1 / 78
001 なぜか転生したようです
しおりを挟む
「んっ」
気だるい体をベッドから少し起こすと、ぼんやりと視界が歪んで見える。
熱を帯びた体は思うように動かず、ペットボトルの水を求めて手を伸ばせば近くに置かれた水差しが床へと転がっていく。
幸い水は入っていなかったのか、高級そうな金の糸で柄の描かれた赤い絨毯にシミはない。
「水差しに、絨毯?」
我が家にそんな高価なものなんてなかったわよね。
いやその前に、このベッドすら自分のものではない。
見上げた先にある薄いレースの天蓋の付いたベッドなど、物語の中以外では見たコトもなかった。
「……ううう、頭が割れるように痛い」
そもそもどうして私はこんなところにいるのか。
痛むこめかみを片手で押さえながら、昨日のことを思い出していた。
確か仕事中からいつもの片頭痛がひどくて、痛み止めを飲んで仕事をしていたんだっけ。
そのあとフラフラのまま帰宅して、またもう一回薬を飲んだ。
記憶はそこでぷっつりと途絶えてしまっている。
そして目が覚めた先がここというわけだ。
「全然意味がわからない。病院でもないなら、ここはどこなの?」
揺れる視界のまま何とかベッドから這い出ると、私は近くにある姿鏡の前へと向かう。
そしてそれに掴まりながら立ち、自分の姿をジッと見た。
ストロベリーブロンドの長くふわふわした腰までの髪に、透き通るような真っ白い肌、そして宝石のように輝く菫色の瞳。
歳は二十歳を超えていないくらいだろうか。
でも透き通るような白というより、どこか青白く病的な白さにも見えるわね。
もう少し太って健康的になった方がいいと思わずアドバイスしたくなるほどの細さだ。
だけどそれ以外は、誰が見ても可愛いらしいと思える女の子がそこには写し出されていた。
「いやいやいやいや、待って。あなた誰?」
私は姿鏡に手を触れる。ひんやりと冷たい感触が手に伝わってきた。
もちろんその中に手が吸い込まれることはなく、それはいたって普通の鏡でしかない。
そうなれば、考えられることは一つ。
これはちゃんと鏡として、私の姿を写し出しているということだった。
だけど私は確かにさっきまで黒髪に黒い瞳で、目の下にクマがっつりと付いた、かなり疲れた顔をした人間だったはずよね。
歳は……思い出したくもないけど、この子よりはかなり上だったはず。
それなのに、今目の前の鏡に写っているのは全然別人じゃない。
別人も別人で、世界すら違うレベルよ。どこぞのお姫様よ。
「あははははは。お姫様って、まさかね。そんな、どこかの漫画や小説じゃないんだし……」
あり得ないと言いかけて、ふと、この見た目で思い出す。
昔好きだった小説に、こんなキャラがいた気がすると。
もう題名すら思い出せないライトノベルだったけど、それは親の愛を知らない主人公がヒロインの愛で救われるという異世界恋愛もの。
そしてその中に出て来る継母が、ちょうどこんなキャラで描かれていた。
継母はモブのような立ち位置だったけど、彼女の生い立ちや主人公の父であり自分の夫となった人への感情が、私にはあまりに可哀想に思えて何度か読み返したっけ。
あの本好きだったのよね。
どこに置いてあったっけ。部屋を片づける時間もなかったからなぁ。
最後に本を読んだのだって、もうどれくらい前だろう。全然覚えてないな。忙しすぎるのって、本当にダメよね。普通の人間としての生活がまったく出来なくなるんだもの。
「んんん。って、まさか……そういう展開? みたいな? 私、もしかして過労死しちゃったとか……」
死んだ記憶も、そのあとに転生してしまった確証もない。
しかし鏡に写る自分は、確かにあの物語の中の継母に思えた。
だけどそれ以上に痛む頭に、私はその場に小さくうずくまる。
痛い。なんなの、この痛み。
頭が割れてしまいそう。痛み止めはどこなの。水差しの中も空っぽだし、水道は見当たらないし。
このままじゃ本当に死んでしまうわ。
そう思っても体はそれ以上動くことはなく、頭を押さえたまま私は意識を失っていた。
気だるい体をベッドから少し起こすと、ぼんやりと視界が歪んで見える。
熱を帯びた体は思うように動かず、ペットボトルの水を求めて手を伸ばせば近くに置かれた水差しが床へと転がっていく。
幸い水は入っていなかったのか、高級そうな金の糸で柄の描かれた赤い絨毯にシミはない。
「水差しに、絨毯?」
我が家にそんな高価なものなんてなかったわよね。
いやその前に、このベッドすら自分のものではない。
見上げた先にある薄いレースの天蓋の付いたベッドなど、物語の中以外では見たコトもなかった。
「……ううう、頭が割れるように痛い」
そもそもどうして私はこんなところにいるのか。
痛むこめかみを片手で押さえながら、昨日のことを思い出していた。
確か仕事中からいつもの片頭痛がひどくて、痛み止めを飲んで仕事をしていたんだっけ。
そのあとフラフラのまま帰宅して、またもう一回薬を飲んだ。
記憶はそこでぷっつりと途絶えてしまっている。
そして目が覚めた先がここというわけだ。
「全然意味がわからない。病院でもないなら、ここはどこなの?」
揺れる視界のまま何とかベッドから這い出ると、私は近くにある姿鏡の前へと向かう。
そしてそれに掴まりながら立ち、自分の姿をジッと見た。
ストロベリーブロンドの長くふわふわした腰までの髪に、透き通るような真っ白い肌、そして宝石のように輝く菫色の瞳。
歳は二十歳を超えていないくらいだろうか。
でも透き通るような白というより、どこか青白く病的な白さにも見えるわね。
もう少し太って健康的になった方がいいと思わずアドバイスしたくなるほどの細さだ。
だけどそれ以外は、誰が見ても可愛いらしいと思える女の子がそこには写し出されていた。
「いやいやいやいや、待って。あなた誰?」
私は姿鏡に手を触れる。ひんやりと冷たい感触が手に伝わってきた。
もちろんその中に手が吸い込まれることはなく、それはいたって普通の鏡でしかない。
そうなれば、考えられることは一つ。
これはちゃんと鏡として、私の姿を写し出しているということだった。
だけど私は確かにさっきまで黒髪に黒い瞳で、目の下にクマがっつりと付いた、かなり疲れた顔をした人間だったはずよね。
歳は……思い出したくもないけど、この子よりはかなり上だったはず。
それなのに、今目の前の鏡に写っているのは全然別人じゃない。
別人も別人で、世界すら違うレベルよ。どこぞのお姫様よ。
「あははははは。お姫様って、まさかね。そんな、どこかの漫画や小説じゃないんだし……」
あり得ないと言いかけて、ふと、この見た目で思い出す。
昔好きだった小説に、こんなキャラがいた気がすると。
もう題名すら思い出せないライトノベルだったけど、それは親の愛を知らない主人公がヒロインの愛で救われるという異世界恋愛もの。
そしてその中に出て来る継母が、ちょうどこんなキャラで描かれていた。
継母はモブのような立ち位置だったけど、彼女の生い立ちや主人公の父であり自分の夫となった人への感情が、私にはあまりに可哀想に思えて何度か読み返したっけ。
あの本好きだったのよね。
どこに置いてあったっけ。部屋を片づける時間もなかったからなぁ。
最後に本を読んだのだって、もうどれくらい前だろう。全然覚えてないな。忙しすぎるのって、本当にダメよね。普通の人間としての生活がまったく出来なくなるんだもの。
「んんん。って、まさか……そういう展開? みたいな? 私、もしかして過労死しちゃったとか……」
死んだ記憶も、そのあとに転生してしまった確証もない。
しかし鏡に写る自分は、確かにあの物語の中の継母に思えた。
だけどそれ以上に痛む頭に、私はその場に小さくうずくまる。
痛い。なんなの、この痛み。
頭が割れてしまいそう。痛み止めはどこなの。水差しの中も空っぽだし、水道は見当たらないし。
このままじゃ本当に死んでしまうわ。
そう思っても体はそれ以上動くことはなく、頭を押さえたまま私は意識を失っていた。
1,282
あなたにおすすめの小説
皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。
この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。
そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。
ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。
なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。
※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
公爵子息の母親になりました(仮)
綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた
しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる
一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい
そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく
「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」
「エルシー! 僕も大好きだよ!」
「彼女、私を避けすぎじゃないか?」
「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様
しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。
会うのはパーティーに参加する時くらい。
そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。
悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。
お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。
目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。
旦那様は一体どうなってしまったの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる