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5話
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夜になると、私は隠れ家を出た。王都の大通りから外れ、ひっそりとした裏道を抜けながら、どこか心細い気持ちになる。私が見回りの兵士や町人に見つかれば、一度は“行方不明のアストラル令嬢が突然現れた”ということになりかねない。
けれど、それも幽体化を上手く使えれば問題ないはず。今はまだ、あの力を完全にコントロールできているわけではないが、少しずつ感覚を掴み始めている。
――例えば、指先から腕へ、腕から全身へとゆっくり魔力を通してイメージを集中させれば、自分の身体が透き通るように感じる。そのまま一歩を踏み出すと、壁や扉のような障害物をすり抜けられるのだ。
まるで幽霊そのもの。初めて実践したときは鳥肌が立ったが、今はこの能力が何より頼りになる。
そうして私は、王宮へ向かう。夜陰に紛れ、城門近くの塀に接近した。もっと警備が厳重かと思いきや、夜の間は最低限の見張りだけ。昼間のような人通りや儀式の行列はない。
ここで幽体化。強く息を吸い、意識を集中する。すると、身体がふっと軽くなり、皮膚の表面が空気に溶け込むような感覚が走る。それと同時に、心臓がはねるように鼓動して、頭が少しクラクラした。
(まだ慣れないけど、こんなものでしょう……)
私は透き通った腕を見やり、小さく頷く。そして塀へと歩み寄る。――ゆっくり、一歩、二歩。壁に額をぶつける心配などなく、私はそのまま塀をすり抜けた。
王宮の敷地内へ侵入してしまったことになる。法を犯していると言えばそうだが、私はもうそんなことを気にしていられない。私を殺した張本人たちを暴くため――そして両親の敵を討つためなのだ。
広大な庭園には夜の静寂が広がっていた。かすかに風の音と、時折パトロールの兵士が歩く靴音だけが響く。満月が薄雲に隠れたり現れたりを繰り返し、その光が刻々と庭を照らし出す。
私は守衛の動線を注意深く観察してから、半透明のまま王宮本殿へと近づいた。どの入口も鍵がかかっているが、今の私には関係ない。ゆっくりと扉に手を触れて――そのまま身体ごとすり抜ける。
宮殿の廊下は意外に暗かった。明かり取りの燭台は最小限しか灯されていないため、昼の華やかさとは全く異なる雰囲気だ。壁に飾られたタペストリーや肖像画が、どこか不気味に見える。
(……アルファルド殿下は、この奥にある玉座の間にいるかしら? それともプライベートルーム?)
王太子としての彼には、いくつか専用の部屋が割り当てられている。寝室や執務室がある離宮エリアはさらに奥まったところだろう。
ところで、私は今何をしに来たのか。自分に問いかける。
――もちろん、復讐の第一歩として、彼がどんな状況なのかを確かめたい。それに、父と母を殺した証拠がどこかに保管されていないか、手掛かりを探し出したい。
両親が殺される前、父は何かの書類を念入りにチェックしていた気がする。それが王太子関係の陰謀に関わるものならば、王宮内の机や保管庫に証拠が残っているかもしれない。
私は、幽体化を保ったまま奥へ進む。その途中、曲がり角から兵士たちの足音が近づいてくるのを感じた。光が差す――松明の灯りか。こういう場合、私は壁をすり抜けてやり過ごすのが一番手っ取り早い。
だが、好奇心が勝ってしまった。何か情報が得られるかもしれない。彼らは警備兵なのか、それとも偉い人の護衛か。
「……結局、アストラル公爵家の娘は行方不明か。死んだって噂もあるが、どうにも腑に落ちないな」
「両親に続いて本人まで。あまりに不幸が重なりすぎだろ。王太子殿下はお気の毒だが、新しい婚約者の方を大事にされているようで……」
兵士たちは小声でひそひそ話をしながら通り過ぎていく。どうやら、私が行方不明扱いになっているという噂もあれば、既に“死んだ”という話もあるようだ。どうやらリヒトの工作通り、“ユウナ・アストラルはもうこの世にいない”と考える者も多いらしい。
「しかし、殿下もずいぶん変わられたよな。以前はあんなに穏やかで優しいお方だったのに、最近はどこか苛立っているようだ。深夜でも宮廷の執務室に籠もって何か……」
そこで音が途切れ、兵士たちは廊下の先へと姿を消していった。
彼らの会話を聞いた限り、アルファルド殿下は“苛立ち”を見せているらしい。私を完全に殺し損ねたからか。それとも、別の思惑か。
いずれにせよ、彼が今いる場所は執務室の可能性が高い。私はさらに奥へと足を進める。
けれど、それも幽体化を上手く使えれば問題ないはず。今はまだ、あの力を完全にコントロールできているわけではないが、少しずつ感覚を掴み始めている。
――例えば、指先から腕へ、腕から全身へとゆっくり魔力を通してイメージを集中させれば、自分の身体が透き通るように感じる。そのまま一歩を踏み出すと、壁や扉のような障害物をすり抜けられるのだ。
まるで幽霊そのもの。初めて実践したときは鳥肌が立ったが、今はこの能力が何より頼りになる。
そうして私は、王宮へ向かう。夜陰に紛れ、城門近くの塀に接近した。もっと警備が厳重かと思いきや、夜の間は最低限の見張りだけ。昼間のような人通りや儀式の行列はない。
ここで幽体化。強く息を吸い、意識を集中する。すると、身体がふっと軽くなり、皮膚の表面が空気に溶け込むような感覚が走る。それと同時に、心臓がはねるように鼓動して、頭が少しクラクラした。
(まだ慣れないけど、こんなものでしょう……)
私は透き通った腕を見やり、小さく頷く。そして塀へと歩み寄る。――ゆっくり、一歩、二歩。壁に額をぶつける心配などなく、私はそのまま塀をすり抜けた。
王宮の敷地内へ侵入してしまったことになる。法を犯していると言えばそうだが、私はもうそんなことを気にしていられない。私を殺した張本人たちを暴くため――そして両親の敵を討つためなのだ。
広大な庭園には夜の静寂が広がっていた。かすかに風の音と、時折パトロールの兵士が歩く靴音だけが響く。満月が薄雲に隠れたり現れたりを繰り返し、その光が刻々と庭を照らし出す。
私は守衛の動線を注意深く観察してから、半透明のまま王宮本殿へと近づいた。どの入口も鍵がかかっているが、今の私には関係ない。ゆっくりと扉に手を触れて――そのまま身体ごとすり抜ける。
宮殿の廊下は意外に暗かった。明かり取りの燭台は最小限しか灯されていないため、昼の華やかさとは全く異なる雰囲気だ。壁に飾られたタペストリーや肖像画が、どこか不気味に見える。
(……アルファルド殿下は、この奥にある玉座の間にいるかしら? それともプライベートルーム?)
王太子としての彼には、いくつか専用の部屋が割り当てられている。寝室や執務室がある離宮エリアはさらに奥まったところだろう。
ところで、私は今何をしに来たのか。自分に問いかける。
――もちろん、復讐の第一歩として、彼がどんな状況なのかを確かめたい。それに、父と母を殺した証拠がどこかに保管されていないか、手掛かりを探し出したい。
両親が殺される前、父は何かの書類を念入りにチェックしていた気がする。それが王太子関係の陰謀に関わるものならば、王宮内の机や保管庫に証拠が残っているかもしれない。
私は、幽体化を保ったまま奥へ進む。その途中、曲がり角から兵士たちの足音が近づいてくるのを感じた。光が差す――松明の灯りか。こういう場合、私は壁をすり抜けてやり過ごすのが一番手っ取り早い。
だが、好奇心が勝ってしまった。何か情報が得られるかもしれない。彼らは警備兵なのか、それとも偉い人の護衛か。
「……結局、アストラル公爵家の娘は行方不明か。死んだって噂もあるが、どうにも腑に落ちないな」
「両親に続いて本人まで。あまりに不幸が重なりすぎだろ。王太子殿下はお気の毒だが、新しい婚約者の方を大事にされているようで……」
兵士たちは小声でひそひそ話をしながら通り過ぎていく。どうやら、私が行方不明扱いになっているという噂もあれば、既に“死んだ”という話もあるようだ。どうやらリヒトの工作通り、“ユウナ・アストラルはもうこの世にいない”と考える者も多いらしい。
「しかし、殿下もずいぶん変わられたよな。以前はあんなに穏やかで優しいお方だったのに、最近はどこか苛立っているようだ。深夜でも宮廷の執務室に籠もって何か……」
そこで音が途切れ、兵士たちは廊下の先へと姿を消していった。
彼らの会話を聞いた限り、アルファルド殿下は“苛立ち”を見せているらしい。私を完全に殺し損ねたからか。それとも、別の思惑か。
いずれにせよ、彼が今いる場所は執務室の可能性が高い。私はさらに奥へと足を進める。
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