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第1章 望まぬ政略結婚
4話
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使用人に促され、リゼットとアレクシスは並んで屋敷の外へ出る。広い夜空には白い月がかかり、冷たい風がほんの少し吹き抜ける。アレクシスはすかさず彼女にマントを差し出し、静かに微笑んだ。
「冷えますので、これをお使いください。サイズが合わないかもしれませんが……」
「いえ、ありがとうございます」
やや大きめのマントを受け取り、リゼットは肩を包む。こうした気遣いは彼の言う通り社交界では当たり前のことでもあるが、それにしては妙に手慣れているというか、自然すぎる。
二人で夜の庭を歩き始めると、白い石像や花壇が柔らかい灯火に照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出していた。秋が終わって冬へ向かう時期だけに、花壇の花はさほど多くないが、その代わり常緑樹がきれいに剪定されていて、アレクシスの言う「手入れが行き届いている」ことが一目でわかる。
少し歩いた後、アレクシスは穏やかな声で言った。
「今夜は急なお呼び立てをしてしまい、失礼しました。公爵閣下が『できるだけ早くお会いしたい』とのことでしたので、私も準備を進めた次第です」
リゼットは苦笑を浮かべながら答える。
「父はこういう話になると、とにかく物事を急ぎたがるのです。それでご迷惑をかけていないか、心配で……」
アレクシスはさりげなく首を横に振る。
「いえ、迷惑などではありません。リゼット様にお会いできる機会が早まったのは、むしろ私にとって喜ばしいことです。……ただ、お困りの様子に見えますね。もし何か不安があれば、遠慮なくおっしゃってください」
その問いかけに、リゼットは胸がドキリとした。まるで彼が自分の気持ちを察しているかのようだ。
「い、いえ……不安というか、ただ……まだ心の準備が追いついていないだけです。ご存知のとおり、これは両家の間で決められた婚約ですし……」
自分でも歯切れが悪いと感じながら、リゼットは曖昧に言葉を濁す。すると、アレクシスは少しだけ視線を下に落とし、低い声で答えた。
「政略結婚という形であることは、私も理解しています。ですが、私は形式だけの関係にするつもりはありません。もちろん、最初からお互いを深く理解しているわけではありませんが……時間をかけて、少しずつ知っていければと思っています」
それは冷淡というよりも、むしろ真剣な想いを込めた言葉だった。リゼットは意外に感じた。結婚前のこうした場では、愛の言葉よりも家同士の利害ばかりが飛び交うのが普通だ。だが、彼は自分の意思で「あなたを大切にしたい」というニュアンスを示そうとしている。
それでもリゼットは、まだ完全には納得できない。政略結婚が嫌だというわけではない。貴族として生まれた以上、程度の差はあれ同様の道を歩むであろうことは覚悟していた。ただ、こんなにも突然で、彼のことをほとんど知らないまま結婚するというのは、あまりに乱暴な話ではないだろうか。
沈黙が続きそうなところで、アレクシスはふっと微笑を浮かべる。先ほどまでの冷ややかな印象からは想像もつかないほど、穏やかな笑みだ。
「……夕食会を開いたのも、本当は形式的な意味より、こうして少しでもお話をする時間をつくりたかったからです。リゼット様を困惑させてしまったのなら、申し訳ない」
「いえ……」
謝罪されるほどのことではないが、リゼットもどう答えればいいのか分からなくなる。彼がこうして率直に話してくれるのはありがたいが、こちらも本心をすべてさらけ出せるほどの覚悟はまだない。
「冷えますので、これをお使いください。サイズが合わないかもしれませんが……」
「いえ、ありがとうございます」
やや大きめのマントを受け取り、リゼットは肩を包む。こうした気遣いは彼の言う通り社交界では当たり前のことでもあるが、それにしては妙に手慣れているというか、自然すぎる。
二人で夜の庭を歩き始めると、白い石像や花壇が柔らかい灯火に照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出していた。秋が終わって冬へ向かう時期だけに、花壇の花はさほど多くないが、その代わり常緑樹がきれいに剪定されていて、アレクシスの言う「手入れが行き届いている」ことが一目でわかる。
少し歩いた後、アレクシスは穏やかな声で言った。
「今夜は急なお呼び立てをしてしまい、失礼しました。公爵閣下が『できるだけ早くお会いしたい』とのことでしたので、私も準備を進めた次第です」
リゼットは苦笑を浮かべながら答える。
「父はこういう話になると、とにかく物事を急ぎたがるのです。それでご迷惑をかけていないか、心配で……」
アレクシスはさりげなく首を横に振る。
「いえ、迷惑などではありません。リゼット様にお会いできる機会が早まったのは、むしろ私にとって喜ばしいことです。……ただ、お困りの様子に見えますね。もし何か不安があれば、遠慮なくおっしゃってください」
その問いかけに、リゼットは胸がドキリとした。まるで彼が自分の気持ちを察しているかのようだ。
「い、いえ……不安というか、ただ……まだ心の準備が追いついていないだけです。ご存知のとおり、これは両家の間で決められた婚約ですし……」
自分でも歯切れが悪いと感じながら、リゼットは曖昧に言葉を濁す。すると、アレクシスは少しだけ視線を下に落とし、低い声で答えた。
「政略結婚という形であることは、私も理解しています。ですが、私は形式だけの関係にするつもりはありません。もちろん、最初からお互いを深く理解しているわけではありませんが……時間をかけて、少しずつ知っていければと思っています」
それは冷淡というよりも、むしろ真剣な想いを込めた言葉だった。リゼットは意外に感じた。結婚前のこうした場では、愛の言葉よりも家同士の利害ばかりが飛び交うのが普通だ。だが、彼は自分の意思で「あなたを大切にしたい」というニュアンスを示そうとしている。
それでもリゼットは、まだ完全には納得できない。政略結婚が嫌だというわけではない。貴族として生まれた以上、程度の差はあれ同様の道を歩むであろうことは覚悟していた。ただ、こんなにも突然で、彼のことをほとんど知らないまま結婚するというのは、あまりに乱暴な話ではないだろうか。
沈黙が続きそうなところで、アレクシスはふっと微笑を浮かべる。先ほどまでの冷ややかな印象からは想像もつかないほど、穏やかな笑みだ。
「……夕食会を開いたのも、本当は形式的な意味より、こうして少しでもお話をする時間をつくりたかったからです。リゼット様を困惑させてしまったのなら、申し訳ない」
「いえ……」
謝罪されるほどのことではないが、リゼットもどう答えればいいのか分からなくなる。彼がこうして率直に話してくれるのはありがたいが、こちらも本心をすべてさらけ出せるほどの覚悟はまだない。
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