呼び出して階段から突き飛ばした。血がたくさん出て、早く誰かを呼ばないと、アイツは俺に気を付けろって言ってたのに、」

「気を付けろ?なにそれアイツ本当に邪魔だな。……それはお前の事だろ。
優くん、アイツの心配はもうしなくて良いよ。ウチが経営する病院の個室を貸して、無償で治療受けさせてあげてるし、最近やってきた医者が完全に治せて目も覚ますだろうって。だからもう優くんが罪悪感を感じる必要はないし、優くんに出来ることはアイツにもう関わらないこと、そして忘れてあげる事だよ。」

「ダメだ、そんなことできない。俺のせいでアイツがあんな事になったのに、忘れるなんて出来ない。」

「はぁー、なんで分からないかな、覚えている方が向こうにとっても迷惑なの、あっちにとってそれが一番嫌なことなの、優くんは罪を背負っている方が楽なのかも知れないけど、向こうにとっては忘れて欲しいし、関わって欲しくないって思ってるんだって。」

「でも」

「あぁもう!だからアイツのこと話たくなかったんだよね。イライラする!優くんはどうして俺のことだけ考えてくれないの!?俺のこと好きなんだから、他のことは考えないでよ!」

「郁実くん、」

「優くんも、俺の事好きだから、この四年間俺のために頑張ってたよね?」

「俺は引きこもりで何も…」

「ほらこの写真見て!お義母さんが毎日送ってくれるんだ。大学に行かずに俺のために頑張るって決めてくれた時、嬉しかったんだよ。俺の好物、こうやって毎日練習してくれたんだよね。こんなに笑顔でさ、俺に食べてもらうんだって言ってたって、教えてもらったんだ。」

「俺、こんな、記憶ない…。」

「ねぇ優くん、今日俺に言いたい事があるはずだよ。アイツを突き飛ばしちゃうくらい、四年間を俺のために費やすくらい、俺のことが好きなんだよ、俺ずっと、あの時から待ってたんだよ!ねぇ、優くん早く言ってよ!」

郁実くんは俺の腕を引っ張ると、また強く抱きしめてきた。甘いお香の香りに、郁実くんの香りが混じる。懐かしくて、どこか落ち着く匂いだった。あぁ、ようやく彼に言いたい事が分かった気がする。

「郁実くん、好きです。俺とずっと一緒にいてください。」

「優くん…!やっと、やっと聞けた!うん、俺も愛しているよ。ずっとずっとずっとずっとずぅっと一緒にいようね。」

郁実君は俺を立ち上がらせると、ポケットから小さな四角い箱を取り出した。急ぐような様子で箱を開けて指輪を取り出すと俺の薬指へ嵌めた。

「やっと俺のものになった。今日からここで一緒に暮らそうね。優くんはここから一歩も出ないでいいからね。俺がずっと守るから。俺の側から一生離れないでね。」

向かい合って俺の左手に自分の手を絡ませながら笑う郁実くんは、嬉しそうなのにどこか苦しそうだった。

――――馬鹿だな郁実くんは、

今度は俺から郁実くんを抱きしめる。あんなお香よりも郁実くんの傍にいる方が落ち着くのに。

どうして俺は、彼を一人にしてしまうのに、あんな選択を取ろうとしてしまったんだろう。

「大丈夫だよ、こんなことしなくても良いよ。

不安にさせてごめんね。俺は他の誰でもない郁実くんを選んだんだよ。郁実くんは郁実くんだよ。

郁実くん、幸せにするから安心してね。

でも、いっくんが目を覚ましたらやっぱりきちんと謝ろう。ちゃんと償おう。

それから後でハンバーグを一緒に作ろ。今日は、どれか分からなくなったとか嘘つかなくても俺の作ったやつを食べて良いからね。
そのあとで会えなかった間に読んだオススメの本を教えてね。」

彼は驚いたように体を硬直させたと思ったら、すぐに力強く抱きしめ返してきた。俺を痛いほどに掻き抱いて、しばらくの間、声を出して泣き続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう
BL
ポメガバースBLです! 大学生の幼馴染2人は恋人同士で同じ家に住んでいる。ある金曜日の夜、バイト帰りで疲れ切ったまま寒空の下家路につき、愛しの我が家へ着いた頃には体は冷え切っていた。家の中では恋人の居川仁が帰りを待ってくれているはずだが、家の外から人の気配は感じられない。聞きそびれていた用事でもあったか、と思考を巡らせながら家の扉を開けるとそこには…!※12時投稿。2025.3.11完結しました。追加で投稿中。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ
BL
親友をとられたくないという独占欲から、高校生男子が催眠術に手を出す話。 美形×平凡、ヤンデレ感有りです。完結済みの短編となります。

処理中です...