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そんな婚約は嫌です
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「という訳で、お前の婚約者が決まった」
夕食後、皆でくつろいでいた所に、遅く帰ってきたお父様からの爆弾発言。
「いやいや、という訳ってどういう訳?」
次兄のライモンド、ライ兄様が突っ込む。
「私にもさっぱりわからん。突然、またあのクソ王子がアンジェリーナを嫁に欲しいと言ってきた」
「その話、以前にも断ったはずですが?」
長兄のジルベルト、ジル兄様が冷ややかな口調で返す。
「どうせあれだろ。また気まぐれに国王になりたいなあ、とか思ったんだろ」
ガタイのいい身体をどっかりとソファに沈めて、長い足を邪魔そうに組むライ兄様。
「多分な。ガルヴァーニ家の後ろ盾が欲しくて言い出したのだろう」
ライ兄様とは対照的にすらっとした細身の身体を、一人掛けのソファに預けてブランデーを飲むジル兄様。
「クソ王子って王位継承順位、第三位だろ。無理だろ。その前にバカだし」
「大方、暗部でも使って王太子を暗殺でもしようって魂胆じゃないのか?」
「暗部がクソ王子の命令なんて聞くわけないのになあ」
「そもそも、うちの後ろ盾を持っても意味はない」
「それすらわからないなんて全く。母親といい、此の親にして此の子ありとはあの親子の事だな」
兄二人で、不敬を通り越すほどボロクソに言っていると、お母様まで入ってきた。
「本当に、陛下は立派な為政者なのだけれど、あの女性を側妃に迎え入れたことが唯一残念なところよねえ」
「まあ、クソ王子に言われただけだから特に心配することはない。明日の朝一番に陛下に直接断りに行くしな」
「それなら別に、この報告はいらなかったのでは?お父様」
「ん?面白かっただろ」
「まあ、あなたったら」
「くだらない」
ジル兄様の冷たい一言に、ライ兄様と私は苦笑をこぼす。
そんな私たちをよそに、夫婦は楽しそうに笑い合っている。
仲がいいのはいいけれど、私をネタに使わないで欲しい。
でもまあこれで、短い婚約期間……になるのかもわからないが無事に終了する。
そう思っていたのだが、今回はそう簡単にはいかなかった。
「婚約破棄出来ない?」
兄妹三人の声が綺麗に揃った。
「そもそも婚約はしていない。ただ、今回はクソ王子がノリノリで意見を覆そうとしないのだ。陛下も少しの間だけ、素振りを見せるだけでいいから続けてくれと」
「なんでそんな面倒なことを……親バカにもほどがある」
ジル兄様の眉間にしわが寄る。
「多分、暗部を手に入れたいんだろうな」
お父様の言葉にキョトンする。
「なんでアンジーを嫁にすれば暗部が付いてくるって思ってるんだ。ジル兄と結婚しなきゃダメだろ」
「おい、やめろ。鳥肌が立ったぞ」
腕を捲って見せるジル兄様。本当に立っている。
「ジルが娶りたいと言うなら止めはしないが」
「父上も、そこで乗らない!」
腕をさすりながらジル兄様が軽くキレた。
「はは、まあ冗談はさておき、多分だが暗部に入り浸っていた頃のアンジーを知っているからだろう」
「入り浸ってたからって……」
「そこはクソ王子だからな」
「そもそもアンジー、あと数か月で学園を卒業する歳なのに、いつまでも婚約者を決めないからこうなるんじゃないのか?」
ニヤニヤ笑いながらライ兄様が言う。
「だって、皆私より弱いんだもの。私より、出来ればライ兄様より強い人がいいの」
「俺より強いってなったら騎士団でも数人しかいないぞ」
「だから困ってるの」
「別に無理に嫁ぐ必要はない。例えお前が一人身でいたとしても、お前ひとりなんてどうにでもなる。ずっと家に居ればいい。」
「そうだぞ。私が隠居してもジルベルトがちゃんと面倒を見てくれる」
「ああ、そうやって甘やかすからこんな子になっちゃたんだよなあ」
ライ兄様が大きく溜息をつく。
「うふふ。まあ、結婚するしないはともかく、恋はしてほしいなあって母様は思うわ」
「恋?」
「そう。母様がお父様に一目惚れしたみたいにね。それか、ディアナのように相手からの猛アプローチで落とされたなんていうのもいいわよねえ」
「あれは凄かったわ……」
私の九才上のディアナ姉様は、現王太子のフィエロ殿下から寝ても覚めても愛の言葉を紡がれるという凄まじいアプローチに落ちた……というか諦めた。始めは王族なんて嫌だと断り続けていたのだけれど、屋敷中が殿下の贈ってきた花々で埋め尽くされる寸前に折れたのだ。当時、九歳になったかならないか位の私は、何度か大量の花に埋もれて死にかけた。以来、フィエロ殿下は恐ろしい人だと、しばらくは真剣に恐れていた。
勿論、今はラブラブで可愛い子供たちもいる。おまけに二人の恋物語は本にまでなっていて、恋する乙女のバイブルと言われている。
「できれば私だって恋をしてみたいわ。でも、私より剣の実力が強い人が周りにいないんだもの。スタート地点にも立てない」
「もうそこ、諦めたら?」
「それは嫌。お父様は勿論、ジル兄様もライ兄様も私より強いじゃない。そんな中で育っていたら、私より弱い人なんて目に入らないわよ」
「じゃあ、このままクソ王子と結婚って事になってもいいのか?それこそあのクソ王子なんてめちゃくちゃ弱いぞ」
「嫌よ」
「じゃあどうすんだ?」
「……」
「いっそのこと騎士団に行って確かめてきたらどうだ?」
「ジル兄、何言ってんの?アンジーが見学なんて来たら、皆浮足立って実力を発揮するどころか稽古にも身が入らなくなるだけだぞ」
「そりゃそうだろう。こんな美人そういないからな。だから、令嬢として行くのではなく、騎士団員として行けばいい」
「は?」
夕食後、皆でくつろいでいた所に、遅く帰ってきたお父様からの爆弾発言。
「いやいや、という訳ってどういう訳?」
次兄のライモンド、ライ兄様が突っ込む。
「私にもさっぱりわからん。突然、またあのクソ王子がアンジェリーナを嫁に欲しいと言ってきた」
「その話、以前にも断ったはずですが?」
長兄のジルベルト、ジル兄様が冷ややかな口調で返す。
「どうせあれだろ。また気まぐれに国王になりたいなあ、とか思ったんだろ」
ガタイのいい身体をどっかりとソファに沈めて、長い足を邪魔そうに組むライ兄様。
「多分な。ガルヴァーニ家の後ろ盾が欲しくて言い出したのだろう」
ライ兄様とは対照的にすらっとした細身の身体を、一人掛けのソファに預けてブランデーを飲むジル兄様。
「クソ王子って王位継承順位、第三位だろ。無理だろ。その前にバカだし」
「大方、暗部でも使って王太子を暗殺でもしようって魂胆じゃないのか?」
「暗部がクソ王子の命令なんて聞くわけないのになあ」
「そもそも、うちの後ろ盾を持っても意味はない」
「それすらわからないなんて全く。母親といい、此の親にして此の子ありとはあの親子の事だな」
兄二人で、不敬を通り越すほどボロクソに言っていると、お母様まで入ってきた。
「本当に、陛下は立派な為政者なのだけれど、あの女性を側妃に迎え入れたことが唯一残念なところよねえ」
「まあ、クソ王子に言われただけだから特に心配することはない。明日の朝一番に陛下に直接断りに行くしな」
「それなら別に、この報告はいらなかったのでは?お父様」
「ん?面白かっただろ」
「まあ、あなたったら」
「くだらない」
ジル兄様の冷たい一言に、ライ兄様と私は苦笑をこぼす。
そんな私たちをよそに、夫婦は楽しそうに笑い合っている。
仲がいいのはいいけれど、私をネタに使わないで欲しい。
でもまあこれで、短い婚約期間……になるのかもわからないが無事に終了する。
そう思っていたのだが、今回はそう簡単にはいかなかった。
「婚約破棄出来ない?」
兄妹三人の声が綺麗に揃った。
「そもそも婚約はしていない。ただ、今回はクソ王子がノリノリで意見を覆そうとしないのだ。陛下も少しの間だけ、素振りを見せるだけでいいから続けてくれと」
「なんでそんな面倒なことを……親バカにもほどがある」
ジル兄様の眉間にしわが寄る。
「多分、暗部を手に入れたいんだろうな」
お父様の言葉にキョトンする。
「なんでアンジーを嫁にすれば暗部が付いてくるって思ってるんだ。ジル兄と結婚しなきゃダメだろ」
「おい、やめろ。鳥肌が立ったぞ」
腕を捲って見せるジル兄様。本当に立っている。
「ジルが娶りたいと言うなら止めはしないが」
「父上も、そこで乗らない!」
腕をさすりながらジル兄様が軽くキレた。
「はは、まあ冗談はさておき、多分だが暗部に入り浸っていた頃のアンジーを知っているからだろう」
「入り浸ってたからって……」
「そこはクソ王子だからな」
「そもそもアンジー、あと数か月で学園を卒業する歳なのに、いつまでも婚約者を決めないからこうなるんじゃないのか?」
ニヤニヤ笑いながらライ兄様が言う。
「だって、皆私より弱いんだもの。私より、出来ればライ兄様より強い人がいいの」
「俺より強いってなったら騎士団でも数人しかいないぞ」
「だから困ってるの」
「別に無理に嫁ぐ必要はない。例えお前が一人身でいたとしても、お前ひとりなんてどうにでもなる。ずっと家に居ればいい。」
「そうだぞ。私が隠居してもジルベルトがちゃんと面倒を見てくれる」
「ああ、そうやって甘やかすからこんな子になっちゃたんだよなあ」
ライ兄様が大きく溜息をつく。
「うふふ。まあ、結婚するしないはともかく、恋はしてほしいなあって母様は思うわ」
「恋?」
「そう。母様がお父様に一目惚れしたみたいにね。それか、ディアナのように相手からの猛アプローチで落とされたなんていうのもいいわよねえ」
「あれは凄かったわ……」
私の九才上のディアナ姉様は、現王太子のフィエロ殿下から寝ても覚めても愛の言葉を紡がれるという凄まじいアプローチに落ちた……というか諦めた。始めは王族なんて嫌だと断り続けていたのだけれど、屋敷中が殿下の贈ってきた花々で埋め尽くされる寸前に折れたのだ。当時、九歳になったかならないか位の私は、何度か大量の花に埋もれて死にかけた。以来、フィエロ殿下は恐ろしい人だと、しばらくは真剣に恐れていた。
勿論、今はラブラブで可愛い子供たちもいる。おまけに二人の恋物語は本にまでなっていて、恋する乙女のバイブルと言われている。
「できれば私だって恋をしてみたいわ。でも、私より剣の実力が強い人が周りにいないんだもの。スタート地点にも立てない」
「もうそこ、諦めたら?」
「それは嫌。お父様は勿論、ジル兄様もライ兄様も私より強いじゃない。そんな中で育っていたら、私より弱い人なんて目に入らないわよ」
「じゃあ、このままクソ王子と結婚って事になってもいいのか?それこそあのクソ王子なんてめちゃくちゃ弱いぞ」
「嫌よ」
「じゃあどうすんだ?」
「……」
「いっそのこと騎士団に行って確かめてきたらどうだ?」
「ジル兄、何言ってんの?アンジーが見学なんて来たら、皆浮足立って実力を発揮するどころか稽古にも身が入らなくなるだけだぞ」
「そりゃそうだろう。こんな美人そういないからな。だから、令嬢として行くのではなく、騎士団員として行けばいい」
「は?」
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