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はじめての森
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夜明け前、セリナひひっそりと屋敷を後にした。誰にも何も言わずに、ただ「旅に出ます」と置き手紙だけを残してきた。
行き先は南の辺境だ。
ロブワーク家の領地は王都から西にあるので、西以外でと考え、せっかくなら暖かいところへ。そして南の辺境は枯れた土地や未開の地が多いと聞いていたので、セリナにもできることがあるかもしれないと考えたのだ。
南へ向かう道中、セリナはヴィリオとともに森の中を進んでいた。辺境までの旅は長く険しい。だが、セリナにとっては初めての自由な旅路だ。
「お腹すいたね、ヴィリオ。」
ヴィリオはすっかりセリナの左肩が定位置となっている。ただの葉の固まりではあるのだが、セリナにはなんとなくヴィリオの意思のようなものが感じられた。それになぜだか肩の上から落ちないのだ。
そんなヴィリオから視線を外し、鞄の中を覗くが、もう食料はほとんど残っていない。だが、セリナは焦らない。
「大丈夫。私には植物魔法があるもの。」
セリナは手に持っていた種を掌にのせて、魔法を唱える。すると、あっという間に小さな芽が出て、見る間に伸び始めた。やがて色鮮やかな果実が実る。
「やったね。」
セリナは果実にかじりつき、甘い果汁が口いっぱいに広がると、思わず笑顔になった。
次に必要なのは火だ。夜になると森は冷え込むし、暖かいスープがあれば元気も出る。セリナは以前、家庭教師のザックス先生に教わった植物の種を取り出した。
「これこれ。」
枯れ枝とその種を使って火を起こすと、ヴィリオが僅かに飛び上がった気がして笑ってしまった。ヴィリオは植物だから火が怖いのかもしれない。セリナは笑いながら鍋に水を注ぎ、スープを作り始めた。
水についても、トムの本に出てきた水袋をつける植物を探し、その種を持ってきていた。
「これ、ほんとに便利ね。」
水袋を手に取って飲みながら、セリナは改めて自分の植物魔法に感謝した。
ある日、セリナとヴィリオは肉が恋しくなった。果物だけでは元気が出ない。そこでセリナは、罠を作ることにした。
「この辺りに仕掛けてみよう。」
細いツタを魔法で操り、輪を作って地面に隠す。植物魔法で強化したこの罠は、動物が通ると瞬時に締まる仕組みだ。数時間後、小さなウサギが罠にかかっていた。
「ごめんね。でも、いただきます。」
セリナは手を合わせ、感謝の気持ちを込めて調理した。火を起こし、スープにウサギ肉を加えると、森中に美味しそうな香りが漂った。
最初の何日かは大きな木にもたれて毛布にくるまって震えながら夜を過ごし、ろくに眠ることもできなかったが、植物魔法を使えばいいじゃない!と閃いてからは、まず地面にはふかふかの枯葉をたくさん作って、それから虫が嫌う草の蔦で枯葉のベットをテントのように囲って快適な寝床で眠れるようになっていた。
「これなら安心して眠れるね、ヴィリオ。」
ヴィリオも丸い体をさらに丸くして満足しているようにみえるし、セリナも安心して目を閉じる。
こうしてセリナは、植物魔法を使いながら旅を続けていた。初めて森を歩いた時は不安だらけだったが、今では少しずつ自信がついてきた。
「意外と、なんとかなるものね。」
森の中で手に入れた材料でご飯を作り、自然と一緒に暮らすことが、セリナにとっては新鮮で楽しい冒険だった。
「でも、南端の辺境までは、まだ道のりが長いもの。」
ヴィリオとともに歩きながら、セリナはまた新しい植物の使い道を考え始める。魔法を駆使して成長していく自分を感じながら、彼女の旅は続くのだった。
行き先は南の辺境だ。
ロブワーク家の領地は王都から西にあるので、西以外でと考え、せっかくなら暖かいところへ。そして南の辺境は枯れた土地や未開の地が多いと聞いていたので、セリナにもできることがあるかもしれないと考えたのだ。
南へ向かう道中、セリナはヴィリオとともに森の中を進んでいた。辺境までの旅は長く険しい。だが、セリナにとっては初めての自由な旅路だ。
「お腹すいたね、ヴィリオ。」
ヴィリオはすっかりセリナの左肩が定位置となっている。ただの葉の固まりではあるのだが、セリナにはなんとなくヴィリオの意思のようなものが感じられた。それになぜだか肩の上から落ちないのだ。
そんなヴィリオから視線を外し、鞄の中を覗くが、もう食料はほとんど残っていない。だが、セリナは焦らない。
「大丈夫。私には植物魔法があるもの。」
セリナは手に持っていた種を掌にのせて、魔法を唱える。すると、あっという間に小さな芽が出て、見る間に伸び始めた。やがて色鮮やかな果実が実る。
「やったね。」
セリナは果実にかじりつき、甘い果汁が口いっぱいに広がると、思わず笑顔になった。
次に必要なのは火だ。夜になると森は冷え込むし、暖かいスープがあれば元気も出る。セリナは以前、家庭教師のザックス先生に教わった植物の種を取り出した。
「これこれ。」
枯れ枝とその種を使って火を起こすと、ヴィリオが僅かに飛び上がった気がして笑ってしまった。ヴィリオは植物だから火が怖いのかもしれない。セリナは笑いながら鍋に水を注ぎ、スープを作り始めた。
水についても、トムの本に出てきた水袋をつける植物を探し、その種を持ってきていた。
「これ、ほんとに便利ね。」
水袋を手に取って飲みながら、セリナは改めて自分の植物魔法に感謝した。
ある日、セリナとヴィリオは肉が恋しくなった。果物だけでは元気が出ない。そこでセリナは、罠を作ることにした。
「この辺りに仕掛けてみよう。」
細いツタを魔法で操り、輪を作って地面に隠す。植物魔法で強化したこの罠は、動物が通ると瞬時に締まる仕組みだ。数時間後、小さなウサギが罠にかかっていた。
「ごめんね。でも、いただきます。」
セリナは手を合わせ、感謝の気持ちを込めて調理した。火を起こし、スープにウサギ肉を加えると、森中に美味しそうな香りが漂った。
最初の何日かは大きな木にもたれて毛布にくるまって震えながら夜を過ごし、ろくに眠ることもできなかったが、植物魔法を使えばいいじゃない!と閃いてからは、まず地面にはふかふかの枯葉をたくさん作って、それから虫が嫌う草の蔦で枯葉のベットをテントのように囲って快適な寝床で眠れるようになっていた。
「これなら安心して眠れるね、ヴィリオ。」
ヴィリオも丸い体をさらに丸くして満足しているようにみえるし、セリナも安心して目を閉じる。
こうしてセリナは、植物魔法を使いながら旅を続けていた。初めて森を歩いた時は不安だらけだったが、今では少しずつ自信がついてきた。
「意外と、なんとかなるものね。」
森の中で手に入れた材料でご飯を作り、自然と一緒に暮らすことが、セリナにとっては新鮮で楽しい冒険だった。
「でも、南端の辺境までは、まだ道のりが長いもの。」
ヴィリオとともに歩きながら、セリナはまた新しい植物の使い道を考え始める。魔法を駆使して成長していく自分を感じながら、彼女の旅は続くのだった。
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