異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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97「肉球が向かってくる」

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「じゃ、見本みせるからね」
「良いわよセイ」

「精霊の慰撫いぶ!」

 セイが描いた精霊力陣が縦に伸びて消え、そこからセイよりふた回りも大きな掌が飛び、レインを叩きつけました。

 え? 回復の術じゃなかったんですか?

 あ、いえ、大きな掌が消え、その中から現れたレインは無傷どころかツヤツヤと先程よりも元気そうです。

 なるほど。
 対象へ向けて自分の掌を象ったエネルギーを飛ばし回復する術なんですね。


『ではヴァン殿! いくでござるよ!』
「いつでもどうぞ!」

「がーぅ!」

 ロボが唱えると共に眼前に現出する慰撫の陣、陣から現れた僕の背丈と同程度のロボの掌を象ったエネルギーが――

 に、肉球が向かってくる……

 ボフンと僕を押しつぶしたロボの掌。

 おぉ、こんな感じなんですね。
 衝撃はほとんどなく、やや厚い雲に入った感触に近いでしょうか。

 セイとレインが「「ヴァンが肉球に食べられた~♪」」と嬉しそうに歌っています。
 絵面えづらが可愛かったんですって。

「これが基本の『慰撫』だよ」
「精霊力の量次第では部位欠損も修復できるわ」

 僕らが一般的に使う癒しの魔法よりも優秀ですね。

「あ、ヴァンが『癒しの魔法より優秀』って考えてるわ」
「これは精霊術! せめて魔術と比べてくれなきゃね~」

 ごもっともですね。
 アンセム様が使うという癒しの魔術を僕も教えて頂いておけば良かったですね。

「魔法みたいに、魔法元素と精霊力を混ぜては使えないんですか?」

 元々ロボは、魔法を教えて欲しいと僕に弟子入りしました。
 しかし魔力は持っておらず精霊力を持っていたので「霊法」という物があると仮定してトレーニングしていたんですが。

「無理だね」
「精霊力自体が魔法元素に近い存在なのよ」

 なるほど。
 風に水を混ぜるようなものですか。

「ちなみに精霊力を籠めずに陣を描いてもちょっぴりだけ効果があるわ」
「『守護』と『慰撫』にはね。ほ~んのちょっぴりだけどね」

 なるほど。陣の形自体に力があるということですか。でしたら僕も覚えておいて損はありませんね。

「じゃ今度は『細工』をやって見せるわ」
「危ないからこれはまとなしだよ」

 レインが描いた精霊力陣から先の尖った棒、いえ槍と言った方が正しいでしょうか、が飛び出して岩に突き刺さりました。

 『細工』は「精霊力を加工する力」でしたね。

「ちなみに『細工』は奥が深いの」
「イメージ次第で槍でも針でも作れるよ」
「ロボの首輪の石も『細工』で加工がしてるわ」
「そのレベルだと陣も複雑になるけどね」

 その後ももう少しロボの練習を続けました。


 今日は結婚式から数えて五日目です。

 特別な新婚生活という事はありませんが、あれからロボはいつもニコニコと楽しそうです。


「ヴァンさーん! また折れたっす! 俺の杖!」

 トレーニングに出ていたタロウ達が帰って来ましたね。

「ロップスさんの魔力棒に叩き折られたんす」
「ふん、ただの杖で受け止めるのが悪いんだ」

「それで怪我はないんですか?」

「それが聞いてくれヴァン殿。そのまま頭を殴ったのに、このバカ、無傷なんだ」
「あんなほそっちょい棒で俺の魔力ガードは破れんすよ」
『タロウ、強カッタ』

 けっこうハードな組手ですね。
 怪我くらいなら良いですけど、致命傷はやめて下さいよ。

「大体な、あの魔力量はずるい。私の十倍くらいあるんじゃないか」

 確かにタロウの魔力量はいまだに底が知れません。

「そうだね。十倍以上だね」
「だいたい百倍くらいだわ」

 え? 分かるんですか?

「セイ、レイン、分かるんですか?」
「「え? みんな分かんないの?」」
「僕らには分かりません。特殊な魔術を使えないと分からないそうです」

「へー、そうなんだ」
「人族は不便なのね」

「えー、と。分かりやすくトカゲマンを一としたら、ヴァンが十だね」
「タロウが……、タロウはちょっと分かりにくいけど、そうね百だわ」

 え? 百? 僕の十倍ですか?
 それってこの世界で最大の魔力を誇る父ブラムと同等じゃないですか。
 ファネル様と同程度、僕の五倍くらいかと思っていました……。

「……ただの人族の百分の一……」

 あ、またしてもロップス殿が四つん這いに。
 最近よく見る光景ですね。

「ちなみにプックルは五だわ」
「魔獣にしたら破格の多さね」

「……プックルの五分の一……」

 ロップス殿が突っ伏してしまいました。
 男泣きですね。

「泣いてるトカゲマンには悪いんだけど」
「最後にロボの精霊力の発表があるのよ」

「「なんとタロウの半分! 五十!」」
「狼にまで大差で負けた!!」

 驚きですね。
 ロボの精霊力は僕の五倍ですか。さすが精霊女王の直系ですね。


 そうこうしていると、ガバン! と三階の窓が乱暴に開かれ、タイタニア様が顔を見せました。

 ようやく精霊力に余裕が出来て、趣味の盗み聞きに精を出してたタイタニア様です。
 どうかしたんでしょうか。

「みんな! ブラムが目を覚ますわ! ホールに集合!」

 ようやく起きましたか。
 昏き世界の者どもが暗躍するこの状況、さすがの父も驚きますね、きっと。
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