【完結】貴方の愛は信じても良いのでしょうか?【大正恋愛奇譚】

白井ライス

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庭師の男性

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昨晩の念書のお陰か次の日の二人は幾分機嫌が治ってるように思えました。
挨拶も無視されずに済みましたし、仕事も教えてもらえました。
私はホッとすると共に女の嫉妬とは恐ろしいものだと思いました。そして、同時に金の力はそれと匹敵するくらい強いものだと感じました。
今度、先生が私に触れられたら罰金二千圓です。
勿論、吉田さんとのデェトも含まれます。
此処に勤めている内は一生こうなのでしょうか。
私は男性と交わることを禁止され、生涯孤独に生きていかなければならないのでしょうか。
そう思うと涙がじわりじわり込み上げてきました。
私が廊下で一人メソメソと泣いていると遠くから声を掛けられました。

「どうしたんだい?」

庭師の男性です。
わざわざ手を止めて私の方へ向かってきました。

「あっいえ、大丈夫です」

「そんなことないよ。泣いているじゃないか」

また舌の根が乾かぬうちに男性と会話しているのが知られれば、あの二人から揺すられるに違いないと思いました。
私は避けるかのようにパタパタと逃げていきました。
しかし、男性は付いてきました。
私はキヌさんと梅さんが居ないことを確かめると観念して男性に昨日あったことを話すことにしました。

「あの……この事は他言無用にしてもらいたいのですが良いですか?」

「おう。口は固いから大丈夫だ。何があったか俺に喋ってみろ」

「先生と編集の吉田さん二人と関係を持ってしまったんです」

「ほう」

「それをキヌさんと梅さんにとがめられて、次に関係を持ったら罰金二千圓だと言われました」

「そんなことがあったんだな。確かに二股は良くないが一体全体何であの二人に金を渡さなけりゃならないんだ。
俺にはそこが理解出来ん。
第一、先生が女中に手を出すなんて日常茶飯事だし、二人だって先生と寝てるんだろう?
なんでお前さんばかり責められなきゃならんのだ」

私は味方になってくれそうな人が現れて良かったと思いました。

「そうなんです。二人だって先生と寝てるんです。なのに私だけ……」

「そりゃ、勿論、女の嫉妬ってやつだろうな。だってお前さん美人だもの。先生を盗られたくなくて必死なのさ。そうゆうもんだよ」

「そうなんですか」

「そんなもんさ。お前さんももう少し開き直ってやれば良いんだよ。
キヌは昔から新人イジメが酷かったし、梅なんて俺に向かって『もうすぐ自分が女主人になる』なんて言い張る始末だ。
それくらい図太くないとやっていけないぞ」

「確かに、それもそうですね」

男性に励まされて少し元気が出てきました。

「そう言えば、聞くのを忘れていたがお前さん名前はなんて言うんだい?
俺は坂田雅道まさみち。此処の庭師だ」

「私は宮本咲子です」

「宮本咲子か。あんたにお似合いのハイカラな名前だな」

「いえ、そんなことないです。坂田さんこそ良いお名前です」

「坂田さんなんて畏まった風に言わなくて良いよ。雅道で良いよ」

「では雅道さんで」

「じゃあ、俺は咲子ちゃんと呼ぼうかな」

「是非そうして下さい」

私はニッコリと笑顔で返しました。

しかし、この会話を機に雅道さんを御屋敷で見掛けることはもう二度とありませんでした。
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