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111「イギーとアンテオ」
しおりを挟むバクン。
ズゾゾゾゾゾゾ。
チュルルン。
『…… 不味イ』
プックルが『神の影』を啜り、たった今飲み下した所です。
「……あんな山羊を乗っ取ったところで何になる……」
ぶつぶつとイギーさんの独り言だけが聞こえます。
少し長めの沈黙が続いている間に僕も到着しました。
タロウの髪を掴んだまま、ワナワナと震えるイギーさん。
そんな場合ではないと思うんですが、何故だか同情を禁じ得ません。
「プックル! とにかく助かりました。タロウを救って頂いてありがとうございます。それで、その、体は、何ともありませんか?」
プックルの方へ駆け寄りながら尋ねました。
『今ノトコロ、特ニ、何トモナ――』
プックルの胸元――長い首の下部と言った方が分かり易いでしょうか――がボンヤリと光り、プックルがゲフンとゲップをしました。
首の下がなんとなく蠕動してる様な、そんな感じですね。
『ア、ダメカモ』
プックルは山羊ですから反芻かと思いましたが、蠕動する何か、恐らく飲み込んだ『神の影』がプックルの首を登って来ます。
『ゲプハァァァ!』
プックルのゲップと共に真っ黒な姿の『神の影』がイギーさんへ向かって飛び出しました。
「エギー! そうだ! 戻って来い!」
しかし生憎と僕の大剣が届くルートを進んでいます。
「させません!」
大剣を振るい、『神の影』を頭から足へ、両断しました。
「エギーィィ!」
『グギ……』
バフっと音を立てて煙のように姿を変え、そして風に吹かれる様に消えていきました。
どうやら同化前、肉体を得る前なら倒すのは容易な様ですね。
「……エギーが……。もう、こうなったら……」
「イギーさん、タロウを離して下さい」
イギーさんがこちらを睨みつけますが、僕も負けずに睨み返します。
「順調だったんだ。ウギーをお前にぶつけて魔力を消費させる、アンテオを暴れさせている間にエギーが新たな礎を乗っ取る。完璧だったんだ!」
なるほど。
完全にイギーさんの術中にはまっていましたね。
「それを! このクソ山羊のせいで!」
今度はプックルを睨みつけるイギーさん。
プックルは我関せずとゲップを繰り返しています。変なもの食べたからでしょうか。
おや?
「イギーさん、貴方、右目はどうしたんですか?」
「……ウギーにくれてやった」
今まで気がつきませんでしたが、アンテオ様と同様にイギーさんの右目は閉じられたままです。
左腕をアンテオ様に使った様に、右目はウギーさんを操る為の魔術の核として使ったんですか。
恐ろしい執念ですね。
「こうなったらコイツにもくれてやる!」
タロウをドサリと地面に下ろし、その胸を足で抑えつけ、残る右手で自分の左目を抉ろうと――
「イギー! それはアギーに止められておろう!」
アンテオ様の大声が響きました。
大剣を担ぎイギーさんに向かって走り出していた僕も一旦立ち止まります。
アギーさんに止められているのは両目とも失う事でしょうか。
それとも魔術でタロウを操る事を止められているのでしょうか。
「引くべきだ。このまま戦っても勝てるかも知れん。しかし目的の達成は出来んのではないのか?」
「…………クソ!」
悪態をつきながらイギーさんが蹴り飛ばしたタロウを抱き止めました。
「タロウ! 無事ですか!?」
「……何と、か、平気、っす」
明らかに平気では無さそうですが、あの魔力砲の直撃を受けたんです、まだマシな方でしょう。
ロボの守護もあったとは言え、タロウの魔力ガードは一級品ですね。
恐るべきはイギーさんの魔力。
タロウの言ったア、イ、ウ、エ、オ……が強い順と言うのも強ち間違いではないかも知れません。
そう言えば、さっきの『神の影』はエギーと呼ばれていましたね。
イギーさんが翼を広げ飛び上がります。
「今回は引いてやる。次はこうはいかない!」
僕らを睨みつけ一声残し、アンテオ様の方へ飛び去ります。
「アンテオ! 引くぞ!」
「……先に行け」
「なんだと? 僕の言うことが聞けないのか?」
イギーさんとアンテオ様のやり取りに非常に興味があります。
が、ここでタロウの治療を優先しなければ信用問題になってしまいます。
「僕の魔力が残り少ないので気休めですが、癒しの魔法を使います。タロウ、楽にして下さい」
タロウを横たわらせ、タロウの胸と膝辺りに手を当て魔法を使います。
「あ、あんまり、効いてる気が、しないっすね……」
「追っ付けロボがこちらに来ます。慰撫を使えばかなり回復すると思います。辛抱して下さい」
『タロウ、スマン』
プックルのゲップも収まったようですね。
「なん、言ってんすか。その後は、プックルが助けて、くれたじゃないっすか。お互、いさま、っすよ」
ゲホゲホ言いながらタロウが言います。
ちょっとカッコいいじゃないですか。
「アンテオ! 言う事を聞け! また自我を奪うぞ!」
イギーさんの大声が響きました。
すぐそばのロップス殿はどうして良いか分からずキョロキョロと所在なさげです。
「先に行くのが出来ないなら、我の事は忘れよ」
「なんだとぉ?」
「我はこの甥っ子ともう暫し戦う。その結果は、我が殺すか、我が殺されるか。どちらにしても我はもう戦えぬ。可愛い甥っ子を殺してのうのうと生きられる我ではない」
ロップス殿がさらにアタフタしています。
殺される覚悟はあれど、さすがに殺すつもりなどなかったでしょうからね。
「……アンテオ、お前。僕の魔術が切れてるのか?」
それは僕も思っていました。
きっとプックルも気付いていたと思いますが、明らかにアンテオ様はロップス殿を殺す気などなく、育てようとしていたとしか思えません。
「八割がたは切れている」
「……なっ!?」
「しかし勘違いするな。残りの二割のせいでお主と共にいた訳ではない。最初は完全に操られていたとは言え、お主と共にいたこの数ヶ月は、なかなかに楽しかったのでな」
イギーさんは何も答えません。
「だから我の事は忘れよ。お主はお主で、自分たちの目的に向かって進め。ま、この甥っ子とその友人たちが邪魔するであろうがな」
アンテオ様が全身に魔力を籠めました。
「行くぞロップス。体が冷えたなどと言い訳するなよ」
ロップス殿があうあうしています。
どうも話に着いて行けてませんね。
大丈夫でしょうか。
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