異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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63「トイレに住んでる」

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 ここは南門ですから、西門まで移動しましょう。

「少し歩きますが、よろしいですか?」
「プックルの為っす! もうちょっと辛抱するっす!」

 道々、ガゼルの街について説明します。



 ガゼルの街とは、その他の五英雄の名を冠した街とは異なり、街の中にガゼル様がお住まいです。

 その他の五英雄の方々、アンセム様、タイタニア様、ファネル様の御三方は街の外、中央のブラム領から見て、街の向こう側にお住まいです。
 世界が1/4になった際、ガゼル様は中央から東へ向かい、なんとかここガゼルの街まで到達しましたが、街を越す事ができませんでした。

 結界が発動した時、ガゼル様が辿り着いたその場所から少しの距離を境に、結界の内と外に分かれてしまったんです。

 街の東端付近、街の二割程度は昏き世界の藻屑と消え去り、当時この街は怨嗟の声で溢れ帰ったそうです。

 東端にお住まいの方々に近親者がいた人々はガゼル様を責め立てました。

 なぜもう少し速く走れなかった、息子を返せ、オマエが殺したも同然だ、こちらに向かったのがアンセム様だったら良かったのに。

 全力を尽くされた結果だったんですが、悪し様あしざまに罵られたガゼル様は人々に謝罪を繰り返す日々を過ごされました。

 今でこそ、それなりに大きなお屋敷にお住まいですが、僕が初めてここを訪れた時は野っ原にジッと座られていました。
 数年間ずっとそうやって過ごされたそうです。

「なんと不憫な……。父アンセムもそういった事は多少あったそうだが……」
「でもガゼルさんも頑張って走ったんしょ? 助かった人はお礼を言ったって良いんじゃないすか?」

「もちろん、そういう意見もありました。しかし身内を亡くされた人々の気持ちを慮ると大きな声にはならなかったらしいです」

 誰が悪いという話ではありませんからね。ガゼル様にきつく当たった人々の気持ちも分かるのが辛いところです。

「今では当時の事に直面した人も少なくなりましたから、表立ってガゼル様を批判する人はほとんどいないそうです」

 西門が見えて来ましたね。
 どうやらここがその牧場のようです。

「久しぶりに獣人っす!」
 牧場に隣接したお店は馬の獣人が経営しているようです。
「二足歩行で服着た馬ってシュールっすね」

 ここガゼルの街には獣人の方が多くお住まいです。やはり獣人の王、ガゼル様を慕う獣人が多く移住されたそうです。




「まさか馬がやってる店で馬肉を食べる事になるとは思わなかったっす。美味かったけど。あ、ダジャレとかじゃないっすよ」

 タロウが一人で何か言っています。馬と馬の獣人は関係ないですからね。

「プックルの牧草はどうだったっすか?」
『八十五点、マアマアダッタ』

「ヴィッテルの店は?」
『百点』
「ヴィッテルの店、やるっすね」

「ではガゼル様を訪ねましょうか」

 こちらは西門の近くですので、真東に進みます。
 プックルとロボを見た子供たちが、指を指して、カワイー、大きいー、とはしゃぎます。
 ここまで来る旅人は割りと珍しいですからね。

「あ、教会があるっすよ」
「ランド神父のご実家ですね。後で立ち寄ってみましょう」



 東端付近までやって来ました。
「ガゼルさんちの周りに他の家ないんすね」
「結界に近過ぎると危ないですから移築したそうです」
「あ、なるほど。強く押すと向こうに抜けちゃうんだったすね」
『え? そうなんでござるか?』
「そうですよ。ロボも気をつけて下さいね」
『承知でござる!』


 石造りの門前で犬の獣人に訪いを告げます。
「ペリエ村のヴァンと申します。ガゼル様にお会いしたいんです。取り次いで頂けますか?」
「聞いている。案内しよう」

 犬の獣人に続きます。

「ヴァンさんヴァンさん、ガゼルさんの結界を維持できる範囲って、この家全部くらいっすか?」
「あ、いえ、ガゼル様の魔力は五英雄の中では一番少ないんです。だからこの家の一部だけですね」
「ふーん、そういうもんすか」

「こちらだ。粗相の無いようにな」
 大きな扉の前まで案内して頂きました。
「犬に粗相するな、って言われるの違和感あるっすね」

 否定はしません。
 扉を開け、大きな部屋の中へと入ります。

「久しいな、ヴァンよ」
「ご無沙汰しております。ガゼル様もお元気そうでなによりです」

 部屋の中央、一段高くなった所で胡座をかいて座るガゼル様。相変わらず精悍なお顔でいらっしゃいます。

「と、虎っすーー!」

「誰が虎だ! ワシは獅子、獅子の獣人だ!」
「……あ、ほんとっすね。良く見るとライオンっす」

 らいおん?

「らいおん、とな? そうかオマエが新たな生贄、タロウだな?」
「京野太郎っす! よろしくお願っす!」
「キョーノタロウ? タロウではないのか?」
「いや、京野は苗字で――」

 最初のくだりですね。割愛。

「ところでガゼルさん」
「なんだ」
「ガゼルさんの結界を維持できる範囲って、どれくらいっすか?」
「あぁ、この一段高い部分だ」

 少し沈黙。

「え? そんだけ?」

 そうなんですよね。それだけなんです。

「そうだ。これだけだ」

「狭すぎー! 結界を維持できる範囲、狭すぎーー!」

「うるさい奴だな!」
「だって、ちょ、ガゼルさん? これ二畳くらいしかないっすよ?」

 ニジョー?
 確かタロウが住んでいた部屋は、ロクジョーのワンケーでしたっけ。
 ジョーというのは広さの単位だったんですね。

「二ジョーが何のことかは分からんがな。これがワシの魔力だと精一杯だ」
「トイレとかどうするんすか?」

 一段高い部分の角を指差すガゼル様。

「そこの蓋を開けて用を足すんだ。ぶっちゃけトイレに住んでいる様なものだな」

 少し沈黙。

「トイレに住んでる服着たライオン……、シュールすぎーー!」



「まー、二畳もあれば引き篭もるのには充分っちゃ充分っすけどね」
「そうであろうそうであろう」

 アンセム様に続いて、ガゼル様までタロウのペースに巻き込まれて威厳を損ねていきますね。

 アンセム様と比べて半分程度の魔力を持つガゼル様でこのサイズです。
 さらにガゼル様の半分程度の僕だと、座る事さえ出来ないかも知れませんね。

「ところで、アンセムさんにこれ着けてもらったんすけど」

 胸元を開いてアンセム様の緑の証を見せるタロウ。

「ガゼルさんのも欲しいんすけど」
「もちろん眠る前のブラムから聞いておる。その件なんだがな、何を持ってタロウを認めるか、色々考えたんだが思い付かんのだ。どうすれば良いだろう」
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