70 / 78
068 可哀そうな娘
しおりを挟む
「聞けば公爵とは、未だに白い結婚だというではないか」
「いえ、そんなことは……」
確かに白い結婚ではあるけども。だけどそんな話、どこから漏れたというの?
今は少なくとも外では円満夫婦に見える様になってきているはずだから、貴族たちの噂でってわけではないでしょう。
でもそうなると、屋敷の中の誰かがもらしたということになる。
そんなことあり得るだろうか。
ラナたちが屋敷にいた時ならまだしも、今は職務内で知り得た情報をもらすような人間はあそこにはいないはずなのに。
そう考えると、過去の情報を鵜呑みにしていると考えるべきかしら。
どちらにしても否定しないと。
「私とアッシュ様の仲はとても良好なので大丈夫ですわ。それにあの方の子どもであるルカを、自分の子として大切に育てているので決して白い結婚というわけではないのですよ」
「だがその息子は二人の本当の子ではないだろう」
「それは、そうかもしれませんが。少なくとも私は本当の子として育てているつもりです」
出来ないことも多くて、手探りでしかないけど。
ルカは私の大切な子どもだもの。
だけどいくら大丈夫だと父に伝えても。どれだけ仲の良さをアピールしても、父が納得することはなかった。
自分の子がないのはダメなことだと。いくらアッシュの息子を育てていても、それではなんの意味もないと。継母などいつか不要になったら捨てられてしまうと。
私の気持ちなど聞く耳も持たぬという風に、最後は私がどこまでも不憫だと締め括る。
ここまで来ると、父が言っている言葉に別の意味があるのだと気づく。
「どうしてお父様はそんなことを言うのですか?」
「ワシはお前のために考えたのだ」
「何をですか?」
「こんな不幸な結婚を続けるよりも、新しい結婚をした方がお前は幸せになると」
きっぱりと言い切った父の瞳は、先ほどまでの弱った病人の瞳ではなかった。
この瞳はよく知っている。
確かにその体は弱り切ってはいるのだろう。でも所詮それだけ。人間中身なんて、早々変わるものではないのだ。
父はただ自分の思惑のために、私を可哀そうな娘に仕立て上げたかっただけ。
本心はそう、先ほどの言葉にある。
新しい結婚。
要は父はもう一度私を自分のコマとして扱いたいのだ。
もしかすると、父は自分にとって都合のいい相手が見つかったのかもしれないし。
そうではないとしても、公爵に私をあげてしまったことを後悔したのかもしれない。
どちらにしても冗談じゃない。
兄がここへ来るなと言った意味が、やっと分かった気がする。
むしろその見た目に騙されて、同情してしまうところだったわ。
「お父様、私は今幸せなのです。それに私は現公爵夫人。いくらお父様と言えど、その地位を脅かすことは出来ません。私は離婚など、一度も考えたことなどありません」
「ワシに逆らう気か、ビオラ。こんなにもお前のためを思う父を、裏切ると言うのだな」
「どうしてそうなるのです。もう結婚したのですよ? あなたの手から私は離れたのです」
「だから取り戻そうと思ったのだ。すべてはお前の幸せのためだ」
「そのようなお話ならば、私は家に帰らせていただきます」
話にならないわ。このままここにいても腹立つだけ。
一旦屋敷に戻って、公爵から話を付けてもらおう。
そう思い私が部屋から出ようとすると、その行く手を護衛騎士たちが阻む。
「そこをどきなさい。私を誰だと思っているのです」
「申し訳ございません。公爵夫人。ですが、これは国王陛下のご命令です」
「!」
私は振り返り父を睨みつける。
死に際だというのに、どこまでもその存在は大きく、未だ父の中では野心が渦巻いているようだった。
「いえ、そんなことは……」
確かに白い結婚ではあるけども。だけどそんな話、どこから漏れたというの?
今は少なくとも外では円満夫婦に見える様になってきているはずだから、貴族たちの噂でってわけではないでしょう。
でもそうなると、屋敷の中の誰かがもらしたということになる。
そんなことあり得るだろうか。
ラナたちが屋敷にいた時ならまだしも、今は職務内で知り得た情報をもらすような人間はあそこにはいないはずなのに。
そう考えると、過去の情報を鵜呑みにしていると考えるべきかしら。
どちらにしても否定しないと。
「私とアッシュ様の仲はとても良好なので大丈夫ですわ。それにあの方の子どもであるルカを、自分の子として大切に育てているので決して白い結婚というわけではないのですよ」
「だがその息子は二人の本当の子ではないだろう」
「それは、そうかもしれませんが。少なくとも私は本当の子として育てているつもりです」
出来ないことも多くて、手探りでしかないけど。
ルカは私の大切な子どもだもの。
だけどいくら大丈夫だと父に伝えても。どれだけ仲の良さをアピールしても、父が納得することはなかった。
自分の子がないのはダメなことだと。いくらアッシュの息子を育てていても、それではなんの意味もないと。継母などいつか不要になったら捨てられてしまうと。
私の気持ちなど聞く耳も持たぬという風に、最後は私がどこまでも不憫だと締め括る。
ここまで来ると、父が言っている言葉に別の意味があるのだと気づく。
「どうしてお父様はそんなことを言うのですか?」
「ワシはお前のために考えたのだ」
「何をですか?」
「こんな不幸な結婚を続けるよりも、新しい結婚をした方がお前は幸せになると」
きっぱりと言い切った父の瞳は、先ほどまでの弱った病人の瞳ではなかった。
この瞳はよく知っている。
確かにその体は弱り切ってはいるのだろう。でも所詮それだけ。人間中身なんて、早々変わるものではないのだ。
父はただ自分の思惑のために、私を可哀そうな娘に仕立て上げたかっただけ。
本心はそう、先ほどの言葉にある。
新しい結婚。
要は父はもう一度私を自分のコマとして扱いたいのだ。
もしかすると、父は自分にとって都合のいい相手が見つかったのかもしれないし。
そうではないとしても、公爵に私をあげてしまったことを後悔したのかもしれない。
どちらにしても冗談じゃない。
兄がここへ来るなと言った意味が、やっと分かった気がする。
むしろその見た目に騙されて、同情してしまうところだったわ。
「お父様、私は今幸せなのです。それに私は現公爵夫人。いくらお父様と言えど、その地位を脅かすことは出来ません。私は離婚など、一度も考えたことなどありません」
「ワシに逆らう気か、ビオラ。こんなにもお前のためを思う父を、裏切ると言うのだな」
「どうしてそうなるのです。もう結婚したのですよ? あなたの手から私は離れたのです」
「だから取り戻そうと思ったのだ。すべてはお前の幸せのためだ」
「そのようなお話ならば、私は家に帰らせていただきます」
話にならないわ。このままここにいても腹立つだけ。
一旦屋敷に戻って、公爵から話を付けてもらおう。
そう思い私が部屋から出ようとすると、その行く手を護衛騎士たちが阻む。
「そこをどきなさい。私を誰だと思っているのです」
「申し訳ございません。公爵夫人。ですが、これは国王陛下のご命令です」
「!」
私は振り返り父を睨みつける。
死に際だというのに、どこまでもその存在は大きく、未だ父の中では野心が渦巻いているようだった。
1,216
あなたにおすすめの小説
皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。
この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。
そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。
ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。
なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。
※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
公爵子息の母親になりました(仮)
綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた
しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる
一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい
そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく
「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」
「エルシー! 僕も大好きだよ!」
「彼女、私を避けすぎじゃないか?」
「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様
しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。
会うのはパーティーに参加する時くらい。
そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。
悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。
お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。
目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。
旦那様は一体どうなってしまったの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる