【完結】貴方の愛は信じても良いのでしょうか?【大正恋愛奇譚】

白井ライス

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梅さんが居なくなる?!

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私が吉田さんとデェトし、先生と関係を持って五日目が経ちました。
とうとう待ちに待った休みの日です。
私は十日以上風呂に入らなかったのです。もう風呂に入りたくて入りたくてたまりませんでした。
朝から私がウキウキしながら銭湯の用意をしていると少し髪の乱れた梅さんがキッと睨み付けてきました。

「あんたまさか」

何だろうと思いましたが、私は別に隠す事は無いのでありのままを梅さんに話しました。

「今日、銭湯に行くんです。風呂に入るのが楽しみで」

すると梅さんのキツい視線が緩みました。

「なんだ。屋敷の風呂を使うのかと思った」

「違いますよ。近所の銭湯に行くんです」

「そうか……なら良いか……」

梅さんはそう言って女中の部屋を出ていきました。
するとキヌさんが面白そうに私に話し掛けてきました。

「梅のやつ、ここずっと先生から御呼ばれしてないんだ」

「えっそうなんですか?」

そう言えば、梅さんからプンプン匂っていた石鹸の香りがしないことに気が付きました。

「とうとう梅に飽きたかな」

「そうなんですか」

「次期に梅も此処を辞めると言い出すよ。先生は来るもの拒まず去るもの追わずの精神だから梅はそのまま居なくなるこった」

「へぇ」

私は正直キヌさんにも辞めて欲しかったのですが梅さんが居なくなるだけでも大分楽になります。
そうしたら新人の子が入ってくるのでしょう。
その子とは仲良くなれたら良いなと思いました。

ーーー

十日ぶりの風呂は最高で、私は三回も髪を洗いました。
体から漂う湯上がりの石鹸の匂いも好きです。
私が満足げに歩いていると本屋が近くにあるのに気が付きました。
私は字が読めないのでそこを通りすぎようとしていると聞き覚えのある名前が聞こえてきました。

「枝川修司の新作っていつ出るんですか?」

おかっぱ頭の可愛らしい女の子です。
呼ばれた店員が言います。

「三か月後くらいですね」

「そうなんですか。分かりました」

おかっぱの女の子は出ていきました。まだ十二、三歳くらいの子でしょうか。
私は先生の作品が読めるなんて羨ましいなぁと思いました。
そして、私はそのまま商店街へ行き、何か目新しいものはないか探しに行きました。

ーーー

夕方になり、私が御屋敷に戻ると梅さんが女中の部屋で泣いて居ました。
声を掛けようか迷いましたが、目が合ってしまったので声を掛けざるを得なくなりました。

「どうしたんですか?」

「先生が……先生がっ」

「先生がどうかされたんですか」

「もうあたしのこと抱きたくないって……」

「そうだったんですね」

キヌさんが言っていたのは本当のようです。
すると梅さんが恨めしそうにこちらを見てきました。

「やっぱり、あんたを好きになったのかも」

私は頭に二千圓が浮かび上がり、必死に否定しました。

「それはないです。あの一件以来私は先生と関係を持っていません」

「そうか……でも、あの日以来、私も抱かれてないんだよ」

私はいつの日かキヌさんに言った言葉を繰り返しました。

「大丈夫ですよ。今は執筆に忙しいだけですよ。その内、また御呼ばれしますよ」

「そうかな……」

「そうですよ。そう言えば、今日、本屋で先生の新作を楽しみにしている女の子を見ました。先生はそういう読者に向けて頑張って書いてるんですよ」

「へぇ」

そう言うと梅さんの目から涙が止まっていました。

「大丈夫です。安心して下さい」

私がニッコリと微笑むと梅さんもつられて笑いました。

「ウフフ」

「あはは」

笑顔の梅さんは可愛いなと思いました。

ですが、この数週間後、梅さんは女中を辞めてしまうことになります。しかし、その深い理由は今の私には知るよしも無かったのでした。

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