眠り姫は十年後、元婚約者の隣に別の令嬢を見つけました

鍛高譚

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第2章 ――揺れる想いと、新しい婚約者

6話

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部屋の窓を開けると、爽やかな風が頬を撫でていく。以前よりも少し足腰が安定してきた私は、自室から続くバルコニーに出て、気分転換をするのが日課になりつつあった。
 気づけば、目覚めてからもう数週間が経つ。十年という長すぎる眠りから目覚めた私は、今やっと「大人としての体」を少しずつ使いこなせるようになり始めたところだった。
 だが、どれだけ体が回復しても、やはり心だけは追いつかない。バルコニーから見下ろすロウェル伯爵家の庭に、懐かしさと違和感を同時に抱く自分がいる。
 ――十年前の記憶は、昨日のことのように鮮明だ。それなのに、この庭はもう私の知っている庭ではない。手入れの仕方も、植えられている花の種類も、すっかり様変わりしてしまった。
 同じように、あの人――レオン・アルヴェルトも、十年前の私が知っている“少年”ではなくなっていた。
 数日前に再会した、すっかり大人の男になったレオン。それでも、私の名を呼んでくれたときの声には懐かしさが混じっていたように感じる。だけど、それは一瞬の錯覚だったのかもしれない。
 彼は私のことを、今でもどこかに想っていてくれるのだろうか。それとも、もう過去の存在として割り切っているのか――。
 考えても仕方のないことだとわかっているのに、頭の中から彼の面影が離れない。名乗るほどの恋愛経験もない私が、こんなにも彼を意識してしまうのは、昔の「婚約」という約束の残像なのだろうか。
 「はぁ……」
 ため息が漏れてしまう。すると、背後から小走りに近づいてくる足音が聞こえた。振り返ると、私の専属メイドであるサラが控えめに声をかけてくる。
 「アーシア様、そろそろ朝のリハビリのお時間です。お部屋の中に戻られますか?」
 「あ……うん、わかった。ありがとう、サラ」
 いまだに慣れない背の高さと、わずかに力が入りにくい足の感覚を確かめるように、私はゆっくりとバルコニーから室内へ戻った。サラがさっと手を添えてくれるので助かる。
 部屋の一角には、私専用の治療器具や練習用の手すりが設置されている。ここで毎日、体力を取り戻すための運動や魔法治療を受けていた。
 「まだ少しずつですけれど、着実に体力が戻ってきていますね。お医者様も、『あと数ヶ月ほどリハビリを続ければ、ほぼ支障なく動ける』とおっしゃっていましたよ」
 サラが笑顔でそう告げると、私も「そうなんだ」とわずかに笑みを返した。
 「でも……心のほうはどうやってリハビリすればいいのかな」
 小さな独り言のつもりだったが、サラは聞き逃さなかったのか、表情を少し曇らせる。
 「アーシア様……。確かに、いろいろ戸惑うことが多いですよね。私でよければ、いつでもお話を聞きますので……」
 「うん、ありがとう。サラは本当に優しいね」
 言葉に詰まる私を、サラはそっと励ましてくれる。目覚めたときに初めて出会ったときから、彼女のまっすぐで温かい心遣いに何度も助けられてきた。
 「さぁ、では始めましょうか」
 サラの合図で、私は手すりにつかまりながら足踏みの練習を開始する。そうして、いつものリハビリを淡々とこなしていった。
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