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第3章:王太子妃となる日はあっさりと、しかし盛大に訪れましたわ
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扉がゆっくりと開かれ、視界に広がったのは絵画のように美しい光景だった。
大聖堂の奥には祭壇があり、そこには信仰の象徴たる聖職者が厳かに立っている。祭壇を囲むように左右には数多くの椅子が並べられ、すでに国内外の要人たちが着席していた。ドーム状の天井からはステンドグラス越しの柔らかな光が降り注ぎ、白を基調とした大理石の床がきらきらと輝いている。その中央の道――“バージンロード”を、わたくしは一歩一歩進んでいくのだ。
両側から注がれる視線はまさに圧巻。貴族や要人たちは皆、興味津々といった様子でわたくしを見つめてくる。中にはため息を漏らす者や、涙ぐんでいるご婦人もいる。何しろ、王国の未来を担う王太子がついに婚礼を挙げるのだから、ここにいる誰もが“歴史的瞬間”を目にしていると感じているのだろう。
そして祭壇の手前、そこには王太子――つまり、今日の新郎であるアルベルト様が、抜かりのない礼装に身を包んで佇んでいた。艶やかな王太子衣装は紺を基調に金糸で飾りが施され、王族としての威厳を放っている。背筋を伸ばし、正面を見据える姿はまるで絵に描いたような貴公子だ。
そのアルベルト様が、わたくしの姿を認めると、すっと表情を和らげて会釈した。ここからは式の進行に従い、わたくしは彼の横へ立ち、聖職者の祝福を受けることになる。まばゆい視線を受けながら進み、やがて祭壇の前でアルベルト様と並んだ。そうして聖職者からの問いかけに、互いに“はい”と答える――いわゆる「永遠の愛を誓う」儀式が行われる。
「それでは、神聖なる結びつきのもとに、王太子殿下アルベルト・エルウィン様、そしてヴェルディ公爵家令嬢ルチアーナ・ヴェルディ様。あなた方は、この国を守り、人々を導いていく尊い契りを結ばれますか?」
厳かな声が大聖堂の天井に響き渡る。わたくしは内心「本当は愛などないんですけれどね」と苦笑しそうになったが、もちろん表には出さない。予定通り、アルベルト様は力強く「はい、誓います」と答え、それに続いてわたくしも優雅に微笑み、「はい、誓います」とはっきり声を出す。
すると会場に詰めかけた列席者たちが、一斉に「おお……!」というどよめきをあげた。周囲からは拍手と、祝福の声が渦巻いている。まるで一つの巨大な舞台劇のクライマックスを迎えたかのようだ。
こうして、わたくしたちは正式に夫婦となった。王太子アルベルトと王太子妃ルチアーナ――国王陛下や列席者たちも、これを堂々と認める。
わたくしは一礼して祭壇を振り返る。正面席には国王陛下と王妃陛下が並んでいて、笑顔でわたくしたちに拍手を送ってくださっていた。国王陛下はすでに高齢だが、さすがの威厳で場を支配し、王妃陛下も穏やかなまなざしを向けている。二人とも、アルベルト様の婚礼を心から祝している様子だ――もっとも、リリア様の存在は「知らないのか、あるいは知っていても黙認しているのか」わたくしにはわからないが。いずれにせよ、今こうして目に映る光景は“幸せいっぱいの祝福”に満ちていた。
その後、式の流れに従い、わたくしたちは大聖堂を後にして王宮の大広間へ移動する。そこでは、これまた絢爛豪華な祝宴が始まる。国中から集められた美酒、美食が振る舞われ、楽団が華やかな調べを奏でる。その中で、わたくしとアルベルト様は“新郎新婦”として来賓の挨拶に応じ、一緒に乾杯の音頭を取り、時には舞踏会さながらのダンスに加わることになる。
普通なら“幸せの絶頂”にある新妻として、胸をときめかせながら盛り上がるのが定石だが、わたくしの本心は「面倒行事の連続、早く終わってほしい」といったところだ。あまりにも目立ちすぎる場で、立ち居振る舞いを失敗しないように気を遣うのは、やはり疲れる。しかし今日は“初仕事”みたいなもの。しっかりやり遂げれば、その分だけ周囲に「やはりヴェルディ公爵令嬢は王太子妃にふさわしい」と思わせられるというものだ。そうなれば、以降は多少わたくしが気ままな言動をとっても、批判されにくくなるはずである。
——そうして続く祝宴の最中、予定通り来賓への挨拶や、形式的なダンスの相手をいくつかこなしていた頃。
あるとき、隣に立っていたアルベルト様がわたくしにそっと耳打ちしてきた。
「ルチアーナ、すまない。少しの間、席を外していいだろうか。急ぎで話したい者がいるらしくてな……」
「まあ、構いませんわよ。わたくし一人でも挨拶を受けておけばよいのですから。あなたは王太子としてお忙しいでしょうし」
大聖堂の奥には祭壇があり、そこには信仰の象徴たる聖職者が厳かに立っている。祭壇を囲むように左右には数多くの椅子が並べられ、すでに国内外の要人たちが着席していた。ドーム状の天井からはステンドグラス越しの柔らかな光が降り注ぎ、白を基調とした大理石の床がきらきらと輝いている。その中央の道――“バージンロード”を、わたくしは一歩一歩進んでいくのだ。
両側から注がれる視線はまさに圧巻。貴族や要人たちは皆、興味津々といった様子でわたくしを見つめてくる。中にはため息を漏らす者や、涙ぐんでいるご婦人もいる。何しろ、王国の未来を担う王太子がついに婚礼を挙げるのだから、ここにいる誰もが“歴史的瞬間”を目にしていると感じているのだろう。
そして祭壇の手前、そこには王太子――つまり、今日の新郎であるアルベルト様が、抜かりのない礼装に身を包んで佇んでいた。艶やかな王太子衣装は紺を基調に金糸で飾りが施され、王族としての威厳を放っている。背筋を伸ばし、正面を見据える姿はまるで絵に描いたような貴公子だ。
そのアルベルト様が、わたくしの姿を認めると、すっと表情を和らげて会釈した。ここからは式の進行に従い、わたくしは彼の横へ立ち、聖職者の祝福を受けることになる。まばゆい視線を受けながら進み、やがて祭壇の前でアルベルト様と並んだ。そうして聖職者からの問いかけに、互いに“はい”と答える――いわゆる「永遠の愛を誓う」儀式が行われる。
「それでは、神聖なる結びつきのもとに、王太子殿下アルベルト・エルウィン様、そしてヴェルディ公爵家令嬢ルチアーナ・ヴェルディ様。あなた方は、この国を守り、人々を導いていく尊い契りを結ばれますか?」
厳かな声が大聖堂の天井に響き渡る。わたくしは内心「本当は愛などないんですけれどね」と苦笑しそうになったが、もちろん表には出さない。予定通り、アルベルト様は力強く「はい、誓います」と答え、それに続いてわたくしも優雅に微笑み、「はい、誓います」とはっきり声を出す。
すると会場に詰めかけた列席者たちが、一斉に「おお……!」というどよめきをあげた。周囲からは拍手と、祝福の声が渦巻いている。まるで一つの巨大な舞台劇のクライマックスを迎えたかのようだ。
こうして、わたくしたちは正式に夫婦となった。王太子アルベルトと王太子妃ルチアーナ――国王陛下や列席者たちも、これを堂々と認める。
わたくしは一礼して祭壇を振り返る。正面席には国王陛下と王妃陛下が並んでいて、笑顔でわたくしたちに拍手を送ってくださっていた。国王陛下はすでに高齢だが、さすがの威厳で場を支配し、王妃陛下も穏やかなまなざしを向けている。二人とも、アルベルト様の婚礼を心から祝している様子だ――もっとも、リリア様の存在は「知らないのか、あるいは知っていても黙認しているのか」わたくしにはわからないが。いずれにせよ、今こうして目に映る光景は“幸せいっぱいの祝福”に満ちていた。
その後、式の流れに従い、わたくしたちは大聖堂を後にして王宮の大広間へ移動する。そこでは、これまた絢爛豪華な祝宴が始まる。国中から集められた美酒、美食が振る舞われ、楽団が華やかな調べを奏でる。その中で、わたくしとアルベルト様は“新郎新婦”として来賓の挨拶に応じ、一緒に乾杯の音頭を取り、時には舞踏会さながらのダンスに加わることになる。
普通なら“幸せの絶頂”にある新妻として、胸をときめかせながら盛り上がるのが定石だが、わたくしの本心は「面倒行事の連続、早く終わってほしい」といったところだ。あまりにも目立ちすぎる場で、立ち居振る舞いを失敗しないように気を遣うのは、やはり疲れる。しかし今日は“初仕事”みたいなもの。しっかりやり遂げれば、その分だけ周囲に「やはりヴェルディ公爵令嬢は王太子妃にふさわしい」と思わせられるというものだ。そうなれば、以降は多少わたくしが気ままな言動をとっても、批判されにくくなるはずである。
——そうして続く祝宴の最中、予定通り来賓への挨拶や、形式的なダンスの相手をいくつかこなしていた頃。
あるとき、隣に立っていたアルベルト様がわたくしにそっと耳打ちしてきた。
「ルチアーナ、すまない。少しの間、席を外していいだろうか。急ぎで話したい者がいるらしくてな……」
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