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23話
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特使団の到着、そして予想外の展開
数日後、ラグナ帝国の首都 グラナート には、王国の特使団到着の報が伝えられた。
皇宮の外で待機していた帝国の衛兵や案内役が、王国の特使を迎え入れる。彼らは豪奢な衣装を身にまとっているが、その顔には明らかな疲労と緊張がにじんでいた。
「遠路お疲れであった。お前たちはこれより皇宮内に通されることになるが、陛下のご許可が下りるまで、しばし控えの間で待機願いたい」
淡々と告げる帝国側の係官の態度は、礼儀正しいがどこか冷ややかだ。王国の特使たちは、その扱いに苛立ちを覚えつつも、どうにか笑みを保とうと努力する。
特使団の中心には、リヴェール公爵の姿があった。彼は長旅でくたびれていながらも、威厳を保つために懸命に背筋を伸ばしている。
(何としてでも、今回の交渉を有利に進めなくては……。ラグナ帝国だろうと、こちらには王族と貴族の威光があるんだ。簡単に侮られたままで終わるわけにはいかない)
そんな思いを胸に、彼は周囲を睥睨する。しかし同時に、フローラの存在が脳裏をちらついて離れない。もし本当にフローラが皇太子妃として認められているのだとすれば、自分たちが優位に立てる可能性もある。だが、何も分からないままここまで来てしまった。
やがて、準備が整ったらしく、特使団は皇宮内の謁見の間へ案内される。豪奢な造りの廊下を進み、荘厳な扉をくぐると、その奥にはすでに ラグナ帝国の皇帝 が鎮座していた。
その隣、ほんの少し後ろの席――おそらくは皇太子の定位置であろう場所には、クラウスの姿もある。
特使団は帝国の慣例に則って膝をつき、まずは国王夫妻からの親書を提出する。すると、皇帝はそれを無言で受け取り、軽く目を通した後、淡々とした声で言い放つ。
「――お前たちは、王国を代表して和平を求めるために来たのだな?」
公爵を含めた特使たちは、少し迷いつつも肯定するしかない。国王夫妻や王太子の名において、ラグナ帝国との平和的な関係を望む――と書かれた親書がある以上、それ以外の選択肢はない。
しかし、その反応があまりにも素っ気なく、特使の面々は居心地の悪さを感じる。一歩間違えれば、このまま突っぱねられそうな空気すら漂っていた。
そんな中、クラウスが口を開く。
「王国は、先日まで我々を侮り続けていたと聞く。にもかかわらず、ここへ来た理由はただひとつ――『自分たちが危なくなったから助けてほしい』ということだろう?」
冷酷とも言える指摘だが、事実なだけに特使たちは反論できない。口ごもっていると、クラウスはさらに続ける。
「我が父、皇帝陛下は寛大だ。今ここで即座に交渉を打ち切るような無益なことはしない。……だが、条件次第ではこちらも対応を考えざるを得ない。その辺りは理解しているか?」
明らかにこれは「ラグナ帝国が圧倒的に優勢な立場である」ことを見せつける発言だ。特使たちは焦りを隠せない。
そこで、リヴェール公爵が意を決して前に進み出る。
「恐れながら、陛下と皇太子殿下に申し上げます。我々王国は、真にラグナ帝国との友好を望んでおります。かつては行き違いがありましたが、今こそ両国の協力を深めるべきではないでしょうか。……その証として、わたくし共の家からも捧げられるものがあるかもしれません。例えば――」
そこで、一瞬言葉を切る公爵。意を決して放とうとしている言葉は、おそらく「フローラに関する何か」だろう。彼には「フローラはもう用済みだが、もし彼女がこの宮廷で健在なら、その存在を交渉材料に使えるのでは」という打算がある。
しかし、彼が言葉を継ぐ前に、クラウスは面白そうに口を開いた。
「捧げられるもの……ね。そう言えば、お前たち王国は、かつて我々ラグナ帝国に『公爵令嬢』を送り込んできたそうだが――その娘の名を、確か フローラ・フォン・リヴェール と言ったな?」
その瞬間、公爵は明らかに動揺を見せる。
「――は、はい。フローラは……わたくしの娘でございますが、いまどうしておられるのでしょうか……?」
答える声は震えを含み、周囲の特使たちも「まさか本題はそこか」とざわめく。フローラは父親に捨てられたも同然だったことを知る者もいれば、そうでない者もいるが、「リヴェール公爵の令嬢がラグナ帝国の皇太子妃候補になっている」という噂を知らない者はいない。
クラウスは薄く笑い、立ち上がって言う。
「公爵、ちょうどいい。――今日は、お前たちに会いたいと言っている者がいる。少しばかり待て」
そう言って扉の方へ視線を送る。すると、そこから優雅な足取りで歩み出てきたのは――。
数日後、ラグナ帝国の首都 グラナート には、王国の特使団到着の報が伝えられた。
皇宮の外で待機していた帝国の衛兵や案内役が、王国の特使を迎え入れる。彼らは豪奢な衣装を身にまとっているが、その顔には明らかな疲労と緊張がにじんでいた。
「遠路お疲れであった。お前たちはこれより皇宮内に通されることになるが、陛下のご許可が下りるまで、しばし控えの間で待機願いたい」
淡々と告げる帝国側の係官の態度は、礼儀正しいがどこか冷ややかだ。王国の特使たちは、その扱いに苛立ちを覚えつつも、どうにか笑みを保とうと努力する。
特使団の中心には、リヴェール公爵の姿があった。彼は長旅でくたびれていながらも、威厳を保つために懸命に背筋を伸ばしている。
(何としてでも、今回の交渉を有利に進めなくては……。ラグナ帝国だろうと、こちらには王族と貴族の威光があるんだ。簡単に侮られたままで終わるわけにはいかない)
そんな思いを胸に、彼は周囲を睥睨する。しかし同時に、フローラの存在が脳裏をちらついて離れない。もし本当にフローラが皇太子妃として認められているのだとすれば、自分たちが優位に立てる可能性もある。だが、何も分からないままここまで来てしまった。
やがて、準備が整ったらしく、特使団は皇宮内の謁見の間へ案内される。豪奢な造りの廊下を進み、荘厳な扉をくぐると、その奥にはすでに ラグナ帝国の皇帝 が鎮座していた。
その隣、ほんの少し後ろの席――おそらくは皇太子の定位置であろう場所には、クラウスの姿もある。
特使団は帝国の慣例に則って膝をつき、まずは国王夫妻からの親書を提出する。すると、皇帝はそれを無言で受け取り、軽く目を通した後、淡々とした声で言い放つ。
「――お前たちは、王国を代表して和平を求めるために来たのだな?」
公爵を含めた特使たちは、少し迷いつつも肯定するしかない。国王夫妻や王太子の名において、ラグナ帝国との平和的な関係を望む――と書かれた親書がある以上、それ以外の選択肢はない。
しかし、その反応があまりにも素っ気なく、特使の面々は居心地の悪さを感じる。一歩間違えれば、このまま突っぱねられそうな空気すら漂っていた。
そんな中、クラウスが口を開く。
「王国は、先日まで我々を侮り続けていたと聞く。にもかかわらず、ここへ来た理由はただひとつ――『自分たちが危なくなったから助けてほしい』ということだろう?」
冷酷とも言える指摘だが、事実なだけに特使たちは反論できない。口ごもっていると、クラウスはさらに続ける。
「我が父、皇帝陛下は寛大だ。今ここで即座に交渉を打ち切るような無益なことはしない。……だが、条件次第ではこちらも対応を考えざるを得ない。その辺りは理解しているか?」
明らかにこれは「ラグナ帝国が圧倒的に優勢な立場である」ことを見せつける発言だ。特使たちは焦りを隠せない。
そこで、リヴェール公爵が意を決して前に進み出る。
「恐れながら、陛下と皇太子殿下に申し上げます。我々王国は、真にラグナ帝国との友好を望んでおります。かつては行き違いがありましたが、今こそ両国の協力を深めるべきではないでしょうか。……その証として、わたくし共の家からも捧げられるものがあるかもしれません。例えば――」
そこで、一瞬言葉を切る公爵。意を決して放とうとしている言葉は、おそらく「フローラに関する何か」だろう。彼には「フローラはもう用済みだが、もし彼女がこの宮廷で健在なら、その存在を交渉材料に使えるのでは」という打算がある。
しかし、彼が言葉を継ぐ前に、クラウスは面白そうに口を開いた。
「捧げられるもの……ね。そう言えば、お前たち王国は、かつて我々ラグナ帝国に『公爵令嬢』を送り込んできたそうだが――その娘の名を、確か フローラ・フォン・リヴェール と言ったな?」
その瞬間、公爵は明らかに動揺を見せる。
「――は、はい。フローラは……わたくしの娘でございますが、いまどうしておられるのでしょうか……?」
答える声は震えを含み、周囲の特使たちも「まさか本題はそこか」とざわめく。フローラは父親に捨てられたも同然だったことを知る者もいれば、そうでない者もいるが、「リヴェール公爵の令嬢がラグナ帝国の皇太子妃候補になっている」という噂を知らない者はいない。
クラウスは薄く笑い、立ち上がって言う。
「公爵、ちょうどいい。――今日は、お前たちに会いたいと言っている者がいる。少しばかり待て」
そう言って扉の方へ視線を送る。すると、そこから優雅な足取りで歩み出てきたのは――。
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