お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ

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第7章:彼女の幸福

第64話 大きい悩み

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「ようやく、注文通りのドレスが届きましたわね!」

 私は姿見の前で、満足げに頷いた。

 ボディラインを控えめに見せるように装飾されたAラインドレス、これぞ求めていたものだ。

 これにショールも被れば、胸はほぼ目立たないはずだ。

「そうかしら……無駄な足掻きに見えるわ」

 お母様の厳しい言葉に、私は眉をひそめた。

「どの辺が無駄なのでしょうか」

「どう頑張っても、ボリュームを隠すことはできないもの。
 目立たなくすることはできても、視線を集めることは避けられないわ」

 もう次から、布でも巻いて抑えつけるかな……

 いや、だとしても限界はあるか。

 すでに三桁が見えてきているらしい私の胸は、抑えつけても目立つだろう。

 私はため息とともに告げる。

「もういっそ刃物で削ぎおとそうかしら」

「そんな痛い妄想してないで、さっさと脱いでしまいなさい」

「はーい」


 侍女に手伝ってもらいつつ普段着に戻り、私たちは試着室からサロンに移動した。

「それでお母様、今度の夜会はどなたが参加なさるの?」

「ダヴィデ殿下は当然として、国内の有力貴族はだいたい呼んでるわ。
 あなたにとって辛いことになるかもしれないけど、耐えて頂戴」

「はい、わかっています。お母様」

 ダヴィデ殿下が次の王であり、私は王統なんて求めていないと、改めて広く知らしめる場だ。

 影響力の強い貴族に絞ることで、なるだけ数は減らしてくれたみたい。

 悪意は覚悟しなきゃいけないけど、宮廷の社交場よりはマシなはず、だと思いたい。

 お母様の視線が私の身体をなめる。

「それにしても……本当にすごい身体に育ったわね」

「もうただのおデブちゃんですわ。ぱっと見の印象が変わりませんもの」

 身長が低い私が横に太い――いくらウェストが十二歳の頃からほとんど変わってなくても、まぁ普通に見て太り過ぎの人と変わらない。

 着る服が全てオーダーメイドの公爵家だから助かってるけど、村で暮らしてたら着る物に困っただろう。

「そんなことはないわよ、あなたは手足も細いもの」

「こんなアンバランスな身体、みっともないですわね……どうにかしたいものですわ」

 お母様が法衣を許してくれればいいんだけど、やっぱり公爵令嬢として法衣は認め辛いようだった。

 試着してみせた結果、お母様から凄い顔で「これは無理ね」と告げられていた。

 前回の人生で着ていた服だったのに、ダメ出しを食らってしまったのだ。

 私のこの胸が入るサイズは特大サイズの法衣、それを着たときの印象は肥満体型の人とほぼ一緒。それが嫌だったみたい。


 その後は夜会の打ち合わせを進め、私は部屋に戻っていった。




****

「お嬢様」

「なーに? レナート」

「重たいのは理解致しますが、テーブルの上に胸を乗せるのはおやめください」

「肩がこるんですもの。もうあなたが手で支えてくれないかしら」

「おたわむれも、おやめください」

 刺繍の間、私はテーブルに胸を乗せ、その上に腕を乗せて糸を刺している。

 みっともないのはわかっているけど、まともに座ると肩が痛いし腰も痛い。

 お尻も大きくなったので、二代目になった大きめの椅子に腰を下ろしている。

 疲れたので大きく息をついて、椅子から立ち上がった。

 そのままふらふらとソファに倒れ込み、「レナート、紅茶~」と告げる。

「はぁ。憂鬱ですわ。私の記憶ではもう少し大きくなるのよね。
 あの頃は救済に必死だったから気にならなかったけど、こんな身体でよく生きてたわ」

 肌着と法衣のみで、今ほどキッチリ着込んでいなかったから、身体の負担が少なかっただけな気もする。

 外見を気にする環境でもなかったし。

 レナートが紅茶を置いてくれたので「よっこいせ」と起き上がる。

「お嬢様、令嬢らしくない掛け声もおやめください」

「あなたも、この重しを経験すれば苦しみがわかりますわよ……」

 ソーサーを胸の上において紅茶を一口飲んでいく。

「お嬢様……」

「丁度いいテーブルなんですもの。カップを置いてる訳じゃないのだし、いいじゃない」

 飲み終わったカップをお皿に戻し、カップケーキを頬張っていく。

「載せてます! 今! カップを載せてますよ!」

「あ、うっかり」

 カップケーキのお皿を胸の上において、ティーカップをテーブルに戻した。

「お嬢様?!」

「なにかしら?」

「あちらを立てればこちらが立たないのですか?!」

「自分の部屋でくらい、息抜きがしたいですわ」

 私の言葉で、レナートが深いため息をついた。

「せっかく可憐な見た目をしてるんですから、それらしく振舞ってください」

 私は別に、男性を喜ばせるために生きてる訳じゃない。

「レナート、妄想するのは勝手だけど、私はあなたたちに夢を見せる義務なんてないのよ?
 だいいち、こんなにボリュームのある女子が可憐とか、どういう感性をしてるの?」

「お嬢様がお太りでないのは、よく見ればわかります。
 可憐な少女に特大サイズの胸が付いてるだけです」

「グロテスクなだけじゃない……なぜそれで私に夢を見るのかしら」

 男性の感性は、本当に理解が難しそうだ。


「ちょっとレナート、そこの本を取ってくれないかしら」

 手渡された童話を胸の上に置いて読んでいく。

「お嬢様……」

「なによレナート、文句を言う暇があったら肩をもんでくれない?」

 レナートが深いため息をついた後、私の肩をもんでいった。




****

 昼間のサロン、今日もアンリとファウスト、レナートが集って紅茶を飲んでいた。

「お嬢様の最新値です」

 テーブルに差し出されたメモを見て、アンリとファウストの顔が歪んだ。

「ここまで伸びているのか」

「怖い! 怖いって!」

 レナートがため息をついて告げる。

「体重も順調に伸びています。
 太っている訳でもないのに、もう担ぎ上げるのも大変ですよ。
 バランスも悪いですし、お嬢様がぼやくのも理解できます」

 ローティーンのウェストにハイティーンのヒップ、そして類を見ない特大サイズのバスト。

 ヒップのサイズは控えめな方だが、これでは歩くだけでも重労働だろう。

「どうしてこれで可憐なイメージを維持できているんだろうな……」

「ひとえに顔面力でしょうね。
 ですがさすがにドレスをあつらえる方も苦しそうです。
 かつての調和された美は、もうありませんからね」

 いっそ大人びた顔立ちなら、まだ衣装と方向性を揃えられた。

 だが可憐な顔立ちは、体型のイメージと正反対だ。

 顔立ちにあわせるか、体型に合わせるかで、仕立師は苦心しているようだった。

 マーメイドドレスをシトラスは嫌がるが、この体型だといっそそれを前面に出す方が自然になる。

 隠そうとすると違和感が付きまとい、ぬぐい去ることが難しい。

 可憐な服も、もう望めない。結局チグハグは避けられない。

「だがシトラスの自己申告では、十五歳で打ち止めだ。
 年を取れば、少しは可憐なイメージも抜けるだろう」

「ダヴィデ殿下、いつから会ってないんだっけ?」

「昨年に開かれた、お嬢様の誕生祝賀会が最後ですね。
 一年以上経過しています。
 あの頃とは体型がかなり変わっていますし、これで幻滅してくれると良いのですが」

 アンリが考えこみながら告げる。

「殿下はシトラスにぞっこんだ。幻滅などはしないだろう。
 そんなシトラスにきっぱりと断られて、目を覚ましてほしい所だな」

 ファウストが改めてメモを見ながら、しみじみとつぶやく。

「アンリ様、この凶悪な身体と毎日寝てるの? なんでそれで手を出さないの?」

「手を出して子供が出来たら、シトラスが聖玉を作りかねない。
 その問題が片付くまで、手を出す気はない」

 それを聞いて、ファウストとレナートが神妙な顔になった。

「まだ打開策は見つからないの?」

「父上たちが奔走ほんそうしている。必ず解決策はあると信じている」

「あれ以来、お嬢様の心は安定しています。
 アンリ様と一緒に寝ることが、良い方向に作用しているのでしょう。
 今のままなら、時間は稼げるはずです」

 アンリがふっと微笑んだ。

「私と寝れば、悪夢を見ないらしいからな。
 その安心感が強いのだろう。
 やはりあの悪夢はシトラスをむしばんでいたのだと思う。
 もしかすると前回の人生で、魔神がシトラスに干渉したのかもな」

 ファウストとレナートが眉をひそめた。

「どういうこと?」

「聖神様が時間を巻き戻す時、魔神がシトラスに置き土産を残したんじゃないか?
 魔神からしたらもう一度封印されるなど、なんとしても阻止したいだろうからな。
 だからシトラスが今回も失敗するように、悪夢の種を仕込んだ――それこそが、異物の正体じゃないかと思う」

「……充分考えられますね。
 魔神も神であるなら、聖神様に対抗する力くらいはあってもおかしくない。
 今後も気を付けていきましょう」
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