【完結】貴方の愛は信じても良いのでしょうか?【大正恋愛奇譚】

白井ライス

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邪魔者が居ない世界

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キヌさんが居なくなり、私の仕事は非常にやりやすくなりました。
気を遣う相手が居なくなったことで悩みが無くなったのです。
そして、肝心の先生との関係はというと相変わらず先生は執筆に熱中していて全く進んでいませんでした。
物足りなさを感じる生活を送っていたそんな時です。あの人が再びやって来たのは。

私が玄関先を掃除していた時のことです。
見覚えのあるおかっぱ頭の女の子が現れました。
二階堂さんです。
私はあの時以来会うのが初めてだったので冷や汗をかきました。
ですが、来訪された方を無視することは出来ません。
私は話しかけることにしました。

「こんにちは。二階堂さん」

「こんにちは。宮本さん」

二階堂さんはにこやかに挨拶してくれました。
まるで流産した時のことなど無かったかのようです。

「今日はお仕事ですか?」

「ええ。吉田の代わりに来ました。今、吉田は私用で休んで居るので」

「そうなんですね。では、代わりに先生の原稿を取りに来たんですか?」

「そうです」

「承知しました。では、先生の部屋まで案内させて頂きます」

「はい。ありがとうございます」

そして、私は二階堂さんを先生の部屋まで案内しました。
襖をノックします。

コンコンッ

「先生、二階堂さんがみえております。入っても宜しいでしょうか?」

「良いよ。入って」

「失礼します」

そして、二階堂さんは先生の部屋に入って行ったのです。
私は玄関先の掃除に戻りました。
三十分くらいした頃でしょうか。私は玄関先の掃除を終え、御屋敷に入りました。
私は何だか胸騒ぎがして先生の部屋に行くことにしました。
襖に聞き耳を立てるとしんと静まり返っています。
先生と二階堂さんが何かしている様子はありません。
私はもしかしたら二階堂さんがまた先生を誘惑しに来たのかと思っていましたがそうではないようです。
安心した頃、声が聞こえてきました。

「先生、嬉しいです。正に夢のようです」

「そうだね。きっとエミちゃんが喜ぶと思って書いたんだ」

ん?と思い、耳を澄まします。

「私が主人公の作品を書いてくださるなんて」

え?二階堂さんが主人公の作品?私は驚きます。

「ああ、それが約束だったからね」

先生と二階堂さんは約束していたらしいです。初耳です。

「前の作品は宮本さんがヒロインだったので嫉妬しました。
しかも、先生の作品らしくなく大団円で終わるので物足りなかったんです。
だから、この作品で主人公の呪いで妻が虫の子を産んだ描写を見てスカッとしました」

私はゾゾーっと背中が冷えました。虫の子。それは私が夢に見た通りでした。

「そうだね。一番の見せ所がそこだからね」

「ウフフッ嬉しいです。それに妻が虫の子に対する愛情が持てなくて殺してしまう所なんて特に面白かったです」

「エミちゃんが喜ぶと思ってそうしたんだ」

先生は何の感情も無いような声で言いました。

「本当に先生は天才です。あー現実に起これば良いのに」

二階堂さんが恐ろしいことを言います。
すると先生は言います。

「そうだね。でもさきちゃんは違うと思うな」

少し間があって二階堂さんが言います。

「……なんでそんな風に思うんですか?」

「さきちゃんは虫の子でも愛してしまうと思うんだ」

すると二階堂さんが馬鹿にしたように言います。

「へぇ~先生もそんな風に思うんですか。やっぱり本命には夢を抱きがちなんですね。
でも、実際に産まれてしまえば分かんないですよ」

「どうしてだい?」

「私には分かります。宮本さんには元々虫の血が入っているからです」

二階堂さんの何か見透かしたような発言に私は恐ろしくなり、足早にその場から立ち去りました。
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