【完結】ただのADだった僕が俳優になった話

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 カメラは一人の男性を映していた

『こんにちわ。今日からよろしくお願いします。』

 取材班が挨拶すると、男性もよろしくと返事をする

『早速ですが、現在有志で集まっている人の人数は650人です。最初は俺と親友が始めたんですが、友逹にも参加させてと言われ、友達から友達へと広がって現在この人数です。皆細井容疑者の足取りを追ったり、余罪がないかできる範囲で調べています。
 このパソコンに、全ての情報が届き、有志の中でもリーダー的に動いている者と共有、その中で事実と判断された事は650人全員に共有されています。』

 男性は次にホワイトボードに向かう

『ここに張っているのは細井の写真です。これは細井を知る人物から提供してもらいました。』

『…写真があるなら、ネットで流して情報を提供してもらった方が早くないですか?』

『それは悪手です。現在の警察の動きを見るに、あまりちゃんと捜査がされていません。探りを入れると、上から圧力をかけられ捜査が難航しているみたいです。
 この意味わかります?』

『……警察の上の誰かが細井を逮捕させたくない?』

『ええ。そうなるとネットに拡散すれば、確かに情報は集まるかもしれない。けど、こちらの動きがその上の警察にバレてしまう。
 圧力をかけてくるか、適当に罪状を突きつけて来る可能性もある。』


『…警察がそんな事しますかね?』

『実際、相田彼方さんの事務所は細井が怪しいと警察へ訴えた際、警察は細井をマークし証拠を探すと言いながら逃がしてますからね?
 細井に警察がマークしている事に気づかれないよう、普段通りにしろとも事務所には手を出させないようにしました。
 普通あり得ないでしょ?
 叶さんのマネージャーや事務所の社長さんが再三抗議してやっと動くって事だけでもそうですし、まるで細井を逃がすための時間稼ぎをしてるみたいじゃないですか。』

『それは……確かにそうですね…素人でも分かることを、それすらしない。細井と圧力をかけてる警察は繋がってる…?』


『可能性は高いと、我々は思っています。なので警察には絶対悟られないように、我々で細井を調査し確保します。でないと、真実は隠蔽される虞がある。』

『貴方達は何故そこまで?』

『……殆どの有志で集まった人達は、あの日の会見で一生懸命に話す相田さんに魅了されたからでしょうか。その後、舞台の方達とテレビに出られてて、あの演技力や飾らない素の彼に惹かれた。
 彼は芸能人で、俺達と直接出会う事もなければ、俺達が一方的に知ってるだけで彼は俺達を知らない。けど、そんな俺達でも彼の為に何かできるかもしれない。
 感謝されたい訳じゃないし、認知してほしい訳でもない。
 彼が不安を抱かず、役者として進んで行けるよう支えたい。
 それが今回集まった有志の人達、全員の想いです。』

『…その気持ち、痛いほどわかります。私は仕事柄、彼と話す機会がありました。
 本当に素敵な方でした。とても努力家で、あんな事があったのに立ち向かっている。
 これ…うちの社長から宣誓書を預かってきました。我々も、東井テレビと東井新聞社も全面協力します。』

『東井テレビに新聞社が!?え…全面協力ですか??』

 青年は渡された宣誓書に目を通す

『うわぁ…マジか……すげぇ………俺達の推しは東井社長まで見方につけちゃうんだ……』

 感動している青年を、取材班は微笑ましそうに見ていた




『有力な目撃情報が入ったって!?』

 取材班が有志の調査に加わって早2カ月が経ったこの日、連絡を受けて、慌てて取材班は代表の元へ駆けつけた

 そこには他のメンバーも来ていた

『はい、遠くに潜伏していると思ったら、すぐ近くに居たみたいです。』

 細井を映した動画が再生される

 どこかのクラブだろうか
 音楽がガンガン鳴っていて、中は薄暗い

 細井は1人ではなく、男と一緒に居る

 暫く話をした後、バーテンダーから何かを受け取り帰っていった

『あの小さな包み何でしょう?』

『ドラマとかなら薬だけど、逃亡中にそんな事する?資金はどっから来るんだって話しになるもんなぁ』

 メンバーもあまりに映像が暗くて反応は微妙だ

『このクラブって、赤坂近くにある所?』

『そうです。よくわかりましたね?』

『記者の間では有名だよ。薬の密売が行われてるってね。まぁ、証拠もないし、警察にも動きが無いから黒に近い灰色ってところかな。』

 取材班の言葉にメンバーは固まる

『となると、本当に薬の可能性がありますね。少し游がせて、細井の潜伏先と一緒にいた男の素性を洗いましょう。メンバー全員に共有します。』

 それから交代でクラブの中と外に人員を配置し、取材班が用意した小型の暗視カメラを装着、細井と連れの男を尾行したりした


 細井を見つけて早1カ月
 多くのメンバーの協力により、細井の潜伏先と一緒にいた男の素性が割れた

 取材班がメンバーになった後、相田さんの事務所に所属していた人が、メンバーに加わったお陰だった

 その人が、細井と一緒に居る人物を知っていた

 その男は、以前逮捕された大手芸能事務所の社長とキャバクラで一緒に飲んでいた人物らしい

 彼が強制移籍や嫌がらせを公にし、訴えると言ったら、社長の隣にいた男が自分は弁護士の卵で、君が訴えた所で証拠もなにもない。逆に名誉毀損で君を訴える。そうなれば君だけじゃなく、事務所にも迷惑が掛かるだろうね。と言ってきた人物だと言う

 彼が今でも繋がっている、同じように事務所を辞めた子達に連絡を入れてくれ、男について詳しく聞いてくれた

 皆、弁護士の卵と名乗る男と会った事があるらしい
 そして有力な手がかりを掴んだ


『上條大学?』

『えぇ、同期が言うには、元社長が自慢げに「こいつは上條大の将来エリートだぞ」と言っていたそうです。』

『上條大と言えば、確かに法学部があるな。弁護士は勿論、裁判官や検事を多く輩出してる有名大学だ。』

『男はそこの学生の可能性が高いですね』

『わかった。大学にはこっちで、法学部についての取材を申し込んで調べてみる。』

『お願いします。』


 すぐに上からの許可がおり、大学からも取材の許可が降りた

 取材班は取材リストと撮影企画書を作り、その内容も大学側に許可を得た

 取材内容はこの件とは関係の無い、本当に法学部の学生への取材だ

 どうして法学部に進んだのか、将来は何を目指すのか、これからこの大学を目指す人へのアドバイス、普段どんな勉強をし、遊んだりする時間はあるのかなど

 これで法学部の生徒から、本人の許可があれば撮影し取材することができる

 取材できるのは3日間

 必ず見つけてやると取材班は闘志を燃やした



 取材1日目は残念ながら空振りに終わった

 生徒が多くて見つけれなかったのだ

 しかし2日目、目的の人物を発見

 ちょうど他の子のインタビュー中に通りかかり、自分から近づいてきたのだ

 インタビューを受けていた子とは友達らしく、その友達が彼を紹介してくれた

 3日目は、その男と友人に、法学部に通う子の部屋も取材したいと頼み込んだ

 男は渋っていたが、友達の方はノリノリで男にもプッシュしてくれたお陰で、そのまま部屋へ直行

 片付ける暇など与えず、部屋にお邪魔しインタビューを続ける

 この時、取材班全員が隠しカメラを装着していて、大きなカメラだけ警戒していた男は、細井と映った写真や薬を、取材班が身につけている隠しカメラに、映像として記録されているとは思ってもいなかった


『男の素性がわかったよ!』 

 インタビューから1週間後ついに男の全容がわかった

『男の名前は井戸端秋夜 21歳。
 上條大学法学部に在籍中、親は警察幹部、井戸端智則警視正の息子だ。
 井戸端秋夜は既に何度か覚醒剤所持や使用で逮捕されてるが、親の力で揉み消されてる。
 警察に捕まったのに、次の日にはまた店に来て、自慢げに親が揉み消したと話しているのを複数人聞いていて、複数回同じ事があったと証言もある。』

『やっぱり親が揉み消してたか。』

『息子が細井と関わりがある事を知っていたから、相田さんの失踪時、圧力をかけて捜査を遅らせたのか。』

『その間に細井を逃がし、何時からかは知らないけど、細井を自身の親戚が所有するマンションへ匿ったと。警察官がすることじゃないね。』

『これからどう動く?』

『警察に言っても、揉み消される可能性が高いよね』

『じゃあさ、警察には細井発見ってだけ連絡して、その現場を生中継か、すぐニュースで流すのはどう?』

『そうだなぁ…他の管轄の所に細井が潜伏してれば、警察に通報して逮捕させて直ぐにニュースで取り上げるなら上手くいきそうだけど…』

『管轄内だと、既に警視正からの圧力がかかってるもんねぇ…下手したら逮捕さえしないかもしれないし。』

『んじゃあ誘きだすしかないか。』

『どうやって?』

『本人に直接接触する。』

 メンバーの話し合いでは答えが見つからないと思った取材班は、強行手段に出る事にした





 逮捕前日23時

 細井は1人でクラブから出てきた
 ゆっくり後をつけ、マンションの下で声をかける
『細井さん。探しましたよ~』
 勿論暗視カメラをむけ、マイクも向ける
『ずっと逃亡されてますが、このまま逃げ続けるんですか?』

 細井は周りをキョロキョロと見ながら「お前達…誰だ?」と質問を返してくる

『私達はテレビ局の者です。あなた、勤めていた事務所の役者を拉致監禁し、山へ連れ去り殺そうとした細井さんですよねぇ?』

 少しづつ声を大きくしながら細井を追い詰めていく

『お…俺は………』

 ジリジリと後ろに下がる細井を追い込むように前に進む

『警視正の息子さんと随分仲が良いんですね。ぜーんぶ証拠と証言揃ったので、明日貴方達全員逮捕ですよー。朝のニュース番組で、貴方がここに潜伏してる事も、警視正の息子と親密な関係なのも、2人で仲良く覚醒剤を使用している事も、ぜーんぶ放送されます。警察は当てにならないので、放送をしてから警察には動いてもらうんで、今日は貴方が逃げないようにマンションの入口に居ときますね。』

 ニッコリ笑えば、細井は真っ青な顔でマンションへ逃げていった


 ここからは30分間毎にメンバーを1人づつ交代していく

 細井の部屋は15階、下を見ても自分達の顔はわからない。服装だけ交換して26時まで入れ替わり立ち替わり、マンションの下にずっと報道陣が居ると思わせる

 その後隙をつくる

 マンションの下からは撤収し、他の人達は車の中で待機、バイク組も勿論居る

 マンションの入り口も非常階段もちゃんと見張っている

 26時を過ぎて、マンションの入口から撤収した1時間後、案の定細井は帽子を深く被り荷物を持って出てきた

 非常階段の方から出るかと思ったら、自転車で逃走するつもりらしく、駐輪場へ向かうため、マンションの入口から出てきたようだ

 既に全員配置についていて、細井を追いかける準備はできている

 細井が自転車にまたがり、逃げ始めたのでゆっくりと追いかけた


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