白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚

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第27話 森の中のリオナ/暗闇の囁き

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第27話 森の中のリオナ/暗闇の囁き

リオナは、どこを歩いているのか分からなかった。

気づけば学院の裏庭を通り過ぎ、薄暗い森の奥へ続く道を歩いていた。
朝早く家を出たとき、胸の奥に重たい痛みが残っていて、
それを振り払うように歩いているうちに、
気がつけば学院とは逆の方向へ向かっていたのだ。

足元の草がざくりと鳴る。

どうしてここまで来てしまったのか、自分でも分からない。
ただ胸の奥が苦しくて、呼吸を整えるために立ち止まる。

「はあ……はあ……」

昨日の落書き、机の中の紙片、図書室の手紙。
どれも頭から離れない。

(どうして、こんなことに……
私、何もしてないのに)

涙がこぼれそうになったとき、背後で枝が折れる音がした。

バキッ。

リオナはびくりと肩を震わせた。

「……誰か、いるの……?」

返事はない。

風が木の葉を揺らす音だけが響く。
しかし、確かに「何者かの気配」が近づいてきていた。

リオナは急いでその場を離れようとしたが、足がもつれて転んでしまう。

「きゃっ……!」

膝を擦り、痛みに顔をゆがめる。

そのとき、森の奥から柔らかい声がした。

「大丈夫かい、リオナさん」

思わず顔を上げた。

木々の影から現れたのは、学院で数回見かけたことのある少年だった。
同学年で、いつも一人でいる静かな生徒。
名前は確か、アレン。

「アレン……くん……?」

アレンはにこりと微笑んだ。
その笑みは優しげなのに、どこか冷たい。

「こんなところで怪我をして……危ないよ」

リオナは思わず距離を取った。

「ど、どうしてここに……?」

アレンは肩をすくめた。

「見ていたんだ。昨日からずっと、君が辛そうだったのを。
誰も助けないなんて、ひどいよね」

柔らかい口調。
しかしその目は笑っていなかった。

リオナの胸に、嫌な汗が流れる。

「アレンくん……私、今日は帰ろうと思って……」

「帰る? こんな森の中を一人で?
ここは危険だよ。
君みたいに弱くて、守ってくれる人がいない子には特にね」

その声に、リオナは息を呑んだ。

弱くて、守ってくれる人がいない。

まるでリオナの心を抉るような言葉。

アレンの笑みがゆっくりと深くなる。

「リオナさんがどんな噂を流されているか、知ってるよ。
みんな、君のことを馬鹿にしていたし……」

リオナは首を横に振った。

「やめて……!」

「でも安心していい。
僕だけは君の味方だ」

アレンは手を伸ばした。
静かに、しかし逃がさないような動きで。

「一緒に来て。
僕なら、君を守ってあげられる」

リオナは震えながら後ずさった。

(だめ……この人……何かおかしい……!)

アレンの瞳は獲物を逃さない捕食者のように、冷たく光っていた。

「やっと二人きりになれた。
カイル様の影に隠れてばかりの君を、ようやく手に入れられる……」

その瞬間。

森の奥から鋭い声が響いた。

「リオナ!!」

聞き慣れた声。
強い、必死な声。

カイルが木々をかき分けて走り込んできた。

その姿を目にした瞬間、リオナの膝から力が抜ける。

「カイル……くん……!」

カイルはアレンの腕を乱暴に払いのけた。

「離れろ!
リオナから手を離せ!!」

アレンはゆっくりと笑った。

「カイル様が……どうしてここへ?」

「リオナがいなくなったと聞いた瞬間、探しに決まっている!」

カイルはリオナを後ろへ庇うように立つ。

「彼女に近づくな。
次に手を出せば、ただでは済まさない」

アレンは肩を揺らして笑った。

「庶民の一人に、ずいぶんご執心ですね」

「関係ない。
リオナは僕にとって大切な──」

言葉の途中でカイルは口を閉じた。
しかし、その表情だけで十分だった。

アレンの笑みが消える。

「……そう。
なら、邪魔だね」

森の空気が張り詰めた。

リオナは震える声でカイルの腕を掴んだ。

「か、カイルくん……
この人……なにか……おかしい……」

カイルはリオナの手を握り返し、強く頷いた。

「リオナ、絶対に離れないで」

アレンはゆっくりと後ずさる。

その瞳には、静かな狂気が潜んでいた。

「また会いましょう、リオナさん。
次は……もっと優しく迎えに行くよ」

そう言い残し、アレンは森の奥へ姿を消した。

リオナは恐怖で震え、カイルにしがみついた。

カイルは彼女の背を抱きしめ、強く言った。

「もう大丈夫だ。
僕が必ず君を守る」

夕暮れの森で、二人の影が重なった。

だが、アレンの影は静かに暗闇に潜り、
次なる動きをうかがっていた。


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