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しおりを挟む「リオノーラ」
「殿下!一体、どうなったのですか?!」
公爵邸に帰らされていたリオノーラは外に出してもらうことも出来ずヤキモキしていた
公爵邸に帰ってきて数時間後
窓の外から見えた馬車は帝国のもの
すぐにセザールだとわかったリオノーラは階段を駆け降りて扉へと走った
そして冒頭の言葉に戻る
全てをちゃんと話そう。そう言ったセザールを客室に案内した
~~~
「そん、なことがあったのですか」
セザールから聞かされた内容にリオノーラは衝撃を受けた
帝国皇太子に剣を向けたアーロンの処遇に関しては仕方のない部分があるとは思っていたが、まさか国王が敵国と通じていたとはリオノーラも知らなかったことだった
「半年前に見つかったと言われていた鉱山、あれは敵国と武器の売買を行う場所だったようだ」
ヨーゼフがグリアーソンにきてから着々と進めていた鉱山事業の裏側は想像していたよりも悲惨だった
たしかに鉱山自体は価値のあるものだった
だがその広大な地下通路を利用して高山の奥底に大量に運び込まれていた武器達を見た時は流石に驚きが隠せなかった
「では、グリアーソンは…」
「あぁ。社会主義国家として歩むことになる。首相は公爵だ」
今まで王権国家で生活してきたリオノーラはその衝撃に思考が停止した
仕方のないこととはいえ、あっけなく終わってしまった元グリアーソン王国となってしまった自国の姿に少しの寂しさが心を締めた
「あー、それで、だな。リオノーラに言いたいことがある」
「何でしょう…?」
訝しげにセザールをみるリオノーラの瞳を見てドキリとしたセザールはグッと手を握りソファから立ち上がりリオノーラの下に歩み寄り膝をついた
「殿下っ」
「突然のことで驚くかもしれない。俺は、初めてリオノーラと会った時から貴方に惹かれていた」
「えっ…」
真剣な眼差しでリオノーラの瞳を真っ直ぐに見つめてくるセザールの姿にリオノーラは心臓が早鐘の様に強く拍動していた
「どうか、俺と人生を歩んでほしい」
力強くそう言い放つセザールの瞳から視線を外すことができなかった
真髄で、純粋な好意を今までぶつけてこられなかったリオノーラは困惑した
だが、困惑の中に形容し難い高揚感も混じっていた
(「これが、嬉しいという感情なのかしら」)
リオノーラのこれまで生きてきた人生は茨の道だった
年々遡行の悪くなる婚約者に、無理難題を押し付けてくる国王、そして大臣達
唯一救いだったのが宰相を務めていた父の存在
それでも決して普通の貴族令嬢が送るような人生を送ってこなかったリオノーラにとって「好き」という感情は未知の存在だった
だがセザールに出会ってからはどうだっただろうか
怒鳴ってこない、エスコートも上手、ダンスだって驚くほど息があっていた
それに何より、リオノーラの姿を見て「可愛、綺麗だ」と称賛してくれる声
(「彼は、初めて会った時から私を肯定してくれる」)
その事実がリオノーラにとってはとても大きな変化だった
差し出された大きな手に視線を移す
自分より何倍も大きなその手には剣だこがあり、セザールがこれまでどれだけ努力してきたのかが一目瞭然にわかる勇ましい掌だった
「ふふっ、昔絵本で見た白馬の王子様とは大違いですね」
「……俺も一応皇子様だが?」
今は亡き母が枕元で読んでくれた白馬の王子様の絵本。いつか私にもそんな王子様が来てくれるだろうと信じていた。
しかし、大きくなるにつれ、この世にはそんな存在はいないのだと実感してしまった
リオノーラの心はふわふわと浮き足立っていた
この手をとればどんな世界が見えて、広がるのだろうか、と。
それと同時にアーロンには抱かなかったむず痒い、しかし居心地の良い感情が全身を駆け巡る
「さて、リオノーラ。俺はあまり長く待てない性分なんだ。答えを聞かせてくれるか?」
「はい。殿下。どうか末永くよろしくお願い致します」
ずっと差し出されていたてにそっと自分の手を乗せた
ぎゅっと強く握られた手から伝わる熱はこれから変わることなくもたらされ続ける幸せだとリオノーラは確信した
fin.
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