【完結】妹の代わりなんて、もううんざりです

美杉日和。(旧美杉。)

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009 成り代わり

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 それからほどなくして城の裏側から抜け出した馬車で、私はマリンと合流した。

 状況を悲観しているかと思っていたマリンは、いつものふてぶてしい態度だった。

「まったく姉さま、来るの遅すぎ!」

 馬車の中で喚くマリンに、私はわざとらしく大きなため息をついた。

「なんなの、それ!」
「みんなマリンの時間に合わせて生きていないのよ」
「でもだって、午後の試験がもう少しで始まっちゃうじゃない」

 大きくその頬を膨らませて見せる。
 大概の人間は、この仕草が可愛いと思うらしい。

 だからマリンがこうやってむくれて怒れば、それをなだめにかかるのだ。

 だけど所詮は元は同じ顔。
 私にそんなものが通じないと、なぜ分からないのかしら。

 姿かたちは同じでも、中身はまったく違う。
 そのせいか私はマリンと同じだと思ったことは一度もなかった。

「まずもって、この状況が分かっているの?」
「姉さまがわたしの代わりに、めんどくさい試験だけ受けてくれるってことでしょう?」
「あなたねぇ」
「やっだぁ。冗談じゃない。そんなに怒らないでよ」

 ニタリと笑うマリンに、私は再びため息をついた。
 成り代わることがそれだけのことなのか、この子には理解できないんでしょうね。

「バレたらどうなるか分かってるの? タダでは済まないのよ」
「あーはいはい。わかってまーす」
「はいはいではなくて。替え玉で試験を受けたことがバレれば、下手したらみんなが処刑されるかもしれないのよ? 本当に分かっているの?」

 私の言葉に、マリンはようやく少し考えているようだった。

 ただこの子が出した答えは、何よりも醜いものだったけども。

「んー、その時はわたしを不憫に思った姉さまが勝手に成り代わったことにすれば、さすがに一族みんな処刑ってことはないんじゃない?」
「……」
「なぁに。その怖い顔。わたしと似てなくなっちゃうからやめてよね、冗談だってさっきから言ってるじゃない。ちゃんとその時は、姉さまを助けて下さいって懇願してあげるわ」

 懇願したところで、どうなるというのよ。
 結局はその罪を私に押し付けるってことじゃない。

「だから、とにかくバレないように姉さまも頑張ってね」

 ありがたくもない応援だった。
 私は無言のままマリンが来ていたドレスと自分のドレスを交換する。

 そして乗り合わせた侍女に、マリンと同じ髪型にしてもらうと、マリンが乗って来た馬車で城へと一人戻った。

 部屋の位置は確認してある。
 次の試験時間まではもういくらもない。

 逃げ出したくなる気持ちを押さえ、私はマリンとして試験に参加した。
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