白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚

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 第7話 リオナの改革② 孤児院の財政問題

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 第7話 リオナの改革② 孤児院の財政問題

 翌朝。
 孤児院の庭には、昨日よりもずっと温かい空気が漂っていた。

 昨夜、満腹のまま眠った子どもたちは、表情がほんの少し柔らかくなり、ミラはリオナのスカートの端を握って歩き、ティムは朝から元気いっぱいだった。

 だが、リオナの胸は晴れやかではない。

 理由はひとつ。

 昨日、調理のために倉庫を調べて、愕然としたのだ。

(……食料が、ほとんど残っていないなんて)

 乾いた豆が少し。
 石のように固くなったパンの切れ端。
 栄養の偏った野菜が数本。

 これでは一週間どころか、三日も持たない。

 リオナは庭に出て、破れかけた倉庫を見上げた。

 そこへ、メアリが心配げに近づいてきた。

「お嬢様……物資の量、本当にあれだけなんですか?」

「ええ。どうやら前院長は……手当の半分以上を、自分の懐に入れて逃げたようですわ」

「ひどい……子どもたちを放置して……」

 メアリは怒りに震えていた。

 リオナは静かに目を伏せる。

(孤児院に割り当てられたはずの王家の援助金が、ほとんど届いていなかった)

 前院長の名は帳簿にあるが、直筆で書かれた支出一覧はズタズタに破れ、読み取れない。
 ほとんどのページが意図的に破られ、抜き取られていた。

 つまり、何も残されていない。
 それは――財政状態が把握できないという最悪の状況だった。

 リオナは深く息を吸い、決意を固める。

(まずは、現状を調べましょう)

 孤児院の片隅にある小さな事務室。
 カビの匂いがこもり、机は片脚が欠けて傾いている。

 そこに唯一残っていた帳簿を広げ、リオナは椅子に腰を下ろした。

「お嬢様、手伝います!」

 メアリが元気よく隣に座る。

「ありがとうメアリ。でも……この状態、覚悟して見てくださいまし」

 二人は机を挟んで向かい合い、ページを慎重にめくる。

 破れた紙。
 意味のない落書きのような文字。
 そして、辛うじて読める数字。

 リオナは細い指で数字を追い、ため息をついた。

「……ひどいですわね。収入の欄がほとんど空白。支出の項目も、何が何だかわかりません」

「前の院長、ちゃんと仕事してなかったんじゃ……」

「していなかったのでしょうね。これでは、孤児院が維持できるわけがありませんわ」

 メアリも顔をしかめる。

 リオナはしばらく数字を眺めていたが、やがて小さく微笑んだ。

「でも……わたくし、こういう状況こそ燃えてしまうのです」

「お嬢様……なんか楽しそうです」

「壊れたものを整えて、形にするのが好きなのですよ。帳簿も、建物も、心も」

 メアリはぽかんとした後、ふっと笑う。

「お嬢様って……とても変わってますね」

「変わっていますわね。自覚はあります」

 リオナが肩をすくめたところで、ドアを叩く音がした。

「リオナ、いるか?」

 低く響く声。
 カイル団長だ。

 リオナは立ち上がり、扉を開ける。

「おはようございます、カイル団長」

「朝から何してんだと思ったら……帳簿か。偉いな」

「必要なことですわ。ここがどう管理されていたのか、把握しませんと」

 カイルは室内の散らかった帳簿を見て眉をひそめた。

「……これはひどい」

「そうですわね。けれど、問題がわかれば改善できます」

「改善ってお前……これは改善というより rebuild のレベルだぞ」

「壊れているなら、全部直せばいいのです」

 にっこりと笑うリオナに、カイルは呆れた顔をしつつ、どこか感心しているようでもあった。

「それで、団長。何かご用でしょうか?」

「ああ……食料の件、騎士団でも少し援助できる。乾燥肉と麦ならいくらか融通できるぞ」

 リオナは驚き、すぐ深く頭を下げた。

「なんと……本当に助かりますわ。子どもたちのためにも、ありがたいです」

「礼はいい。子どもたちが飢えてるのを黙って見てられねえだけだ」

 そう言いながら、カイルはリオナをじっと見た。

「……それにしても、お前。本気でこの孤児院を立て直す気なんだな」

「もちろんですわ」

 即答。

 カイルは息をつき、腕を組んだ。

「なら、もうひとつ、助言しておく。ここは王都から遠くて、人も寄りつかねえ。資金も支援もすぐには集まらん。まずは“働ける環境を作る”のが先だ」

「働ける環境……?」

「そうだ。庭や畑を整理して野菜を育てるのもいいし、子どもたちが安全に寝られる場所を作るのも大事だ。お前一人じゃ無理だが……」

 カイルは少しだけ照れたように咳払いした。

「……まあ、手伝えることは手伝う」

 リオナはその言葉に、胸が温かくなるのを感じた。

「ありがとうございます、カイル団長。わたくし、必ずこの孤児院を再生してみせますわ」

「……言い切るか。たいしたもんだ」

 カイルは微かに笑い、ドアの枠に寄りかかった。

「ならまず――財政を立て直すために、数字を全部洗い出せ。資金がどれだけ必要で、何が不足してるのか。そこからだ」

「承知いたしましたわ。数字は得意ですもの」

 その言葉に、カイルは一瞬だけ驚き――すぐに納得したように笑った。

「だろうな。見てりゃわかる」

 リオナは帳簿を抱え、静かに目を閉じた。

(ここを……必ず守る)

 子どもたちの笑顔。
 食堂で頬張る姿。
 怯える瞳が少しずつ希望に変わっていった昨日の夕暮れ。

 あれを守るのは、自分しかいない。

 そう強く思い、リオナは再び帳簿と向き合った。

 孤児院の再生は――
 今、ようやく最初の一歩を踏み出したばかりだった。


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