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010 ご飯の真相
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「おい、奥様の料理担当者は誰だ‼ 今すぐ出て来い!」
ひと際大きな声で、料理長が自分の後ろに立つ他の料理人たちに声をかける。
あまりの勢いに、料理人たちは蒼白になりながら互いの顔を見つめ震えていた。
「名乗り出ないのならば、一人一人確認するぞ」
誰一人手を上げない状況にしびれを切らした料理長が、もう一度怒鳴りつけた。
一番最奥にいた細く色白い料理人が、やや半泣きになりながら片手を少しだけ上げて前へ出て来る。
「奥様の料理担当は自分です」
「おまえか!」
「違います! でも本当に違うんです! 聞いて下さい料理長」
名乗り出た料理人に料理長は近づくと、その襟を絞り上げる。
手を振り、首も横に振りながら、必死で料理人は抵抗していた。
さすがに見ていて可哀そうになり、私は助け舟を出す。
「あなたが私の食事を作ってくれていたの?」
「確かに作っていたのは自分です。ですが違うんです。自分はそんな粗末なものを用意したことなどありません」
「ではこれは何だというんだ! まかないですら、こんなものは出さないぞ」
料理長は私が持ってきたスープとパンを指さした。
やはり思った通り、まかないですらなかったのね。
おかしいと思ったのよね。
いくらまかないにしたって、こんなに酷いものを出すのかって気になっていたのよ。
でもそうなると、侍女たちが自分たちの食事と入れ替えたってわけでもないのね。
どういうことなのかしら。
「そ、それにそのスープ。具はないですが、昨日の夕飯に出したものに似ているじゃないですか」
「ん?」
締め上げられている料理人の言葉に、皆がまたスープを見る。
そして口々に、本当だと呟いていた。
「確かに昨日はコンソメのスープだった……。しかしまかないも出したあと、残りは全部廃棄したはずじゃあ……」
「その廃棄をこいつらが奥様によそって、朝に出したんじゃないんですか⁉」
今度青ざめたのは、料理人たちではなく侍女たちの方だった。
ラナを押し出すように前に二人が突き出し、あわあわとしている。
へぇ。そういうことだったの。
前日の廃棄物をわざわざ朝食に持ってきていたってこと。
用意周到というか、なんというか。ビックリするほど悪知恵が働くものね。それにしたって、そこまでしなくちゃいけないほど恨みでもあったのかと思うわ。
見ている感じだと、恨みというよりただの自分たちのストレス発散というか、遊びの延長に思えてしまう。だからこそ質が悪いのだろうけど。
「ではこの侍女たちが、私にわざとそのようなものを食べさせていたということなのでしょうか」
私は横目でちらりと彼女たちを見た。
自分たちのせいにされかけた料理人たちも皆、侍女たちを睨みつけている。
「ち、違う! あたしたちは何もしていないわ」
「では、私のために料理人たちが作ったご飯はどこに消えたというの?」
「そ、そんなの……」
「知らないはずないだろう。毎日、あんたたちに渡しているんだ! しかも三食きっちりだぞ」
呆れて物も言えないわね。
たかがご飯とはいえ、三食も自分たちで食べていたってことでしょう。
「まぁ。お昼は一度だって運ばれてきたことはなかったけれど……」
「おまえたち、奥様の食事を盗んでいたのか!」
「ちがう、ちがう、これは違うんです。何かの間違いなんです」
そんな言葉を繰り返しても、もはやこの場に彼女たちの言葉を信じる者など誰もいなかった。
いくらビオラをいじめたいからって、やりたい放題ね。
でもこれではっきりしたわね。
少なくとも、料理人たちは私に対して好意を抱いてはいなくとも、この子たちみたいなことはしていない。
これからは、食事にだけは困らなさそうだわ。
「あなたもごめんなさいね、私のせいで変に疑ってしまったみたいで」
「いえ、大丈夫です奥様」
料理長から解放され、彼は首を横に振った。
「昨日お昼にもいただいたけど、とてもここの料理は美味しかったわ。城で食べたものよりも、ずっとね。だからこれからも楽しみにしていいかしら?」
「もちろんです、奥様。すぐに朝食を作り直しいたします。どちらまで運びましょうか?」
そう言いながら、料理長はジロリと侍女たちを睨みつけた。
おそらく彼らが運んでくれるのかもしれないわね。
それなら、わざわざ二階にある自室までっていうのも気が引けるわ。
「それならダイニングまでお願いするわ。その方が手間にはならないでしょう」
「かしこまりました」
深々と頭を下げる彼らに微笑むと、一人厨房をあとにした。
ひと際大きな声で、料理長が自分の後ろに立つ他の料理人たちに声をかける。
あまりの勢いに、料理人たちは蒼白になりながら互いの顔を見つめ震えていた。
「名乗り出ないのならば、一人一人確認するぞ」
誰一人手を上げない状況にしびれを切らした料理長が、もう一度怒鳴りつけた。
一番最奥にいた細く色白い料理人が、やや半泣きになりながら片手を少しだけ上げて前へ出て来る。
「奥様の料理担当は自分です」
「おまえか!」
「違います! でも本当に違うんです! 聞いて下さい料理長」
名乗り出た料理人に料理長は近づくと、その襟を絞り上げる。
手を振り、首も横に振りながら、必死で料理人は抵抗していた。
さすがに見ていて可哀そうになり、私は助け舟を出す。
「あなたが私の食事を作ってくれていたの?」
「確かに作っていたのは自分です。ですが違うんです。自分はそんな粗末なものを用意したことなどありません」
「ではこれは何だというんだ! まかないですら、こんなものは出さないぞ」
料理長は私が持ってきたスープとパンを指さした。
やはり思った通り、まかないですらなかったのね。
おかしいと思ったのよね。
いくらまかないにしたって、こんなに酷いものを出すのかって気になっていたのよ。
でもそうなると、侍女たちが自分たちの食事と入れ替えたってわけでもないのね。
どういうことなのかしら。
「そ、それにそのスープ。具はないですが、昨日の夕飯に出したものに似ているじゃないですか」
「ん?」
締め上げられている料理人の言葉に、皆がまたスープを見る。
そして口々に、本当だと呟いていた。
「確かに昨日はコンソメのスープだった……。しかしまかないも出したあと、残りは全部廃棄したはずじゃあ……」
「その廃棄をこいつらが奥様によそって、朝に出したんじゃないんですか⁉」
今度青ざめたのは、料理人たちではなく侍女たちの方だった。
ラナを押し出すように前に二人が突き出し、あわあわとしている。
へぇ。そういうことだったの。
前日の廃棄物をわざわざ朝食に持ってきていたってこと。
用意周到というか、なんというか。ビックリするほど悪知恵が働くものね。それにしたって、そこまでしなくちゃいけないほど恨みでもあったのかと思うわ。
見ている感じだと、恨みというよりただの自分たちのストレス発散というか、遊びの延長に思えてしまう。だからこそ質が悪いのだろうけど。
「ではこの侍女たちが、私にわざとそのようなものを食べさせていたということなのでしょうか」
私は横目でちらりと彼女たちを見た。
自分たちのせいにされかけた料理人たちも皆、侍女たちを睨みつけている。
「ち、違う! あたしたちは何もしていないわ」
「では、私のために料理人たちが作ったご飯はどこに消えたというの?」
「そ、そんなの……」
「知らないはずないだろう。毎日、あんたたちに渡しているんだ! しかも三食きっちりだぞ」
呆れて物も言えないわね。
たかがご飯とはいえ、三食も自分たちで食べていたってことでしょう。
「まぁ。お昼は一度だって運ばれてきたことはなかったけれど……」
「おまえたち、奥様の食事を盗んでいたのか!」
「ちがう、ちがう、これは違うんです。何かの間違いなんです」
そんな言葉を繰り返しても、もはやこの場に彼女たちの言葉を信じる者など誰もいなかった。
いくらビオラをいじめたいからって、やりたい放題ね。
でもこれではっきりしたわね。
少なくとも、料理人たちは私に対して好意を抱いてはいなくとも、この子たちみたいなことはしていない。
これからは、食事にだけは困らなさそうだわ。
「あなたもごめんなさいね、私のせいで変に疑ってしまったみたいで」
「いえ、大丈夫です奥様」
料理長から解放され、彼は首を横に振った。
「昨日お昼にもいただいたけど、とてもここの料理は美味しかったわ。城で食べたものよりも、ずっとね。だからこれからも楽しみにしていいかしら?」
「もちろんです、奥様。すぐに朝食を作り直しいたします。どちらまで運びましょうか?」
そう言いながら、料理長はジロリと侍女たちを睨みつけた。
おそらく彼らが運んでくれるのかもしれないわね。
それなら、わざわざ二階にある自室までっていうのも気が引けるわ。
「それならダイニングまでお願いするわ。その方が手間にはならないでしょう」
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深々と頭を下げる彼らに微笑むと、一人厨房をあとにした。
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