愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
64 / 78

063 羨ましい

しおりを挟む
「ビオラ様、本当にありがとうございました」

 二人の背を眺めていた私に、フィリアが改まったように声をかけてきた。
 先ほどまでのにこやかな顔ではなく、真剣な顔で。
 その姿に私も、真っすぐに彼女を見る。

「どうされたんです?」
「スタンピードをルカ様と予測されたばかりか、私設騎士団の派遣や王宮にまで働きかけていただいたのだと、夫よりお聞きしました」

 いけない、私が進言したとかって公表はしないでって兄に口止めするの忘れてたわ。
 やだ、変に目立ちたくなかったのに。

 別に自分の功績を上げたくてやったわけじゃないから、内緒にしていて欲しかったんだけど失敗したわ。

「ああ、あれはたまたまですわ。ルカが見つけたことで私なんかは特に何も」

 誤魔化すように後頭部をかきながら答えた。
 しかしフィリアはどこまでも真っすぐに私を見ている。

「ご謙遜なさらないでください。もしビオラ様の発言がなければ、夫たち第二騎士団がどうなっていたことか」
「戦闘はすごく大変だったと、私もあとから公爵様より聞きました」
「はい。悪天候も相まって、もし応援がなければ第二騎士団は全滅していたかもしれません。だからすべてはビオラ様のおかげなのです」

 そう言われるとさすがに恥ずかしいけど、当初の予定通りバイオレッタの父親を助けられてよかった。
 彼が生きていれば、フィリアが女手一つでバイオレッタを育てて倒れてしまうこともないし、彼女が天涯孤独になることもないだろう。

 あとはルカが闇落ちさえしなければ、もう完璧よね。
 今のところその兆候はないけど、あの母親がなぁ。

 このまま大人しくしてくれていればいいけど、さすがにラストまで登場しないってことはないはず。
 家族仲がとても良いアピールはしているけど、どうかな。

「そこまでのことをしたつもりはないのですが、何にしてもみんなが無事でよかったわ」
「本当にです。ビオラ様、ありがとうございます」

 ようやくフィリアはそう言いながら、微笑んだ。
 
「わたし、本当はダメだと頭では分かっているのですが……。夫が緊急で出動するたびに、いつも心配になってしまってしまうんです。しかも今回はあとから、大規模なスタンピードの前兆だったなんて言われてしまって」
「全然ダメなことではないわ。誰だって、愛する人が危険な目に合えば心配になるでしょう」
「ビオラ様もですか?」
「え、ええ。そうね」

 答えてから、ふと気づく。確かにあの時私は心配で眠れないほどだった。

 だけどあの時の感情は、ただ家族としてのものよね。
 だって私には愛情なんてあるはずが……。

 自分の胸に手を当てた。よくわからない感情が、確かにここにはある。

 自分でもなんて表現したらいいのか、難しい感情が。
 だからこそ、ふとフィリアに聞いてみたくなってしまった。

「ねぇ、フィリア様たちは恋愛結婚でしたわよね?」
「え、あ、そうですね。元々お互いに平民でしたし。彼は、わたしの幼馴染なんです」
「幼馴染。ということは、子どもの頃から知り合いだったのね」
「そうですね。あの頃は夫と結婚するなんて夢にも思っていませんでしたが、立派な騎士になった彼を見た時にいいなって思ってしまって」

 きゃーー。他人の恋バナって初めて聞いたわ。
 なんかこういうの、女子会っぽい感じっていうのかな。
 ヤバい、楽しいかも。

「それで、告白は彼から?」
「ええ、そうなんです。騎士団に入団して昇進した時に結婚を申し込まれたんです。まさか、その後大きな功績を上げて一代限りとはいえ、爵位をいただけるとは思ってもみませんでしたけどね」

 旦那さん、フィリアのためにも頑張った感じなのかな。
 でもいいなぁ、本当に幸せそうで。

 もちろん平民から貴族になるということは、きっと想像以上に大変なことなのだと思う。
 好奇の目もあるだろうし、マナーとか何もかもが違う世界だから。
 だけどその中でも幸せそうにしていられるって、憧れちゃうな。

「羨ましいわ」

 気づけばそんな言葉が口からこぼれてしまっていた。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

公爵子息の母親になりました(仮)

綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる 一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく 「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」 「エルシー! 僕も大好きだよ!」 「彼女、私を避けすぎじゃないか?」 「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。 会うのはパーティーに参加する時くらい。 そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。 悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。 お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。 目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。 旦那様は一体どうなってしまったの?

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。 ※新作です。アルファポリス様が先行します。

処理中です...