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【α嫌いのΩ】1.α、お断り!
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翌日、幸いにして雪は積もることなく朝を迎え、交通機関の乱れもなく如月は会社に着いた。駅までの通り道にある昨日の家の前を通ると、家の前に飾られた大きなツリーはセンス良く飾り付けられていて、いよいよカフェか洒落た飲食店と間違う通行人も出てきそうだ。
如月の勤める会社Us.companyは、都心から少し離れたベッドタウンに近い市街地の中心部のそれなりのビルの中にある。主に医療用のアシスタントアンドロイドの開発を行なっている会社で、その他に医療用システムの開発、保守などを扱う、いわゆるベンチャー企業だ。最上階を含めた3フロアほどを借り上げて、贅沢な密度で仕事をしているが、如月は発起人に声をかけられた設立当初からのスタッフの一人だ。役員などそれなりのポジションは用意されているが、如月自身、あまり経営に興味がないこともあり、今のところ現場での仕事の方が性に合っている、と役員契約は保留になっている。
おかげで今のところ待遇はレギュラースタッフとほぼ同じ扱いだが、如月本人は対して気にもしていない。
「あ゛ーーーーっっ‼︎」
デスクに突っ伏したまま、如月が叫んだ。
一応、ある程度の職位者として個室は与えられているので、20畳程度はある自分の空間は好きなようにデコレーションして使用している。お気に入りのチェアにお気に入りのデスクは同じメーカーのもので、自分で購入するには桁が一つ違うが、会社が経費であっさり認めてくれたものだ。学生時代から使用しているワールドブランドのPCは、最近ハイエンドモデルのものに会社が変えてくれている。それにチップやカードを好き勝手に増設し、モデルがわからないほどステッカーで覆い、完全に自分仕様にしているので、おそらく何か問題が起こってもメーカーはまず対応してくれない。
「うるさいわよ」
ぺし、と頭を叩かれて如月がデスクから突っ伏した顔を上げると、長い黒髪をかき上げながら、笹原京都が呆れ顔で立っていた。彼女も会社設立から一緒に働いているが、京都もやはり「もう少し現場で勉強する」として役員契約は当分保留にするつもりらしい。
「新人そこに居るんだから!個室だけど、防音壁貼ってるわけじゃ無いんだから大声出さないの!大体、何を煮詰まってんのよ」
「もーだめー…書類嫌いなんだってば...」
「なーにを今更。知ってるわよ、そんなことは。あんたを筆頭に、うちのチームに書類好きな人なんていないでしょ。だからって、仕事の選り好みしないの!仕様書書かなきゃ終わんないわよ、あんた待ちなの。はい、差し入れ。どうせ朝食べてないでしょ」
紙コップの紅茶が差し出され、如月は先に渡されたサンドイッチをデスクに置くと紙コップを受け取った。
恐ろしく仕事ができるこの同僚は、いつものようにバッチリスーツとピンヒールでリアルなキャリアウーマンを演出し、腰に手を当てて半眼で如月を見下ろしていた。
んー、と立ち上がって如月は伸びをしてそれを受け取り、
「あのさ、ヒール履かないでくれる?俺より背が高くなるだろ」
「うっさいわね、1センチでしょ。気に入ってんのよ、これ。ほら、お茶」
くん、と香りを確かめ、如月が一口飲む。
「セイロンだ?京都がリーフで淹れてくれた?」
「…こんのくっそ忙しいのに、それはないわね。そこのティーバックだけど、割と美味しいわよ」
「じゃあ、要らない…」
「ゼータク者。人の好意と経費を無駄にすんじゃないの。さっさと眼と頭冷まして、午前中に仕上げなさい!」
「…鬼…」
「あー、うるっさい!あとはあんた待ちなの!チェックはしてあげるから、さっさと雛型仕上げて送って。今日はハルの誕生日なの知ってるでしょ。何がなんでも定時で帰りたいの‼︎」
「ハル~…。…呼んでくれば?」
ぴた、と京都が立ち止まり、ゆっくりと如月を振り返った。
「…あんた、真面目に喧嘩売ってる?…床とお友達になりたい?」
「遠慮する‼︎」
ば、と如月は起き上がるとVDIを起こし、猛烈な勢いでキーボードを押し始めた。
「…やる気になれば人並み以上にできるくせに、スイッチ入らないんだから。…ほら、チョコばっかり食べてないで、たまにはちゃんと食事しなさい」
京都はデスクの端に、今流行りの店の野菜と肉が溢れるほどのサンドイッチが入った紙袋を置くと、そっと部屋を出ていった。
京都には、遥、と言う夫がいる。
せっかちで完璧主義、見た目も派手な京都とは違い、地味でのんびりしていてあたたかい彼は、気さくで如月とも仲がいい。
「いーよなー…京都は」
あったかくて、信頼できるパートナーがいてさ。
京都には子どもが望めない事情があるが、ハルはそれを十分に理解している。二人は信頼しあっていて、良いところもそうでないところも理解し合えていて、愛し合っていて。 本当に仲がいい。
もらったサンドイッチの端を齧ると、ふ、と目の前が揺れた。
「あれ?…何…?」
座ったまま、ぐ、と足で床を踏み締め、 肘をついて頭を支えた。
身体が、急に熱くなってきた。頭痛の前兆まである。
「あれ、…ない」
如月の勤める会社Us.companyは、都心から少し離れたベッドタウンに近い市街地の中心部のそれなりのビルの中にある。主に医療用のアシスタントアンドロイドの開発を行なっている会社で、その他に医療用システムの開発、保守などを扱う、いわゆるベンチャー企業だ。最上階を含めた3フロアほどを借り上げて、贅沢な密度で仕事をしているが、如月は発起人に声をかけられた設立当初からのスタッフの一人だ。役員などそれなりのポジションは用意されているが、如月自身、あまり経営に興味がないこともあり、今のところ現場での仕事の方が性に合っている、と役員契約は保留になっている。
おかげで今のところ待遇はレギュラースタッフとほぼ同じ扱いだが、如月本人は対して気にもしていない。
「あ゛ーーーーっっ‼︎」
デスクに突っ伏したまま、如月が叫んだ。
一応、ある程度の職位者として個室は与えられているので、20畳程度はある自分の空間は好きなようにデコレーションして使用している。お気に入りのチェアにお気に入りのデスクは同じメーカーのもので、自分で購入するには桁が一つ違うが、会社が経費であっさり認めてくれたものだ。学生時代から使用しているワールドブランドのPCは、最近ハイエンドモデルのものに会社が変えてくれている。それにチップやカードを好き勝手に増設し、モデルがわからないほどステッカーで覆い、完全に自分仕様にしているので、おそらく何か問題が起こってもメーカーはまず対応してくれない。
「うるさいわよ」
ぺし、と頭を叩かれて如月がデスクから突っ伏した顔を上げると、長い黒髪をかき上げながら、笹原京都が呆れ顔で立っていた。彼女も会社設立から一緒に働いているが、京都もやはり「もう少し現場で勉強する」として役員契約は当分保留にするつもりらしい。
「新人そこに居るんだから!個室だけど、防音壁貼ってるわけじゃ無いんだから大声出さないの!大体、何を煮詰まってんのよ」
「もーだめー…書類嫌いなんだってば...」
「なーにを今更。知ってるわよ、そんなことは。あんたを筆頭に、うちのチームに書類好きな人なんていないでしょ。だからって、仕事の選り好みしないの!仕様書書かなきゃ終わんないわよ、あんた待ちなの。はい、差し入れ。どうせ朝食べてないでしょ」
紙コップの紅茶が差し出され、如月は先に渡されたサンドイッチをデスクに置くと紙コップを受け取った。
恐ろしく仕事ができるこの同僚は、いつものようにバッチリスーツとピンヒールでリアルなキャリアウーマンを演出し、腰に手を当てて半眼で如月を見下ろしていた。
んー、と立ち上がって如月は伸びをしてそれを受け取り、
「あのさ、ヒール履かないでくれる?俺より背が高くなるだろ」
「うっさいわね、1センチでしょ。気に入ってんのよ、これ。ほら、お茶」
くん、と香りを確かめ、如月が一口飲む。
「セイロンだ?京都がリーフで淹れてくれた?」
「…こんのくっそ忙しいのに、それはないわね。そこのティーバックだけど、割と美味しいわよ」
「じゃあ、要らない…」
「ゼータク者。人の好意と経費を無駄にすんじゃないの。さっさと眼と頭冷まして、午前中に仕上げなさい!」
「…鬼…」
「あー、うるっさい!あとはあんた待ちなの!チェックはしてあげるから、さっさと雛型仕上げて送って。今日はハルの誕生日なの知ってるでしょ。何がなんでも定時で帰りたいの‼︎」
「ハル~…。…呼んでくれば?」
ぴた、と京都が立ち止まり、ゆっくりと如月を振り返った。
「…あんた、真面目に喧嘩売ってる?…床とお友達になりたい?」
「遠慮する‼︎」
ば、と如月は起き上がるとVDIを起こし、猛烈な勢いでキーボードを押し始めた。
「…やる気になれば人並み以上にできるくせに、スイッチ入らないんだから。…ほら、チョコばっかり食べてないで、たまにはちゃんと食事しなさい」
京都はデスクの端に、今流行りの店の野菜と肉が溢れるほどのサンドイッチが入った紙袋を置くと、そっと部屋を出ていった。
京都には、遥、と言う夫がいる。
せっかちで完璧主義、見た目も派手な京都とは違い、地味でのんびりしていてあたたかい彼は、気さくで如月とも仲がいい。
「いーよなー…京都は」
あったかくて、信頼できるパートナーがいてさ。
京都には子どもが望めない事情があるが、ハルはそれを十分に理解している。二人は信頼しあっていて、良いところもそうでないところも理解し合えていて、愛し合っていて。 本当に仲がいい。
もらったサンドイッチの端を齧ると、ふ、と目の前が揺れた。
「あれ?…何…?」
座ったまま、ぐ、と足で床を踏み締め、 肘をついて頭を支えた。
身体が、急に熱くなってきた。頭痛の前兆まである。
「あれ、…ない」
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