王太子妃の器ではないと言われましたが、帝国の未来そのものでした

鍛高譚

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13話

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仮祝宴へ向けての準備

 そんな中、フローラには近々行われる「仮祝宴」のために、ドレスやアクセサリーを準備するという大切な役目が課せられた。といっても、ほとんどは宮廷の仕立て屋や宝石商が手配してくれるのだが、最終的にどの衣装を選ぶか、どんなデザインを好むかはフローラの意思が尊重される。
 王国にいた頃は、継母や異母妹に好き勝手に決められ、フローラの好みが反映されることなどほとんどなかった。それを思うと、こうして自由に選べる環境は嬉しくもあり、同時にまごついてしまう。
「えっと……この生地、とても綺麗ですね。でも、こちらの淡い色合いも素敵ですし……どうしましょう」
 サロンのような部屋で、侍女や仕立て屋たちに囲まれながら、フローラは目移りしていた。クラウスが「好きなものを選べばいい」と言っていたが、あまり派手過ぎても……と考えると迷いが尽きない。
 すると、そこへ軽やかな足音が響いたかと思うと、聞き慣れた低い声がかかる。
「どれがいいか決まったか?」
「……クラウス様?」
 意外なことに、本人がひょっこりと現れたのだ。騎士団の制服姿のまま、どうやら何か用事の合間に様子を見に来たらしい。周囲の者たちが慌てて一礼するのをよそに、クラウスはさらりとフローラの隣に立って布を手に取った。
「ふむ……こっちの色の方が、お前の髪や瞳には合うんじゃないか? それに、こっちは派手すぎるだろう」
「え……でも、私みたいな地味な人間が、あまり淡い色を着ても映えないんじゃ……」
 自分の容姿に自信がないフローラは、そう遠慮がちに返す。しかしクラウスは、まるで否定するように首を横に振った。
「そんなことはない。お前は姿形が繊細だから、やたらと鮮烈な色より、淡い色の方が魅力が生きると思うぞ。それに、もし華やかさが足りないなら、宝石で飾ればいい」
 ストンと落ちるような、確信をもった口調。フローラは思わず顔が熱くなる。
「私のこと、そんなに見て……いや、あの、すみません。私なんかが……」
「謝るな。俺がお前を見て何が悪い。――それより、仮祝宴ではお前が主役だ。目立ってこそ意味があるだろう? 遠慮などいらんさ」
 まるで「もっと堂々としていろ」と言わんばかりの言葉に、フローラは恥ずかしさと嬉しさを同時に味わう。
 仕立て屋や侍女たちも、「殿下がお勧めになるなら、ぜひそうなさいませ」と押してくる。結果的に、フローラは淡いラベンダー色の生地に繊細な銀糸を織り込み、胸元や袖口に控えめなレースをあしらったドレスを選ぶことに決めた。
 宝石は、ラベンダーや銀との相性を考え、ほんのり紫がかったアメジストと透明感のある水晶を中心に飾ることで、気品ある輝きを演出できるらしい。まるでクラウスが言うように「フローラの雰囲気に合わせた」仕上がりになるとのことだ。

 それらの相談を終えると、いつの間にか夕暮れの時間が近づいていた。クラウスは他の用事もあるらしく、途中で部屋を出て行ったが、去り際に「よく似合いそうだな。楽しみにしてる」と微笑んで言い残す。
(楽しみにしてる――ですって……)
 その言葉がずっと耳に残り、フローラの胸をどこか甘酸っぱい気持ちが満たしていく。敵国の皇太子でありながら、自分をここまで大切に思ってくれる人がいるなんて、かつては想像もできなかった。
 一方で、自分が彼にふさわしい存在なのかという不安は消えない。だが、ここで弱音を吐いてばかりでは申し訳ない――ほんの少しでも、自分にできる努力をしよう。そう思い、フローラはドレス選びで感じた喜びを心の支えに、明日以降の準備に身を引き締めた。
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