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002 転生先は嫌われ者でした
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それからどれくらいの時間が経っただろうか。
ゴソゴソと部屋の中で誰かが動くような音で、私は意識を取り戻した。
「ううっ……」
「やだぁ、まだ生きてたし!」
「もうビックリさせないでよー。さすがに、もう死んじゃったかと思ったのに」
「ラナ、あなたったら、早とちりしすぎよ」
「だって、こんな床に転がって寝ているのよ? 普通、死んでいると思うじゃない」
うっすらと目を開ければ、同じお仕着せを着た侍女らしき女性たちが三名ほど見える。
おそらく私より若いその三人は、私を頭上から見下ろしながらしゃべっていた。
「まったくいい迷惑だわ」
「ホントホント。こんな風にあたしたちの気を引こうだなんて最低ね」
「死んでいたら、急いで公爵様に報告しなきゃって思ったけど、死んでいないならこのままでいっか」
三人はそんな不穏な会話にもかかわらず、ただクスクスと嫌らしく笑っていた。
人が床で倒れているというのに、この子たちは何を言っているのかしら。
死んでないからいい?
もし仮に死んでいたら、どうする気だったのだろうか。
報告して、ハイ終了となんてならないはずよね、きっと。
でも世界が違えば、そんな簡単に人の死は片づけられてしまうのかしら。
だとしても、人の死をこんな風に笑う神経が私には全然理解できない。何一つ面白いことなどないはずなのに、彼女たちはどこまでも私を馬鹿にしたように笑い続けていた。
「そんな風にして同情を買おうとか無理ですからね、王女様」
「まったくこっちは忙しいんですから、そんな無駄なことは辞めて下さいね。ここはもうお城ではないんですよ。自分のことは自分でなさって下さい」
「本当に手間がかかるようなら、こちらから公爵様に報告させていただきますからね」
床に転がり未だに動けない私に、そう吐き捨てると三人は笑いながら部屋を出て行ってしまった。
彼女たちが部屋から出て行ったあと、私はなんとか自力で上体だけを起こす。
まったく随分な言い分ね。これがどうやったら、演技にでも思えるのかしら。心配の欠片もしないどころか、あんな風に嫌味を言われた上に笑われるだなんて。どういう扱いなの、これは。
気だるさは変わらないものの、昨晩の差し込むような頭の痛みはない。
ため息を吐きつつゆっくり立ち上がると、テーブルには簡素な料理と水が置かれていた。
「お城……王女……公爵」
どう考えても、あの物語の設定に似ている気がする。
やはり私、憑依か転生みたいなのをしちゃったみたいね。
はっきりと痛みを感じることも出来るし、これはもう夢なんかではないもの。
まず状況を確認して、本当にこれがあの本の中なのか調べなくちゃ。
だけどその前に、何か食べないと動けそうもないわ。
「はぁ」
いつからこんな風に体調が悪かったのか分からないけれど、この体は驚くほど痩せていた。
強風が吹いたら飛んで行ってしまうんじゃないかしら。
前の私の体重の半分とは言わないけど、本当にそれくらいしかない気がする。
美人薄命じゃないけれど、ペラペラね、この体。
もしかしたらそれが原因で死んでしまったとか。
だから向こうで死んだ私がこの中に入った?
まぁ、もしくは初めから私はこの人として生まれ変わっていて、あの頭痛がきっかけで前の記憶を取り戻したって感じかしら。
仕組みは全然分からないけど、なんだかなぁって感じね。
どうせ生まれ変わるなら、もっとこう、いい感じの転生ってなかったのかしら。
ヒロインの器じゃないのは知っているけど、別に虐げられるキャラじゃなくても良かったじゃない。
まったく私は何をしたって言うのよ。悪いことなんて前世でもしてこなかったんだから、もう少しマシな役があったでしょうに。このままだと本気で恨むわよ、転生させたやつを。
「ブツブツ言っていても仕方ないわね。何にしても、食べて体力をつけないと。もう一回死んだら、今度こそどうなるか分からないわ」
私はテーブルまでやっとの思いで這うように歩き席に着くと、侍女たちが運んできた食事を見た。
湯気を立てていない冷めたスープは、ほとんど具が入っていなかった。
細かい野菜のクズのようなものに、ベーコンか何かの切れ端が少しだけ。
そしてその傍らには、いつ焼いたのかも分からないような固いこぶし大のパンが一つ。
しかもそれは皿に乗せられるわけでもなく、そのまま丸く小さな木製のテーブルの上に直置きされていた。
「なんていうか、コンビニご飯よりひどくない? しかも直置きって。せめて紙とか敷いて欲しかったわね。テーブル拭いてもないでしょう、これ」
別に潔癖というわけじゃないけど、拭かれてもいないテーブルに直置きはさすがにキツイわ。
まかり間違っても、ここって貴族の家なのよね。こんな酷い食事風景って、ここでは普通なのかしら。
百歩譲って質素なご飯はありでも、せめてパンはお皿に盛ると思うんだけど。
病み上がりにこってりとした外国料理みたいなのを出されても胃が受け付けないけど、これはさすがに色々とないわ。
だけど鳴り出す腹の虫には勝てず、私は固いパンを無理やり引きちぎってスープに浸しながら、ゆっくりと食事を始めた。
ゴソゴソと部屋の中で誰かが動くような音で、私は意識を取り戻した。
「ううっ……」
「やだぁ、まだ生きてたし!」
「もうビックリさせないでよー。さすがに、もう死んじゃったかと思ったのに」
「ラナ、あなたったら、早とちりしすぎよ」
「だって、こんな床に転がって寝ているのよ? 普通、死んでいると思うじゃない」
うっすらと目を開ければ、同じお仕着せを着た侍女らしき女性たちが三名ほど見える。
おそらく私より若いその三人は、私を頭上から見下ろしながらしゃべっていた。
「まったくいい迷惑だわ」
「ホントホント。こんな風にあたしたちの気を引こうだなんて最低ね」
「死んでいたら、急いで公爵様に報告しなきゃって思ったけど、死んでいないならこのままでいっか」
三人はそんな不穏な会話にもかかわらず、ただクスクスと嫌らしく笑っていた。
人が床で倒れているというのに、この子たちは何を言っているのかしら。
死んでないからいい?
もし仮に死んでいたら、どうする気だったのだろうか。
報告して、ハイ終了となんてならないはずよね、きっと。
でも世界が違えば、そんな簡単に人の死は片づけられてしまうのかしら。
だとしても、人の死をこんな風に笑う神経が私には全然理解できない。何一つ面白いことなどないはずなのに、彼女たちはどこまでも私を馬鹿にしたように笑い続けていた。
「そんな風にして同情を買おうとか無理ですからね、王女様」
「まったくこっちは忙しいんですから、そんな無駄なことは辞めて下さいね。ここはもうお城ではないんですよ。自分のことは自分でなさって下さい」
「本当に手間がかかるようなら、こちらから公爵様に報告させていただきますからね」
床に転がり未だに動けない私に、そう吐き捨てると三人は笑いながら部屋を出て行ってしまった。
彼女たちが部屋から出て行ったあと、私はなんとか自力で上体だけを起こす。
まったく随分な言い分ね。これがどうやったら、演技にでも思えるのかしら。心配の欠片もしないどころか、あんな風に嫌味を言われた上に笑われるだなんて。どういう扱いなの、これは。
気だるさは変わらないものの、昨晩の差し込むような頭の痛みはない。
ため息を吐きつつゆっくり立ち上がると、テーブルには簡素な料理と水が置かれていた。
「お城……王女……公爵」
どう考えても、あの物語の設定に似ている気がする。
やはり私、憑依か転生みたいなのをしちゃったみたいね。
はっきりと痛みを感じることも出来るし、これはもう夢なんかではないもの。
まず状況を確認して、本当にこれがあの本の中なのか調べなくちゃ。
だけどその前に、何か食べないと動けそうもないわ。
「はぁ」
いつからこんな風に体調が悪かったのか分からないけれど、この体は驚くほど痩せていた。
強風が吹いたら飛んで行ってしまうんじゃないかしら。
前の私の体重の半分とは言わないけど、本当にそれくらいしかない気がする。
美人薄命じゃないけれど、ペラペラね、この体。
もしかしたらそれが原因で死んでしまったとか。
だから向こうで死んだ私がこの中に入った?
まぁ、もしくは初めから私はこの人として生まれ変わっていて、あの頭痛がきっかけで前の記憶を取り戻したって感じかしら。
仕組みは全然分からないけど、なんだかなぁって感じね。
どうせ生まれ変わるなら、もっとこう、いい感じの転生ってなかったのかしら。
ヒロインの器じゃないのは知っているけど、別に虐げられるキャラじゃなくても良かったじゃない。
まったく私は何をしたって言うのよ。悪いことなんて前世でもしてこなかったんだから、もう少しマシな役があったでしょうに。このままだと本気で恨むわよ、転生させたやつを。
「ブツブツ言っていても仕方ないわね。何にしても、食べて体力をつけないと。もう一回死んだら、今度こそどうなるか分からないわ」
私はテーブルまでやっとの思いで這うように歩き席に着くと、侍女たちが運んできた食事を見た。
湯気を立てていない冷めたスープは、ほとんど具が入っていなかった。
細かい野菜のクズのようなものに、ベーコンか何かの切れ端が少しだけ。
そしてその傍らには、いつ焼いたのかも分からないような固いこぶし大のパンが一つ。
しかもそれは皿に乗せられるわけでもなく、そのまま丸く小さな木製のテーブルの上に直置きされていた。
「なんていうか、コンビニご飯よりひどくない? しかも直置きって。せめて紙とか敷いて欲しかったわね。テーブル拭いてもないでしょう、これ」
別に潔癖というわけじゃないけど、拭かれてもいないテーブルに直置きはさすがにキツイわ。
まかり間違っても、ここって貴族の家なのよね。こんな酷い食事風景って、ここでは普通なのかしら。
百歩譲って質素なご飯はありでも、せめてパンはお皿に盛ると思うんだけど。
病み上がりにこってりとした外国料理みたいなのを出されても胃が受け付けないけど、これはさすがに色々とないわ。
だけど鳴り出す腹の虫には勝てず、私は固いパンを無理やり引きちぎってスープに浸しながら、ゆっくりと食事を始めた。
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