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11話
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王都の動乱と、迫る“不吉な時”
マリンや王子が動こうとしても、一朝一夕で結果が出るわけではない。崩落と地震は容赦なく続き、被災者の数は増える一方。貴族社会の一部は相変わらず保身を優先し、事態の収拾を王子に丸投げしている。
そんな状況下で、城下町では不満と絶望が渦巻き、一部の住民が暴徒化し始めていた。略奪や放火が起こるなど、混沌を極める事態となっているのだ。
「人々が冷静さを失うのは仕方ない……だが、これ以上無秩序が広がれば救える命も救えない!」
ガイア王子は騎士団の一部を治安維持に回すよう指示し、混乱を抑え込もうとする。しかし、兵力も限られており、なかなか制御が効かない。それを見た保守派貴族らは「やはり王子には何もできない」と陰で嘲る始末だ。
王宮内部でも、国王は心を閉ざし、ライガン公爵のような貴族たちは私腹を肥やすために物資を独占しようと目論んでいるという。まさに末期の王国を象徴するような無秩序だ。
「もう、だめかもしれない……」
マリンはそう思いかけるが、それでも街には懸命に医療や炊き出しを続ける人々がいる。騎士団員や王子の呼びかけに応えて、協力し合おうとする市民ボランティアも増えている。こうした“手を伸ばす者”がいる限り、まだ希望は完全には絶たれていない。
彼女自身も、隣国の研究仲間と共に被災地を巡り、安否確認や子どもたちの世話をするなど、寝る間も惜しんで活動していた。王子との連絡を取り合い、次なる大きな動き――おそらく“第二次避難キャンプ”の設置や“造船所保護”などに備えている。
しかし、そんな矢先、隣国から新たな急報が届く。伝令役の兵士を介してもたらされた内容は、驚くべきものだった。
「大陸の反対側でも大地震が連鎖的に発生し、すでに複数の国が壊滅に近い状態に陥っている」とのこと。もはやこれは“王国”だけの問題ではなく、“大陸全体”が崩壊に飲み込まれ始めているのだ。
つまり、隣国でさえ安全ではない。どれほど救援物資を送ってくれようとも、いずれ自国の対応に追われ、王国を助ける余裕はなくなるだろう。エール研究院の学者たちも悲愴な面持ちで「世界の終わりが見えてきた……」と口にする。
「大陸全体……。じゃあ、船で逃げても行き場所などないのか? 他の大陸にも同じような連鎖が及んだりして……」
ソフィが顔を青ざめさせる。マリンも言葉を失いそうになるが、なんとか深呼吸して考える。船で逃げるといっても、どこへ行けるのか。まだ崩壊が及んでいない“新天地”があると信じるしかないが、確証は全くない。
結局、どこへ逃げても破滅が続くなら、最後までこの大陸で生き抜こうとする人々の選択も同じくらい意味がある。いずれにせよ、残された時間は少ないのかもしれない。
(それでも、ガイア王子はきっと諦めない。わたしも、最後まで人々を助けたい)
深い絶望と、それでも灯り続ける希望が、マリンの胸の中で複雑に交錯する。
かつて舞踏会で予言めいた言葉を口にした日のことが、遠い昔のように思える。あの頃、想像もしなかった結末が、今まさに眼前へ迫っているのだ。
消えゆく国。その中で、貴族も平民もない。王子も追放者も隔てなく、ただ必死に生き延びようとしている。すべての優劣が溶け合う“滅び”の時代――その終末を前に、人はどう足掻けばいいのか。
「……私たちに残された道は、心静かにこの大陸と共に滅ぶことしかできません」
マリンがかつて漏らした言葉が、今や現実の重みを伴って彼女の耳にこだまする。
それでも、心のどこかでは「そんな結末は嫌だ」と叫ぶ自分がいる。王子もまた、最後の最後まで願っているはずだ――“人の思い”だけは滅びないと。だからこそ、行動を止めないのだろう。
マリンや王子が動こうとしても、一朝一夕で結果が出るわけではない。崩落と地震は容赦なく続き、被災者の数は増える一方。貴族社会の一部は相変わらず保身を優先し、事態の収拾を王子に丸投げしている。
そんな状況下で、城下町では不満と絶望が渦巻き、一部の住民が暴徒化し始めていた。略奪や放火が起こるなど、混沌を極める事態となっているのだ。
「人々が冷静さを失うのは仕方ない……だが、これ以上無秩序が広がれば救える命も救えない!」
ガイア王子は騎士団の一部を治安維持に回すよう指示し、混乱を抑え込もうとする。しかし、兵力も限られており、なかなか制御が効かない。それを見た保守派貴族らは「やはり王子には何もできない」と陰で嘲る始末だ。
王宮内部でも、国王は心を閉ざし、ライガン公爵のような貴族たちは私腹を肥やすために物資を独占しようと目論んでいるという。まさに末期の王国を象徴するような無秩序だ。
「もう、だめかもしれない……」
マリンはそう思いかけるが、それでも街には懸命に医療や炊き出しを続ける人々がいる。騎士団員や王子の呼びかけに応えて、協力し合おうとする市民ボランティアも増えている。こうした“手を伸ばす者”がいる限り、まだ希望は完全には絶たれていない。
彼女自身も、隣国の研究仲間と共に被災地を巡り、安否確認や子どもたちの世話をするなど、寝る間も惜しんで活動していた。王子との連絡を取り合い、次なる大きな動き――おそらく“第二次避難キャンプ”の設置や“造船所保護”などに備えている。
しかし、そんな矢先、隣国から新たな急報が届く。伝令役の兵士を介してもたらされた内容は、驚くべきものだった。
「大陸の反対側でも大地震が連鎖的に発生し、すでに複数の国が壊滅に近い状態に陥っている」とのこと。もはやこれは“王国”だけの問題ではなく、“大陸全体”が崩壊に飲み込まれ始めているのだ。
つまり、隣国でさえ安全ではない。どれほど救援物資を送ってくれようとも、いずれ自国の対応に追われ、王国を助ける余裕はなくなるだろう。エール研究院の学者たちも悲愴な面持ちで「世界の終わりが見えてきた……」と口にする。
「大陸全体……。じゃあ、船で逃げても行き場所などないのか? 他の大陸にも同じような連鎖が及んだりして……」
ソフィが顔を青ざめさせる。マリンも言葉を失いそうになるが、なんとか深呼吸して考える。船で逃げるといっても、どこへ行けるのか。まだ崩壊が及んでいない“新天地”があると信じるしかないが、確証は全くない。
結局、どこへ逃げても破滅が続くなら、最後までこの大陸で生き抜こうとする人々の選択も同じくらい意味がある。いずれにせよ、残された時間は少ないのかもしれない。
(それでも、ガイア王子はきっと諦めない。わたしも、最後まで人々を助けたい)
深い絶望と、それでも灯り続ける希望が、マリンの胸の中で複雑に交錯する。
かつて舞踏会で予言めいた言葉を口にした日のことが、遠い昔のように思える。あの頃、想像もしなかった結末が、今まさに眼前へ迫っているのだ。
消えゆく国。その中で、貴族も平民もない。王子も追放者も隔てなく、ただ必死に生き延びようとしている。すべての優劣が溶け合う“滅び”の時代――その終末を前に、人はどう足掻けばいいのか。
「……私たちに残された道は、心静かにこの大陸と共に滅ぶことしかできません」
マリンがかつて漏らした言葉が、今や現実の重みを伴って彼女の耳にこだまする。
それでも、心のどこかでは「そんな結末は嫌だ」と叫ぶ自分がいる。王子もまた、最後の最後まで願っているはずだ――“人の思い”だけは滅びないと。だからこそ、行動を止めないのだろう。
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