愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
2 / 78

002 転生先は嫌われ者でした

しおりを挟む
 それからどれくらいの時間が経っただろうか。
 ゴソゴソと部屋の中で誰かが動くような音で、私は意識を取り戻した。

「ううっ……」
「やだぁ、まだ生きてたし!」
「もうビックリさせないでよー。さすがに、もう死んじゃったかと思ったのに」
「ラナ、あなたったら、早とちりしすぎよ」
「だって、こんな床に転がって寝ているのよ? 普通、死んでいると思うじゃない」

 うっすらと目を開ければ、同じお仕着せを着た侍女らしき女性たちが三名ほど見える。
 おそらく私より若いその三人は、私を頭上から見下ろしながらしゃべっていた。

「まったくいい迷惑だわ」
「ホントホント。こんな風にあたしたちの気を引こうだなんて最低ね」
「死んでいたら、急いで公爵様に報告しなきゃって思ったけど、死んでいないならこのままでいっか」

 三人はそんな不穏な会話にもかかわらず、ただクスクスと嫌らしく笑っていた。

 人が床で倒れているというのに、この子たちは何を言っているのかしら。
 死んでないからいい?

 もし仮に死んでいたら、どうする気だったのだろうか。
 報告して、ハイ終了となんてならないはずよね、きっと。

 でも世界が違えば、そんな簡単に人の死は片づけられてしまうのかしら。
 だとしても、人の死をこんな風に笑う神経が私には全然理解できない。何一つ面白いことなどないはずなのに、彼女たちはどこまでも私を馬鹿にしたように笑い続けていた。

「そんな風にして同情を買おうとか無理ですからね、王女様」
「まったくこっちは忙しいんですから、そんな無駄なことは辞めて下さいね。ここはもうお城ではないんですよ。自分のことは自分でなさって下さい」
「本当に手間がかかるようなら、こちらから公爵様に報告させていただきますからね」

 床に転がり未だに動けない私に、そう吐き捨てると三人は笑いながら部屋を出て行ってしまった。
 彼女たちが部屋から出て行ったあと、私はなんとか自力で上体だけを起こす。

 まったく随分な言い分ね。これがどうやったら、演技にでも思えるのかしら。心配の欠片もしないどころか、あんな風に嫌味を言われた上に笑われるだなんて。どういう扱いなの、これは。

 気だるさは変わらないものの、昨晩の差し込むような頭の痛みはない。
 ため息を吐きつつゆっくり立ち上がると、テーブルには簡素な料理と水が置かれていた。

「お城……王女……公爵」

 どう考えても、あの物語の設定に似ている気がする。
 やはり私、憑依か転生みたいなのをしちゃったみたいね。
 はっきりと痛みを感じることも出来るし、これはもう夢なんかではないもの。

 まず状況を確認して、本当にこれがあの本の中なのか調べなくちゃ。
 だけどその前に、何か食べないと動けそうもないわ。

「はぁ」

 いつからこんな風に体調が悪かったのか分からないけれど、この体は驚くほど痩せていた。

 強風が吹いたら飛んで行ってしまうんじゃないかしら。
 前の私の体重の半分とは言わないけど、本当にそれくらいしかない気がする。

 美人薄命じゃないけれど、ペラペラね、この体。
 もしかしたらそれが原因で死んでしまったとか。
 
 だから向こうで死んだ私がこの中に入った?
 まぁ、もしくは初めから私はこの人として生まれ変わっていて、あの頭痛がきっかけで前の記憶を取り戻したって感じかしら。

 仕組みは全然分からないけど、なんだかなぁって感じね。
 どうせ生まれ変わるなら、もっとこう、いい感じの転生ってなかったのかしら。

 ヒロインの器じゃないのは知っているけど、別に虐げられるキャラじゃなくても良かったじゃない。
 まったく私は何をしたって言うのよ。悪いことなんて前世でもしてこなかったんだから、もう少しマシな役があったでしょうに。このままだと本気で恨むわよ、転生させたやつを。

「ブツブツ言っていても仕方ないわね。何にしても、食べて体力をつけないと。もう一回死んだら、今度こそどうなるか分からないわ」

 私はテーブルまでやっとの思いで這うように歩き席に着くと、侍女たちが運んできた食事を見た。

 湯気を立てていない冷めたスープは、ほとんど具が入っていなかった。
 細かい野菜のクズのようなものに、ベーコンか何かの切れ端が少しだけ。

 そしてその傍らには、いつ焼いたのかも分からないような固いこぶし大のパンが一つ。
 しかもそれは皿に乗せられるわけでもなく、そのまま丸く小さな木製のテーブルの上に直置きされていた。

「なんていうか、コンビニご飯よりひどくない? しかも直置きって。せめて紙とか敷いて欲しかったわね。テーブル拭いてもないでしょう、これ」

 別に潔癖というわけじゃないけど、拭かれてもいないテーブルに直置きはさすがにキツイわ。
 まかり間違っても、ここって貴族の家なのよね。こんな酷い食事風景って、ここでは普通なのかしら。

 百歩譲って質素なご飯はありでも、せめてパンはお皿に盛ると思うんだけど。

 病み上がりにこってりとした外国料理みたいなのを出されても胃が受け付けないけど、これはさすがに色々とないわ。

 だけど鳴り出す腹の虫には勝てず、私は固いパンを無理やり引きちぎってスープに浸しながら、ゆっくりと食事を始めた。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

公爵子息の母親になりました(仮)

綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる 一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく 「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」 「エルシー! 僕も大好きだよ!」 「彼女、私を避けすぎじゃないか?」 「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。 会うのはパーティーに参加する時くらい。 そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。 悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。 お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。 目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。 旦那様は一体どうなってしまったの?

処理中です...