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第3章 ――市場をゆく貴族令嬢
11話
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市場の喧騒と多彩な露店
パン屋の露店を後にし、マーガレットと連れ立って市場の中央付近へ足を進める。ここでは、野菜や果物をはじめとした農産物が山積みにされ、威勢のいい掛け声とともに売買が行われている。私はぶどうやリンゴ、ベリーなど色とりどりの果物に興味を惹かれたが、特に珍しい品種は見当たらない。アーデルハイド領としては、やはりワイン用のぶどうが主力であり、他所の地域から運ばれてくる農産物もありそうだけれど、今のところピンとくるものはなかった。
「へぇ、あっちではなにやら香辛料の匂いがするわ。行ってみましょうか」
マーガレットがこくりと頷き、私たちは香辛料を扱う異国風の露店へ向かった。そこでは肌の色がやや褐色を帯びた男が、スパイスの入った小瓶や袋を並べている。クミンやコリアンダー、ターメリックらしきものが山積みにされた袋があり、その匂いが鼻をくすぐる。
「ようこそ、いらっしゃい。異国の地から持ってきた最高の香辛料だ。そこのお嬢さん、いかがかな?」
軽快な口調で売り子をしている彼の目は、何となく私のドレスに留まる。高貴な身分らしいと察したのか、にこやかに近づいてきた。
「どんな香辛料なのかしら? 私、あまり詳しくはないのだけれど、料理に使うといつもと違う風味が出るのかしらね」
「もちろんさ。肉料理の下味に使ったり、スープに加えたりすると、全然違った味わいになるよ。ほら、鼻を近づけてみてごらん」
そう言われて差し出された小袋からは、独特の強い香りが漂ってきた。前世でインドカレーやエスニック料理を食べた経験がある私にとっては懐かしい匂いとも言える。ふだん貴族の食卓に並ぶ料理は、バターやクリームを多用したヨーロッパ風が主流だが、こんなスパイスを使った刺激的な料理はまだあまり浸透していないかもしれない。
「面白いわね……。これ、アーデルハイド領の人々は喜ぶかしら?」
私が独り言のように呟くと、香辛料の商人は意気揚々と胸を張った。
「ええ、必ずや虜になること間違いなしだ! ただし、最初は慣れない人もいるだろうから、少しずつ加減するのがコツだね。もし大口で買ってくださるなら、レシピも一緒に教えてあげよう」
「レシピまで……ふふ、悪くないわね。私も試しに使ってみたいし」
私は数種類のスパイスを少量ずつ選び、購入することにした。肉料理と相性が良さそうなミックススパイスなど、いくつか揃えると新しい料理が作れそうだ。マーガレットも「どんな味になるのかしら……」と興味津々の様子で、胸の前で手を組んでいる。屋敷の料理長に相談すれば、きっと面白がってレシピを考えてくれるに違いない。
「ありがとうございます、お嬢さん。もし好評なら、次回また大量に仕入れてきて差し上げますよ。今日はお安くしとくから!」
「助かるわ。味見してみて、良ければまた声をかけさせてもらうわね」
商人に礼を言い、スパイスが入った小袋をマーガレットに預ける。小さな購入品ではあるが、これも私にとっては新しい一歩だ。単に珍しい物を買うだけでなく、「アーデルハイド領の人々に新しい味覚をもたらすかもしれない」という期待感がある。
パン屋の露店を後にし、マーガレットと連れ立って市場の中央付近へ足を進める。ここでは、野菜や果物をはじめとした農産物が山積みにされ、威勢のいい掛け声とともに売買が行われている。私はぶどうやリンゴ、ベリーなど色とりどりの果物に興味を惹かれたが、特に珍しい品種は見当たらない。アーデルハイド領としては、やはりワイン用のぶどうが主力であり、他所の地域から運ばれてくる農産物もありそうだけれど、今のところピンとくるものはなかった。
「へぇ、あっちではなにやら香辛料の匂いがするわ。行ってみましょうか」
マーガレットがこくりと頷き、私たちは香辛料を扱う異国風の露店へ向かった。そこでは肌の色がやや褐色を帯びた男が、スパイスの入った小瓶や袋を並べている。クミンやコリアンダー、ターメリックらしきものが山積みにされた袋があり、その匂いが鼻をくすぐる。
「ようこそ、いらっしゃい。異国の地から持ってきた最高の香辛料だ。そこのお嬢さん、いかがかな?」
軽快な口調で売り子をしている彼の目は、何となく私のドレスに留まる。高貴な身分らしいと察したのか、にこやかに近づいてきた。
「どんな香辛料なのかしら? 私、あまり詳しくはないのだけれど、料理に使うといつもと違う風味が出るのかしらね」
「もちろんさ。肉料理の下味に使ったり、スープに加えたりすると、全然違った味わいになるよ。ほら、鼻を近づけてみてごらん」
そう言われて差し出された小袋からは、独特の強い香りが漂ってきた。前世でインドカレーやエスニック料理を食べた経験がある私にとっては懐かしい匂いとも言える。ふだん貴族の食卓に並ぶ料理は、バターやクリームを多用したヨーロッパ風が主流だが、こんなスパイスを使った刺激的な料理はまだあまり浸透していないかもしれない。
「面白いわね……。これ、アーデルハイド領の人々は喜ぶかしら?」
私が独り言のように呟くと、香辛料の商人は意気揚々と胸を張った。
「ええ、必ずや虜になること間違いなしだ! ただし、最初は慣れない人もいるだろうから、少しずつ加減するのがコツだね。もし大口で買ってくださるなら、レシピも一緒に教えてあげよう」
「レシピまで……ふふ、悪くないわね。私も試しに使ってみたいし」
私は数種類のスパイスを少量ずつ選び、購入することにした。肉料理と相性が良さそうなミックススパイスなど、いくつか揃えると新しい料理が作れそうだ。マーガレットも「どんな味になるのかしら……」と興味津々の様子で、胸の前で手を組んでいる。屋敷の料理長に相談すれば、きっと面白がってレシピを考えてくれるに違いない。
「ありがとうございます、お嬢さん。もし好評なら、次回また大量に仕入れてきて差し上げますよ。今日はお安くしとくから!」
「助かるわ。味見してみて、良ければまた声をかけさせてもらうわね」
商人に礼を言い、スパイスが入った小袋をマーガレットに預ける。小さな購入品ではあるが、これも私にとっては新しい一歩だ。単に珍しい物を買うだけでなく、「アーデルハイド領の人々に新しい味覚をもたらすかもしれない」という期待感がある。
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