愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

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015 母親にはなれなくても

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「ルカ様、私は仮にもあなたの継母です。本物の母親にはなれないかもしれませんが、せめて友だちのように仲良くさせてくれませんか?」
「でも……」
「んー。私、ココでは誰も仲良くしてくれる人がいないんです。だからルカ様と仲良くなれたら本当に嬉しいなって思うんですが、ダメですか?」
「え?」

 驚いたように目を見開く。
 まだこうやってマトモに会話を始めたのが二日目だものね。
 いきなり距離詰めすぎちゃったかな。

 ルカの反応を見ていると、こちらの方が不安になってくる。
 しかしルカは、そんな私に気づいたのか微笑んでくれた。

「ボクも仲良くしたいでしゅ、ビオラ様」
「ふふふ、嬉しい。良かった。それなら仲良しの印に、敬語もやめちゃいましょうか」

 私がそう言うと、ルカは声を出しながら笑う。

 そこから二人で、虫を観察しつつ、虫の絵を描いた。
 ルカの描く虫は、子どもが書くものにしては触角や節など細かく丁寧に描かれていた。

 好きだからこそって感じかしら。ビックリするほど才能があるわ。

「初めてと思えないほど上手ね」
「えへへ。そんなことないでしゅ」 

 絵の出来を褒めつつ、ルカの天才ぶりに感激している頃、アーユが庭まで帽子と日傘、それに昼食まで届けてくれた。

 アーユの指示なのか、庭にはテーブルと椅子が置かれ、そこに美味しそうな食事が運ばれてくる。

「えっと、ビオラ……様?」
「だから様はもういらないですよ」
「だってビオラ……だって、敬語でしゅ」
「ふふふ、そうだったわ。ルカ、お昼ごはんにしましょう」

 些細な言葉で笑い、共に食事につく。そんな日常が、どこまでも心地いい。
 昨日は簡単に食べられるサンドイッチだったけど、今日はテーブルまで出してもらえたおかげで普通の食事だ。

「お昼からは、お部屋で先ほど描いた虫の絵に名前を書きませんか?」

 この体になって分かったことがいくつかある。それは記憶がなくとも、体が覚えていることは出来るということ。公爵であるアッシュの名前がスラっと出てきた時点でなんとなく想像は出来たけど、どうやら文字などの読み書きも体が覚えているらしい。

 つまり記憶がなくとも日常生活には何ら支障がないのだ。

「文字……」
「ええ、そうです」

 アーユによって日傘と帽子は届けられたものの、今日は特に日差しが強く暑い。
 私は大丈夫でも、この小さな体のルカは少し危険かもしれない。熱中症とかにでもなったら大変だわ。

「でもボク、まだ文字はムリでしゅ。書けないでしゅよ」
「大丈夫よ。一緒に書けばいいんだもの。たくさん二人でいろんなことをしてみましょう?」
「ボクが出来なくても……ビオラは怒らないでしゅか?」

 テーブル越しに、その小さな瞳は私を覗き込む。
 怒る? なにをどうしたら、そんな風に……。
 文字なんて、まだ習う歳でもないはずなのに。

 先ほどの返答といい、やはり乳母はかなりのくせ者のようね。
 いくらルカのことを公爵から全面的に任されているとはいえ、あり得ないことばかりだわ。

 こうやってお昼にルカをかばったり、正しいことを教え直したりするだけではダメね。根本的な解決にならないもの。やはり乳母には、私からきちんと抗議しないと。

 だけど問題は、公爵がルカに興味がない以上に毛嫌いしていることだ。
 それに継母であり、ルカよりも公爵に嫌われている私が乳母に何か言ったところで変わるかしら。私のここでの立ち位置は、使用人ならみんな知っているはずだし。それを逆手に取られなきゃいいけど。

「怒るわけがないわ。むしろ絵もとても上手だし、ルカはこの国一の天才だと思ってるのよ」
「天才ではないでしゅよ」
「本当よ。こんなに可愛くて絵も上手で。ルカはまだ四歳なのにすごいわ」
「……ビオラにそー言われると、なんだかうれしいでしゅ」

 耳まで真っ赤にして照れるルカは、抱きつきたくなるほどの可愛さだった。
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