王太子妃の器ではないと言われましたが、帝国の未来そのものでした

鍛高譚

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15話

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再び踊る円舞、そして感じる幸せ

 舞踏の間へ足を踏み入れると、すでに集まっていた貴族たちや重臣たちの視線が、一気にフローラへと集中する。緊張で体がこわばりそうになるが、クラウスの腕の温もりが支えになる。
 まずは皇帝が簡単な挨拶を述べ、続いてクラウスが「フローラ・フォン・リヴェールこそ、これより我が妃となる娘だ」と紹介した。その言葉に、周囲はざわめきながらも拍手を送り、フローラは少し安心する。
 その後は立食の形で、軽く飲食を交えながら談笑する場が設けられた。フローラのところへも、様々な人が挨拶に来る。
「殿下のお心に留まるとは、さぞかし素晴らしい才をお持ちなのですね」
「遠慮なく、ラグナ帝国を第二の故郷と思っていただければ」
 一方で、「王国の人間など信用ならない」と言わんばかりの鋭い視線を投げる者も、ちらほら見受けられる。フローラは苦笑しながらも、心中で「それも当然かもしれない」と納得した。
(そもそも王国とラグナ帝国は、長年にわたり対立関係にあったのだもの。簡単に打ち解けられるわけがない……)
 だが、そういった厳しい反応は予想よりずっと少ない。おそらく、皇帝やクラウスの後押しが大きいのだろう。
 やがて音楽隊が演奏を始め、貴族たちがダンスの輪を作り始めた。クラウスはすかさずフローラの手を取り、にやりと笑ってみせる。
「踊ろうか、フローラ。お前のステップ、まだ見たことがないからな」
「え……あの……わたし、それほど上手くは……」
 王国では、夜会で踊る機会はあったが、アルベルトは常にカトリーナを選び、フローラを誘わなかった。だからこそ、実際に男性とペアを組んで踊る場面は少なく、得意かどうかすら分からないのだ。
 しかしクラウスは、「ならちょうどいい。俺がリードしてやる」と言わんばかりの勢いで、フローラをダンスフロアへと導いた。
 曲が始まり、クラウスが手を軽く添えてくる。その指先から伝わる熱量に、フローラは思わず息が詰まる。
「大丈夫。俺に任せろ」
 クラウスの声とともに足を踏み出すと、思いのほか自然に体が動き始める。王国で習ったステップは形式的なものだったが、相手のリードがしっかりしているおかげで、スムーズに流れに乗ることができた。
 初めは固さがあったものの、次第に緊張が解けていく。耳に響く優雅な旋律、クラウスの腕の中で回転する感覚――まるで自分が空を舞う小鳥になったかのように、心地よい浮遊感がフローラを包む。
 王国での辛い夜会の記憶が鮮明に蘇る。アルベルトはカトリーナと踊り、フローラは孤独を抱えて見守るしかなかった。だが、今は違う。踊っているのは自分だし、隣にいるのは誰よりも頼もしい皇太子。
 ふと、フローラの瞳から熱いものがこぼれそうになる。苦しかった過去と、今ここにある幸せの対比が、あまりにも強烈だからだ。
「フローラ……?」
 クラウスが怪訝そうに呼びかけるが、フローラは必死に微笑を作る。ここで涙を流すわけにはいかない。
「す、すみません……踊っていて、なんだか胸がいっぱいになって……」
 それを聞いたクラウスは、一瞬驚いたような表情を浮かべ、すぐに柔らかな笑みを返す。
「そうか。ならいい。――これからは、お前が望むだけ何度でも踊れるぞ。俺がその相手をしてやる」
 その言葉が、どれほどフローラの心を救っただろう。彼女はわずかに唇を噛み、必死で泣きそうになるのをこらえながら頷いた。

 やがて曲が終わり、二人は息を整える。周囲からは拍手が起こり、フローラは照れながらクラウスの肩から手を外した。
「ありがとう……ございました。とても……嬉しかったです」
「俺もな。お前の踊り、もっと見たいと思った。近いうちにまた別の舞曲も踊ろう」
 視線を絡ませたまま微笑み合う二人の様子は、まさに「溺愛される皇太子妃候補」と「その相手に惚れ込んでいる皇太子」そのものだった。
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