外国人御曹司と結婚を前提にお付き合いすることになりました。が、

ミネ

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久しぶりのマンションに帰ると瀧は静かにリビングのドアを開けた。ヒューは今までに見たことのないほど沈痛な面持ちをしてソファに腰掛けていた。

「ヒュー、ただいま」

瀧は気丈に振る舞い、まるでいつも通りにここに帰ってきたかのように声を掛けた。

「‥瀧」

暗く沈んだ声に顔を見ればヒューの青い瞳には大きな悲しみが浮かんでいて瀧のうわべの笑みはすぐに消えた。
この部屋を支配している薄くて冷たい膜は今にも破れて瀧の体温を奪い去ってしまいそうだ。

重苦しい空気と不穏な予感を感じ取った瀧は自分の思いを伝えてこの流れを断ち切ろうと口を開こうとした。またいつものような二人に戻りたかったし、戻れると思った。

「ヒュー、‥あの」


「───瀧、婚約を解消してほしい」

はっきりとした声が部屋に響いた。強いその声にヒューの明確な意思が伝わってくる。

「時間が欲しいんだ。もし、実家に戻るのが辛いならここにこのまま住んで構わない」

一瞬、瀧はヒューの言葉が理解できず奇妙な間が空いた。

「‥ヒューは?」

「私は別のところに住まいを探すよ」

「俺は、‥‥ヒューと一緒に住みたい」

願うように瀧はヒューを見つめるがヒューの美しい青い瞳はこちらを見なかった。

「ごめん、瀧。私は‥瀧と一緒に暮らす自信がない」


足元がくらりと揺れた気がした。そのまま真っ逆さまにどこか暗い深い穴に落ちて行ってしまいそうな絶望感。

けれどもう一度瀧から縋って一緒に暮らして欲しいとは言えなかった。瀧の小さく頑ななプライドが喉に詰まってそれ以上の言葉を堰き止めた。

瀧は誰かに握りつぶされて潰れてしまいそうな喉に力を入れて声を絞り出した。

「俺は‥‥、実家いえに帰るから大丈夫。ここにあるものは全部捨てて」

「瀧、その───‥‥いや」

何かを言いかけたヒューはそのまま言葉を飲むと黙り込んでしまった。

瀧はしばらくヒューの言葉を待ったが、もうヒューが何も瀧に掛ける言葉がないと分かると感情のない別れの言葉を一言告げて部屋を出た。

何度となく行き来した慣れた駅までの道を歩きながら、ぼんやりとした頭で瀧は考える。もっと本当は何か言えたのだろうか。ヒューはあの時何を言おうとしたのだろうか。どうしたら前の二人に戻れるのだろうか。


答えは見つからず、時間だけが過ぎた。
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