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第1章 望まぬ政略結婚
3話
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やがて夕食の時間になると、立派な食堂に案内された。長いテーブルの上には上等なシルバーの食器が整然と並び、すでに食前のワインが用意されている。アレクシスは自らテーブルの中央に座り、来客であるリゼットたちを上座へ招いた。ガイウス公爵とマリアは楽しげに会話を交わしているが、リゼットはどこか居心地の悪さを感じてしまう。
アレクシスがさりげなく話を振ってくるものの、どれも当たり障りのない内容ばかりだ。庭園の手入れをどうしているかとか、最近の宮廷行事はどうだったかとか……。もっと踏み込んだ質問をぶつけてくれれば、こちらも答え甲斐があるのにとリゼットはもどかしく思う。
しかし、その会話の端々には、リゼットを気遣うような言葉も散見される。
「リゼット様、お料理はお口に合いますか? もし苦手なものがあれば遠慮なく申し付けてください」
「寒さが厳しい季節ですので、どうかお体にはお気をつけください。こちらの屋敷は暖炉も多く、温かく過ごせるよう工夫しております」
まるで彼女の好みや過ごしやすさを、事前に細かく調べていたかのような配慮だ。もっとも、社交界の礼儀としては珍しくない光景かもしれない。しかしリゼットは、今朝まで鬱々としていた自分の心を思うと、やや拍子抜けする気分でもあった。
食事が一段落したころ、アレクシスは小さく息を整え、真面目な表情で口を開く。
「エヴァンティア公爵閣下。先日は婚約のお話を快諾いただき、ありがとうございます。リゼット様のことは、私も大切にお迎えしたいと考えております」
父ガイウスは満足げにうなずきながら答える。
「いや、こちらこそ。リゼットは私たちの大切な娘だ。どうか末永くよろしく頼むよ」
リゼットは思わず視線を落とし、ナプキンを握りしめた。自分の意志がまったく尊重されていないようなこの流れに、何とも言えない息苦しさを覚える。そこへ母マリアがにこやかに口を挟んできた。
「リゼット、あなたもきちんとお礼を言いなさいな。こうして正式にお招きいただいたのですもの」
――私の気持ちは、どうなるの?
そう胸の内で叫びたくなりながらも、リゼットは渋々テーブルの下で拳を握る。結局は誰も、リゼット自身の望みを真剣に聞こうとしない。結婚話を受け入れる気持ちがないわけではないが、少なくとも「一方的に決まった」という感は否めない。
それでも、この場で思いをぶちまければ、かえって父と母が困るだけだ。それどころか、シュヴァルツ家にも悪い印象を与えてしまいかねない。自分の行動が両家の関係を損なう可能性があると考えると、踏みとどまるしかなかった。
「……お招きいただき、ありがとうございます。侯爵様のお気遣いに、感謝しております」
リゼットは小さく笑みを作ってそう告げる。アレクシスは神妙な面持ちでうなずき、ワイングラスを手にした。
そのまま和やか(に見える)夕食会が進み、やがてデザートが供されるころ、アレクシスはスマートに立ち上がって言う。
「リゼット様、せっかくですから少し庭園を散策しませんか? 私自身も、もう少しお話を伺えればと思いますので」
突然の申し出にリゼットは一瞬戸惑うが、ここで断るのも失礼だと思い、わずかに微笑んでから小さくうなずいた。
「……はい。よろしくお願いいたします」
その様子を見ていたガイウスとマリアは、意味深に視線を交わしている。彼らにとっては、この顔合わせの場がうまくいくほど望ましいことなのだろう。リゼットとしては、会話を通じてアレクシスの人となりを少しでも知る機会になるかもしれないと思い直し、立ち上がった。
アレクシスがさりげなく話を振ってくるものの、どれも当たり障りのない内容ばかりだ。庭園の手入れをどうしているかとか、最近の宮廷行事はどうだったかとか……。もっと踏み込んだ質問をぶつけてくれれば、こちらも答え甲斐があるのにとリゼットはもどかしく思う。
しかし、その会話の端々には、リゼットを気遣うような言葉も散見される。
「リゼット様、お料理はお口に合いますか? もし苦手なものがあれば遠慮なく申し付けてください」
「寒さが厳しい季節ですので、どうかお体にはお気をつけください。こちらの屋敷は暖炉も多く、温かく過ごせるよう工夫しております」
まるで彼女の好みや過ごしやすさを、事前に細かく調べていたかのような配慮だ。もっとも、社交界の礼儀としては珍しくない光景かもしれない。しかしリゼットは、今朝まで鬱々としていた自分の心を思うと、やや拍子抜けする気分でもあった。
食事が一段落したころ、アレクシスは小さく息を整え、真面目な表情で口を開く。
「エヴァンティア公爵閣下。先日は婚約のお話を快諾いただき、ありがとうございます。リゼット様のことは、私も大切にお迎えしたいと考えております」
父ガイウスは満足げにうなずきながら答える。
「いや、こちらこそ。リゼットは私たちの大切な娘だ。どうか末永くよろしく頼むよ」
リゼットは思わず視線を落とし、ナプキンを握りしめた。自分の意志がまったく尊重されていないようなこの流れに、何とも言えない息苦しさを覚える。そこへ母マリアがにこやかに口を挟んできた。
「リゼット、あなたもきちんとお礼を言いなさいな。こうして正式にお招きいただいたのですもの」
――私の気持ちは、どうなるの?
そう胸の内で叫びたくなりながらも、リゼットは渋々テーブルの下で拳を握る。結局は誰も、リゼット自身の望みを真剣に聞こうとしない。結婚話を受け入れる気持ちがないわけではないが、少なくとも「一方的に決まった」という感は否めない。
それでも、この場で思いをぶちまければ、かえって父と母が困るだけだ。それどころか、シュヴァルツ家にも悪い印象を与えてしまいかねない。自分の行動が両家の関係を損なう可能性があると考えると、踏みとどまるしかなかった。
「……お招きいただき、ありがとうございます。侯爵様のお気遣いに、感謝しております」
リゼットは小さく笑みを作ってそう告げる。アレクシスは神妙な面持ちでうなずき、ワイングラスを手にした。
そのまま和やか(に見える)夕食会が進み、やがてデザートが供されるころ、アレクシスはスマートに立ち上がって言う。
「リゼット様、せっかくですから少し庭園を散策しませんか? 私自身も、もう少しお話を伺えればと思いますので」
突然の申し出にリゼットは一瞬戸惑うが、ここで断るのも失礼だと思い、わずかに微笑んでから小さくうなずいた。
「……はい。よろしくお願いいたします」
その様子を見ていたガイウスとマリアは、意味深に視線を交わしている。彼らにとっては、この顔合わせの場がうまくいくほど望ましいことなのだろう。リゼットとしては、会話を通じてアレクシスの人となりを少しでも知る機会になるかもしれないと思い直し、立ち上がった。
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