10 / 24
第2章:夫の愛人と親友になりましたわ
2-6
しおりを挟む
やがて夜も更け、ソフィアが「どうか今夜は早めにおやすみくださいませ」と灯りを落とした。わたくしはベッドへ入り、天蓋を見上げながら今日の出来事を振り返る。
リリア様の笑顔、彼女が見せた涙、そしてアルベルト様の優しい視線……。普通であれば“許せない三角関係”になってもおかしくない状況なのに、不思議とわたくしは落ち着いている。それどころか「もっと彼女と仲良くなれるかも」と前向きに考えているのだから、周囲から見れば奇妙に映るかもしれない。
けれど、当事者であるわたくしにとっては、これがいちばん理想的な形なのだ。王太子という存在に縛られず、でも国のために最低限の役目は果たす。そして、愛し合う二人を勝手に応援して、自分は“自分の幸せ”に集中する。こんなにもシンプルで平和な結婚生活があるなんて、少し前までは想像もしなかった。
「いいわね……こういうのを世間では“白い結婚”と呼ぶのかしら。お互いに干渉しないで、でも公的には夫婦として振る舞う……。ふふ、本当に最高ですわ」
そう呟きながら、わたくしはまぶたを閉じる。挙式はまだ終わっていないが、すでにわたくしの心は軽やかで、未来への期待に満ちている。
リリア様と友達になれそうだという喜びまで加わり、この夜の寝つきは驚くほど良かった。公爵家の柔らかな寝具に沈み込むと、あっという間に深い眠りへと落ちていった。
翌朝、わたくしはいつもどおり起床し、母のもとへ顔を出す。すると母は「今日もあちこちから贈り物が届いているわ。お礼状を書かなくてはいけないので、少し手伝ってちょうだい」と仰る。結婚間近の王太子妃候補には、国内外から多種多様な贈り物や祝辞が寄せられており、その対処はまるで洪水のようだ。
わたくしは嫌とは言えない立場なので、「わかりましたわ」と素直に応じ、机に向かって礼状を書き始める。実に退屈な作業だが、これもあと少しの辛抱。挙式が終わりさえすれば、わたくしの宮廷生活はリリア様のおかげでかなり気楽になるだろう……と考えると、自然とペンが進む。
その後、母が用意したカタログや布地のサンプルを確認し、ドレスの細部を最終チェックする。どんなレースをあしらうか、袖のデザインはどうするか、ベールの形はどうするか……普段のわたくしなら、こうしたことに目を凝らすだけで疲れ切ってしまうが、今日に限っては「まあ、人生で一度きりの大舞台ですものね」と割り切って取り組むことにした。
やはり、心の余裕が違うのだ。アルベルト様がリリア様を愛していることを堂々と認め、わたくしと衝突するつもりがない。それを思うと、“王妃”という肩書きも悪くないかもしれないと思えてくるから不思議である。
こうしてわたくしは、公爵家の娘としての最期の数日を、慌ただしくも高揚感を抱きながら過ごしていた。次に控えるは、いよいよ国家的な大イベントである「王太子殿下と公爵令嬢の結婚式」。王宮での壮麗な儀式と、貴族社会を巻き込んだ祝賀の宴会が待っている。
そのとき、わたくしの脳裏には既に「挙式が終わったら、すぐにでもリリア様とお茶会を開きたい」という考えがあった。紅茶の飲み比べをしてみるのもいいし、城下町でお菓子を買いに行くのも楽しそうだ。王妃として出歩くには多少の警備が必要だが、アルベルト様が公務で忙しいときなら、わたくしとリリア様が連れ立って散策するのも可能かもしれない。
もはや、わたくしの結婚生活は“夫”よりも“夫の恋人”との交際のほうが、よほど潤いに満ちている未来が思い描けてしまう。これが世間の常識から外れているとしても、当事者が全員ハッピーなら何の問題もないではないか。そう思えば、わたくしは気分が晴れ晴れとしてくる。
そして数日後。わたくしとアルベルト様の盛大な結婚式が、華やかに執り行われることになる。
その顛末はまた次の章で詳しく綴るとして——。とにもかくにも、結婚を前にわたくしと“夫の愛人”であるリリア様は、すっかり友達のように打ち解けることに成功したのだ。
まさに、「夫の愛人と親友になりましたわ」という突拍子もない展開が、この王国の王宮で密かに進行中である。世間の人々は誰も知る由もないが、わたくしとリリア様は新しい友情を育み始めていた。アルベルト様には少々複雑な心境かもしれないが……わたくしたち二人の女性は、そんなこともお構いなしに盛り上がるのだった。
わたくしの“白い結婚”は、自由気ままな王妃生活へと向けて、一歩ずつ準備が整っていく。リリア様と一緒にお茶を楽しむ未来を思い描きながら、わたくしは今日も笑顔を浮かべていた——。
リリア様の笑顔、彼女が見せた涙、そしてアルベルト様の優しい視線……。普通であれば“許せない三角関係”になってもおかしくない状況なのに、不思議とわたくしは落ち着いている。それどころか「もっと彼女と仲良くなれるかも」と前向きに考えているのだから、周囲から見れば奇妙に映るかもしれない。
けれど、当事者であるわたくしにとっては、これがいちばん理想的な形なのだ。王太子という存在に縛られず、でも国のために最低限の役目は果たす。そして、愛し合う二人を勝手に応援して、自分は“自分の幸せ”に集中する。こんなにもシンプルで平和な結婚生活があるなんて、少し前までは想像もしなかった。
「いいわね……こういうのを世間では“白い結婚”と呼ぶのかしら。お互いに干渉しないで、でも公的には夫婦として振る舞う……。ふふ、本当に最高ですわ」
そう呟きながら、わたくしはまぶたを閉じる。挙式はまだ終わっていないが、すでにわたくしの心は軽やかで、未来への期待に満ちている。
リリア様と友達になれそうだという喜びまで加わり、この夜の寝つきは驚くほど良かった。公爵家の柔らかな寝具に沈み込むと、あっという間に深い眠りへと落ちていった。
翌朝、わたくしはいつもどおり起床し、母のもとへ顔を出す。すると母は「今日もあちこちから贈り物が届いているわ。お礼状を書かなくてはいけないので、少し手伝ってちょうだい」と仰る。結婚間近の王太子妃候補には、国内外から多種多様な贈り物や祝辞が寄せられており、その対処はまるで洪水のようだ。
わたくしは嫌とは言えない立場なので、「わかりましたわ」と素直に応じ、机に向かって礼状を書き始める。実に退屈な作業だが、これもあと少しの辛抱。挙式が終わりさえすれば、わたくしの宮廷生活はリリア様のおかげでかなり気楽になるだろう……と考えると、自然とペンが進む。
その後、母が用意したカタログや布地のサンプルを確認し、ドレスの細部を最終チェックする。どんなレースをあしらうか、袖のデザインはどうするか、ベールの形はどうするか……普段のわたくしなら、こうしたことに目を凝らすだけで疲れ切ってしまうが、今日に限っては「まあ、人生で一度きりの大舞台ですものね」と割り切って取り組むことにした。
やはり、心の余裕が違うのだ。アルベルト様がリリア様を愛していることを堂々と認め、わたくしと衝突するつもりがない。それを思うと、“王妃”という肩書きも悪くないかもしれないと思えてくるから不思議である。
こうしてわたくしは、公爵家の娘としての最期の数日を、慌ただしくも高揚感を抱きながら過ごしていた。次に控えるは、いよいよ国家的な大イベントである「王太子殿下と公爵令嬢の結婚式」。王宮での壮麗な儀式と、貴族社会を巻き込んだ祝賀の宴会が待っている。
そのとき、わたくしの脳裏には既に「挙式が終わったら、すぐにでもリリア様とお茶会を開きたい」という考えがあった。紅茶の飲み比べをしてみるのもいいし、城下町でお菓子を買いに行くのも楽しそうだ。王妃として出歩くには多少の警備が必要だが、アルベルト様が公務で忙しいときなら、わたくしとリリア様が連れ立って散策するのも可能かもしれない。
もはや、わたくしの結婚生活は“夫”よりも“夫の恋人”との交際のほうが、よほど潤いに満ちている未来が思い描けてしまう。これが世間の常識から外れているとしても、当事者が全員ハッピーなら何の問題もないではないか。そう思えば、わたくしは気分が晴れ晴れとしてくる。
そして数日後。わたくしとアルベルト様の盛大な結婚式が、華やかに執り行われることになる。
その顛末はまた次の章で詳しく綴るとして——。とにもかくにも、結婚を前にわたくしと“夫の愛人”であるリリア様は、すっかり友達のように打ち解けることに成功したのだ。
まさに、「夫の愛人と親友になりましたわ」という突拍子もない展開が、この王国の王宮で密かに進行中である。世間の人々は誰も知る由もないが、わたくしとリリア様は新しい友情を育み始めていた。アルベルト様には少々複雑な心境かもしれないが……わたくしたち二人の女性は、そんなこともお構いなしに盛り上がるのだった。
わたくしの“白い結婚”は、自由気ままな王妃生活へと向けて、一歩ずつ準備が整っていく。リリア様と一緒にお茶を楽しむ未来を思い描きながら、わたくしは今日も笑顔を浮かべていた——。
1
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』
ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。
だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。
「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」
王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、
干渉しない・依存しない・無理をしない
ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。
一方、王となったアルベルトもまた、
彼女に頼らないことを選び、
「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。
復縁もしない。
恋にすがらない。
それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。
これは、
交わらないことを選んだ二人が、
それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。
派手なざまぁも、甘い溺愛もない。
けれど、静かに積み重なる判断と選択が、
やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。
婚約破棄から始まる、
大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー
記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる
きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。
穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。
——あの日までは。
突如として王都を揺るがした
「王太子サフィル、重傷」の報せ。
駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。
※本作品は別サイトにて掲載中です
第一王子様が選んだのは、妹ではなく私でした!
睡蓮
恋愛
姉妹であるクレアとミリア、しかしその仲は決していいと言えるものではなかった。妹のミリアはずる賢く、姉のクレアの事を悪者に仕立て上げて自分を可愛く見せる事に必死になっており、二人の両親もまたそんなミリアに味方をし、クレアの事を冷遇していた。そんなある日の事、二人のもとにエバー第一王子からの招待状が届けられる。これは自分に対する好意に違いないと確信したミリアは有頂天になり、それまで以上にクレアの事を攻撃し始める。…しかし、エバー第一王子がその心に決めていたのはミリアではなく、クレアなのだった…!
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
その婚約破棄、卒業式では受け付けておりません
柊
ファンタジー
卒業パーティの最中、第一王子アデルは突如として婚約者クラリッサに婚約破棄を宣言する。
いわゆる『公開断罪』のはずだった。
しかし、周囲は談笑を続け、誰一人としてその茶番に付き合おうとしない。
困惑する王子と令嬢たちの前に立ったのは……。
※複数のサイトに投稿しています。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる