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第1章 望まぬ政略結婚
5話
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と、そのとき、庭の奥から執事らしき男性が姿を現し、アレクシスに声をかける。
「旦那様、失礼いたします。公爵閣下が『お時間が来たので、そろそろおいとまを…』と仰っております」
どうやら父ガイウスは、今夜は長居するつもりはなく、挨拶だけで切り上げたいらしい。リゼットはほっとしたような、名残惜しいような複雑な気持ちになる。
アレクシスは短くうなずき、「分かった。すぐに戻る」と答えると、もう一度リゼットに向き直った。
「また、近いうちにお目にかかれると嬉しいです。……もし不安や疑問があれば、どんなことでも構いませんから聞かせてください」
その言葉を残し、アレクシスは優雅に一礼する。リゼットもドレスの裾を軽くつまんでお辞儀を返した。彼の申し出に対する返答をどうするか——それは、これからゆっくりと考えていくしかないのだろう。
屋敷の外では、父と母がすでに馬車のそばで待っていた。ガイウス公爵はどこか得意げな顔をしているし、マリアは相変わらず微妙な表情を浮かべている。結局、両親はアレクシスとのやり取りを見て「上々だ」とでも思っているのだろう。
リゼットが最後にもう一度アレクシスに挨拶をすると、彼は静かに微笑んで言葉をかける。
「どうかお気をつけて、お帰りください。次の機会には、もっとゆっくりとお話しできますように」
そしてリゼットたちはシュヴァルツ侯爵家をあとにした。馬車が敷地を出て、夜道を走り始めると、父ガイウスが満足そうに口を開く。
「いやあ、やはりシュヴァルツ侯爵は噂に違わず優秀そうだ。あの広大な領地も手堅く治めているし、王宮でも評判がいい。リゼット、お前も何か言うことはないか?」
リゼットは曖昧に笑みを作り、「立派な邸宅でしたね」とだけ答えた。本音を言えば、彼の人柄はまだあまり分からない。けれども、少なくとも思っていたほど冷酷な印象ではなかった。むしろ、こちらを気遣う優しさを感じる場面が何度かあったのだ。
それが本心なのか、社交界で培った演技なのか、今はまだ判断がつかない。それでも、あれほど嫌だと思っていた政略結婚というものに、少しだけ光明が見えたような気がした。
しかし同時に、父や母の態度がどうにも気になる。確かにエヴァンティア家とシュヴァルツ家の縁組は得難い機会かもしれないが、なぜこんなにも急ぐのか。リゼットの意思をまったく考慮しないまま、話を決めてしまうほどに。
馬車がエヴァンティア公爵家に戻るまでの道のりで、リゼットはじっと車窓の外を見ながら、ただ沈黙を守った。父は上機嫌で延々とシュヴァルツ家の話をしているが、彼女の耳には半分も届いていない。
「旦那様、失礼いたします。公爵閣下が『お時間が来たので、そろそろおいとまを…』と仰っております」
どうやら父ガイウスは、今夜は長居するつもりはなく、挨拶だけで切り上げたいらしい。リゼットはほっとしたような、名残惜しいような複雑な気持ちになる。
アレクシスは短くうなずき、「分かった。すぐに戻る」と答えると、もう一度リゼットに向き直った。
「また、近いうちにお目にかかれると嬉しいです。……もし不安や疑問があれば、どんなことでも構いませんから聞かせてください」
その言葉を残し、アレクシスは優雅に一礼する。リゼットもドレスの裾を軽くつまんでお辞儀を返した。彼の申し出に対する返答をどうするか——それは、これからゆっくりと考えていくしかないのだろう。
屋敷の外では、父と母がすでに馬車のそばで待っていた。ガイウス公爵はどこか得意げな顔をしているし、マリアは相変わらず微妙な表情を浮かべている。結局、両親はアレクシスとのやり取りを見て「上々だ」とでも思っているのだろう。
リゼットが最後にもう一度アレクシスに挨拶をすると、彼は静かに微笑んで言葉をかける。
「どうかお気をつけて、お帰りください。次の機会には、もっとゆっくりとお話しできますように」
そしてリゼットたちはシュヴァルツ侯爵家をあとにした。馬車が敷地を出て、夜道を走り始めると、父ガイウスが満足そうに口を開く。
「いやあ、やはりシュヴァルツ侯爵は噂に違わず優秀そうだ。あの広大な領地も手堅く治めているし、王宮でも評判がいい。リゼット、お前も何か言うことはないか?」
リゼットは曖昧に笑みを作り、「立派な邸宅でしたね」とだけ答えた。本音を言えば、彼の人柄はまだあまり分からない。けれども、少なくとも思っていたほど冷酷な印象ではなかった。むしろ、こちらを気遣う優しさを感じる場面が何度かあったのだ。
それが本心なのか、社交界で培った演技なのか、今はまだ判断がつかない。それでも、あれほど嫌だと思っていた政略結婚というものに、少しだけ光明が見えたような気がした。
しかし同時に、父や母の態度がどうにも気になる。確かにエヴァンティア家とシュヴァルツ家の縁組は得難い機会かもしれないが、なぜこんなにも急ぐのか。リゼットの意思をまったく考慮しないまま、話を決めてしまうほどに。
馬車がエヴァンティア公爵家に戻るまでの道のりで、リゼットはじっと車窓の外を見ながら、ただ沈黙を守った。父は上機嫌で延々とシュヴァルツ家の話をしているが、彼女の耳には半分も届いていない。
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