【完結】貴方の愛は信じても良いのでしょうか?【大正恋愛奇譚】

白井ライス

文字の大きさ
16 / 37

敵の敵は見方

しおりを挟む
敵の敵は味方という言葉があるようにキヌさんと梅さんは結託したようです。
二人は先生の部屋にずかずかと入ってきて、夜食を置いてきました。

「据え膳食わぬは男の恥ですよね。先生?」

梅さんが言います。
先生は頭を掻きました。

「まぁそうだけど意味が違うんじゃない?」

「いいえ、そのままの意味です」

キヌさんも言います。
私は二人が邪魔をしに来たのだと分かり、服を着始めました。

「ああっさきちゃんまで」

先生は名残惜しそうです。
私はこれから二人に折檻なり何なりされるのだと思います。仕方がありません。
でも、此処で二人を叱ったり、追い出せない辺りが先生の狡いところでもあります。

「ほら、あんたも出ていくよ!」

キヌさんが服を着た私を引っ張ります。

「はい。失礼いたしました」

「さきちゃん~」

先生は最後まで未練がましく私の名前を呼びました。

ーーー

女中の部屋に着くと、まずは梅さんに左頬を平手打ちされました。次はキヌさんに右頬を打たれました。パンッパンッと立て続けに威勢の良い音が響きます。

「あんたさぁ~何やってるか自分で分かってんの?!」

キヌさんが責めてきます。

「今日、吉田さんと活動写真見に行ったんだろう?何で先生の床に入ってるんだよ」

「そうだよ。ふざけんなって話よ」

梅さんも憤慨しています。

「も、申し訳御座いませんでした」

私が謝っても二人の怒りは収まりません。
ツネさんとイネさんもこの場に居るのですが、触らぬ神に祟りなしという言葉の通り、気まずそうにただ黙っています。

「あんたさぁ、言葉遣いだけは綺麗だけど本性は真っ黒だね」

キヌさんが言います。

「そうだ。そうだ」

梅さんも援護するかのように言います。

「ちょっと可愛いからって二股掛けて恥ずかしくないのかい!」

キヌさんが声を張り上げます。

私は泣くのを必死で堪えました。泣けば泣いたで二人は責め立ててくるでしょう。
しかし、じんわり涙が込み上げてきました。

「おあいにく様、此処では泣いても誰も助けてくれないんだよ。」

「そうだよ。諦めるこった」

私は命乞いするかのように言います。

「もっもう先生とは寝ません。吉田さんとはもう出掛けません。だからどうか許して下さい」

「信用ならないねぇ」

「そうだ。そうだ」

「でも、そんなに言うなら」

するとキヌさんが何か思い付いたようでニヤリとしました。

「それじゃあ、念書を書いてもらおうか」

「どっどんな念書ですか?」

「先生と寝たり、吉田さんと出掛けたりしたら罰金二千圓だよっ!」

「二千圓……!」

その金額の高さに私は驚きました。

「じゃあ、そうと決まれば念書を書いてもらうよ」

キヌさんがそう言うと梅さんが自分の持ち物から紙とペンとインクを持ってきました。

キヌさんがサラサラと文字を書いていきます。
当然私は読めないので何と書いているのか分かりませんでした。
そうこうしている内にキヌさんが書き終え、念書を私に差し出してきました。

「ほら、此処に名前を書くんだよ!下には拇印も押しな!」

指を指された所に私はミミズが這ったような汚い字で自分の名前を書きました。
そして、親指に朱肉をつけて拇印を押しました。

「これであんたは先生と吉田さんには指一本触れられることが許されないからね!分かったかい!」

「はい。承知しました」

私は深々と頭を下げ、この場は収まりました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

離縁希望の側室と王の寵愛

イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。 国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。 いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──? ※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。 シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

真面目な王子様と私の話

谷絵 ちぐり
恋愛
 婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。  小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。  真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。 ※Rシーンはあっさりです。 ※別サイトにも掲載しています。

処理中です...