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074 そばに
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「ビオラ、本当に君が無事でよかった」
帰り道の馬車、なぜか私の隣に座ったアッシュはそう零す。
その顔は安堵だけではない気がした。
「兄を呼びに行ってまで助けにきていただいて、ありがとうございました」
「そんなことはいいんだ。国王陛下があそこまで強硬な策を取ると思わなかった、俺の落ち度でもある」
「それは……。普通、私を隔離して離婚を迫るようにするだなんて、誰も想像できないですわ」
今回のことはアルトリオの優しさに救われたようなもの。
本来だったら、大きな外交問題になってもおかしくはなかった。
あの後、兄と面会した時に後のことはアルトリオのことも含め、上手くやってくれるとは言っていたけど。
でも、本当にあの方には悪いことをしてしまったわ。
父が指定した人間だから、絶対に悪い人だって先入観も持ってしまっていたし。
彼のためにも、父が二度とこんなことを起こさないようにしてもらわなくちゃ。
政権交代だけなんて、生ぬるいとこではなくてね。
「そうだ……。アッシュ様は本当に、子どもの頃から……その、あの……」
「初恋だったんだ。ビオラ、いつも君は王城でも一人だったな」
「……ええ、そうですね」
父である王にも、兄妹たちにも疎まれて育ってきた。
王宮内でも捨て置かれた存在だったけど、アッシュは父親について登城する際に、いつも気にかけてくれていた。
きっかけはなんだったのか、そこまでは覚えていないけど。
「父から君の不遇は聞いていた。だけどそんな中でも一人強く生き、誰よりも優しく笑う君に惹かれていたんだ」
それは私も同じ。
アッシュは自分だけに唯一優しく、差別しない人だったから。
中庭で遊んだり、家からこっそり持ってきたというお菓子を食べたりするうちに、彼が大切になっていった。
「でも私は……あの人の娘です。アッシュ様から愛される資格などないことなど、分かっていました。でも……」
愛されないと分かっていても、いつかの笑顔が頭から離れなかった。
だからもう一度窮地に立たされたこの人を救ったら、また昔のような笑顔を自分に向けてくれるかもしれないって思ったのよね。
「あの時、嬉しかったんだ。元から君は俺にとって初恋の人。そんな君がわざわざ後妻などと不名誉な嫁ぎ先を選んでくれた。だから本当は、きちんとそれを伝えるべきだった」
「不名誉だなんてそんな」
「いや、そうさ。本来だったらどこかの国の王妃にもなれる身分だったのに」
そうね。あの時、父に進言しなければ、それこそどこか他国に嫁がされていたでしょうね。
相手がアルトリオみたいな良い人とは限らずに。
「私は後妻が不幸なことだとは一度も思ったことはありません。可愛いルカがいて、大切だった人の元へも嫁げたのですから。でもそのことと、私があの人の娘であることは関係ない」
「娘であったとしても、父が死んだことは君のせいではないだろう。むしろそのことを引きずり続けて君を傷つけた自分を、今は殴り飛ばしたいくらいだ」
真っ直ぐなアッシュの瞳。そこにはただ、私が写る。
「本当にすまなかった」
「アッシュ様」
「あんなにも君のことが好きだったのに、俺は……」
私はアッシュの手に触れる。温かく、少しゴツゴツとした指。
愛なんて……夫なんていらないって思っていたんだけどな。
いつからそばにいて、触れてみたいだなんて思うようになってしまったんだろう。
「私に罪がないというのなら、ずっとそばにいさせて下さい。二人のそばに」
「ああ、もちろんだ。愛してる、ビオラ」
そう言いながらアッシュは、私に口づけをした。
いつもなら屋敷までの道のりは長いはずなのに、この日はただただ短く感じた。
帰り道の馬車、なぜか私の隣に座ったアッシュはそう零す。
その顔は安堵だけではない気がした。
「兄を呼びに行ってまで助けにきていただいて、ありがとうございました」
「そんなことはいいんだ。国王陛下があそこまで強硬な策を取ると思わなかった、俺の落ち度でもある」
「それは……。普通、私を隔離して離婚を迫るようにするだなんて、誰も想像できないですわ」
今回のことはアルトリオの優しさに救われたようなもの。
本来だったら、大きな外交問題になってもおかしくはなかった。
あの後、兄と面会した時に後のことはアルトリオのことも含め、上手くやってくれるとは言っていたけど。
でも、本当にあの方には悪いことをしてしまったわ。
父が指定した人間だから、絶対に悪い人だって先入観も持ってしまっていたし。
彼のためにも、父が二度とこんなことを起こさないようにしてもらわなくちゃ。
政権交代だけなんて、生ぬるいとこではなくてね。
「そうだ……。アッシュ様は本当に、子どもの頃から……その、あの……」
「初恋だったんだ。ビオラ、いつも君は王城でも一人だったな」
「……ええ、そうですね」
父である王にも、兄妹たちにも疎まれて育ってきた。
王宮内でも捨て置かれた存在だったけど、アッシュは父親について登城する際に、いつも気にかけてくれていた。
きっかけはなんだったのか、そこまでは覚えていないけど。
「父から君の不遇は聞いていた。だけどそんな中でも一人強く生き、誰よりも優しく笑う君に惹かれていたんだ」
それは私も同じ。
アッシュは自分だけに唯一優しく、差別しない人だったから。
中庭で遊んだり、家からこっそり持ってきたというお菓子を食べたりするうちに、彼が大切になっていった。
「でも私は……あの人の娘です。アッシュ様から愛される資格などないことなど、分かっていました。でも……」
愛されないと分かっていても、いつかの笑顔が頭から離れなかった。
だからもう一度窮地に立たされたこの人を救ったら、また昔のような笑顔を自分に向けてくれるかもしれないって思ったのよね。
「あの時、嬉しかったんだ。元から君は俺にとって初恋の人。そんな君がわざわざ後妻などと不名誉な嫁ぎ先を選んでくれた。だから本当は、きちんとそれを伝えるべきだった」
「不名誉だなんてそんな」
「いや、そうさ。本来だったらどこかの国の王妃にもなれる身分だったのに」
そうね。あの時、父に進言しなければ、それこそどこか他国に嫁がされていたでしょうね。
相手がアルトリオみたいな良い人とは限らずに。
「私は後妻が不幸なことだとは一度も思ったことはありません。可愛いルカがいて、大切だった人の元へも嫁げたのですから。でもそのことと、私があの人の娘であることは関係ない」
「娘であったとしても、父が死んだことは君のせいではないだろう。むしろそのことを引きずり続けて君を傷つけた自分を、今は殴り飛ばしたいくらいだ」
真っ直ぐなアッシュの瞳。そこにはただ、私が写る。
「本当にすまなかった」
「アッシュ様」
「あんなにも君のことが好きだったのに、俺は……」
私はアッシュの手に触れる。温かく、少しゴツゴツとした指。
愛なんて……夫なんていらないって思っていたんだけどな。
いつからそばにいて、触れてみたいだなんて思うようになってしまったんだろう。
「私に罪がないというのなら、ずっとそばにいさせて下さい。二人のそばに」
「ああ、もちろんだ。愛してる、ビオラ」
そう言いながらアッシュは、私に口づけをした。
いつもなら屋敷までの道のりは長いはずなのに、この日はただただ短く感じた。
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