31 / 71
食い違い
しおりを挟む
アリアンナの真っ青な瞳が霞んでいきかけたその時。
「違う」
低く地に浸透するような声が、アリアンナの真っ白になった頭を現実に引き戻した。
「本当に昔、領地が隣同士で仲の良かった親たちが冗談で言っていた事だ。ピアはそんな冗談話、いつまでも真剣に受け止めなくていい」
「あら、私の両親は楽しみにしているわよ。ジル様がプロポーズするのはいつだろうって」
「では、私から手紙を出す事にする。あくまでもあれは冗談だったのだと。そもそもピアは一人娘なのだから婿を取る立場だろう。互いの両親もノリで話をしたまで。実際、あれ以来一度もそんな話はしていないだろう」
そう言ったジルヴァーノは、何故かアリアンナを見た。アリアンナも、ジルヴァーノの見つめてしまう。
「ふふ、そんな事言って。ジル様は王都に行く前に私に約束してくれたわ。私が成人しても気持ちが変わらないでいたら、結婚を考えようって。私の気持ちは勿論変わっていないわ」
ニッコリと微笑むピア。逆にジルヴァーノは大きく溜息を吐いた。
「あれは、結婚するって約束してくれなきゃ嫌だって泣いて駄々をこねたからだ。あの場にいた誰もが本気になんて捉えてなかった」
「私は本気だったわ。勿論、今も本気よ」
にこやかな表情から一転、ピアの表情が真剣なものになった。
「はあぁ」
またもや大きく溜息を吐くジルヴァーノ。
「これ以上はここで続ける話ではないな。だが、私の気持ちは変わらない」
「私も気持ちも変わらないわよ」
ニコニコ笑顔に戻ったピア。
「頑固だな」
「ふふふ」
気が抜けたように穏やかな顔になるジルヴァーノを見たアリアンナ。彼を簡単にそんな表情にさせる、ピアの存在に言い知れぬ不安を覚える。
『私ではあんなに穏やかな表情にはさせられない』
チラチラと胸の中に、小さな火が揺れているような感覚を覚える。未だ握られている手に無意識に力を入れてしまう。
「アリアンナ様?」
その手をくいっと軽く自分の方へ引いたジルヴァーノ。
「あ……えっと……何だったかしら?」
「なんだか心ここにあらずのようでしたが?」
「いえ……なんでもないです」
「そうですか?なんだかお顔の色も優れないようですが」
「大丈夫。少し疲れてしまっただけなので」
「では、お部屋までお送りします」
「いいです、大丈夫。ジルヴァーノ様もまだお仕事があるのでしょう。どうぞお戻りになって」
アリアンナが言うと、ジルヴァーノの眉が下がった。
「私ではエスコートは役不足ですか?」
いつの間にかピアはいなくなっていた。
「違います、そうではないの。少し座れば大丈夫だから」
「分かりました。ではこちらへ」
離れたいけれど離れたくない。自分の感情を持て余しているアリアンナは、ジルヴァーノの顔をまともに見る事が出来ない。
そんな彼女の様子に気付かないジルヴァーノは、アリアンナをイスに座らせた。
「アリアンナ様」
アリアンナの座っているイスの向かいに跪くジルヴァーノ。
「ロワの見つけたブルーダイヤモンド。ちゃんと身に付けて下さってありがとうございます。本当によく似合っている……本当にアリアンナ様の瞳の色そのものですね」
意図してなのか、ピアの事には触れず、全く別の話をし出した。
「ええ、本当に。お母様も驚いていました。今までどんなに探しても見つからなかったのにって。これからも、常に身に着けたいと思っています。これは私の宝物です」
そう言って笑ったアリアンナは、もういつものアリアンナに戻っていた。
「それは良かった……アリアンナ様。タイミングがなく、言うのが遅れましたが改めて。デビュタントおめでとうございます」
銀の瞳を優し気に細めたジルヴァーノ。
「ありがとうございます」
嬉しくなったアリアンナは、全ての人を魅了してしまうのではないかと思える程の最高の笑顔を見せた。
「!」
まともに見てしまったジルヴァーノの耳が、真っ赤になっていた。
「これからまたお仕事なのですよね?」
「はい。北東の動向が気になるので」
「そうですか……どうかお気をつけて下さい」
「はい、ありがとうございます」
ジルヴァーノがアリアンナの手を取り、甲にキスを落とす。
「ではまた」
そして颯爽とホールを去って行った。
キスをされた手をジッと見つめるアリアンナ。
『胸がドキドキする……』
ジルヴァーノの唇が触れた辺りをそっと撫でる。
『私……ジルヴァーノ様の事……』
「アリアンナ王女、是非、私とダンスを踊ってください」
いつの間にか男性たちに囲まれていたアリアンナは、思考をそこで停止させた。
「違う」
低く地に浸透するような声が、アリアンナの真っ白になった頭を現実に引き戻した。
「本当に昔、領地が隣同士で仲の良かった親たちが冗談で言っていた事だ。ピアはそんな冗談話、いつまでも真剣に受け止めなくていい」
「あら、私の両親は楽しみにしているわよ。ジル様がプロポーズするのはいつだろうって」
「では、私から手紙を出す事にする。あくまでもあれは冗談だったのだと。そもそもピアは一人娘なのだから婿を取る立場だろう。互いの両親もノリで話をしたまで。実際、あれ以来一度もそんな話はしていないだろう」
そう言ったジルヴァーノは、何故かアリアンナを見た。アリアンナも、ジルヴァーノの見つめてしまう。
「ふふ、そんな事言って。ジル様は王都に行く前に私に約束してくれたわ。私が成人しても気持ちが変わらないでいたら、結婚を考えようって。私の気持ちは勿論変わっていないわ」
ニッコリと微笑むピア。逆にジルヴァーノは大きく溜息を吐いた。
「あれは、結婚するって約束してくれなきゃ嫌だって泣いて駄々をこねたからだ。あの場にいた誰もが本気になんて捉えてなかった」
「私は本気だったわ。勿論、今も本気よ」
にこやかな表情から一転、ピアの表情が真剣なものになった。
「はあぁ」
またもや大きく溜息を吐くジルヴァーノ。
「これ以上はここで続ける話ではないな。だが、私の気持ちは変わらない」
「私も気持ちも変わらないわよ」
ニコニコ笑顔に戻ったピア。
「頑固だな」
「ふふふ」
気が抜けたように穏やかな顔になるジルヴァーノを見たアリアンナ。彼を簡単にそんな表情にさせる、ピアの存在に言い知れぬ不安を覚える。
『私ではあんなに穏やかな表情にはさせられない』
チラチラと胸の中に、小さな火が揺れているような感覚を覚える。未だ握られている手に無意識に力を入れてしまう。
「アリアンナ様?」
その手をくいっと軽く自分の方へ引いたジルヴァーノ。
「あ……えっと……何だったかしら?」
「なんだか心ここにあらずのようでしたが?」
「いえ……なんでもないです」
「そうですか?なんだかお顔の色も優れないようですが」
「大丈夫。少し疲れてしまっただけなので」
「では、お部屋までお送りします」
「いいです、大丈夫。ジルヴァーノ様もまだお仕事があるのでしょう。どうぞお戻りになって」
アリアンナが言うと、ジルヴァーノの眉が下がった。
「私ではエスコートは役不足ですか?」
いつの間にかピアはいなくなっていた。
「違います、そうではないの。少し座れば大丈夫だから」
「分かりました。ではこちらへ」
離れたいけれど離れたくない。自分の感情を持て余しているアリアンナは、ジルヴァーノの顔をまともに見る事が出来ない。
そんな彼女の様子に気付かないジルヴァーノは、アリアンナをイスに座らせた。
「アリアンナ様」
アリアンナの座っているイスの向かいに跪くジルヴァーノ。
「ロワの見つけたブルーダイヤモンド。ちゃんと身に付けて下さってありがとうございます。本当によく似合っている……本当にアリアンナ様の瞳の色そのものですね」
意図してなのか、ピアの事には触れず、全く別の話をし出した。
「ええ、本当に。お母様も驚いていました。今までどんなに探しても見つからなかったのにって。これからも、常に身に着けたいと思っています。これは私の宝物です」
そう言って笑ったアリアンナは、もういつものアリアンナに戻っていた。
「それは良かった……アリアンナ様。タイミングがなく、言うのが遅れましたが改めて。デビュタントおめでとうございます」
銀の瞳を優し気に細めたジルヴァーノ。
「ありがとうございます」
嬉しくなったアリアンナは、全ての人を魅了してしまうのではないかと思える程の最高の笑顔を見せた。
「!」
まともに見てしまったジルヴァーノの耳が、真っ赤になっていた。
「これからまたお仕事なのですよね?」
「はい。北東の動向が気になるので」
「そうですか……どうかお気をつけて下さい」
「はい、ありがとうございます」
ジルヴァーノがアリアンナの手を取り、甲にキスを落とす。
「ではまた」
そして颯爽とホールを去って行った。
キスをされた手をジッと見つめるアリアンナ。
『胸がドキドキする……』
ジルヴァーノの唇が触れた辺りをそっと撫でる。
『私……ジルヴァーノ様の事……』
「アリアンナ王女、是非、私とダンスを踊ってください」
いつの間にか男性たちに囲まれていたアリアンナは、思考をそこで停止させた。
56
あなたにおすすめの小説
元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)
モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。
そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!?
「わん!」(なんでよ!)
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
世界一美しい妹にせがまれるので婚約破棄される前に諦めます~辺境暮らしも悪くない~
tartan321
恋愛
美しさにかけては恐らく世界一……私の妹は自慢の妹なのです。そして、誰もがそれを認め、私は正直言って邪魔者なのです。でも、私は長女なので、王子様と婚約することになる運命……なのですが、やはり、ここは辞退すべきなのでしょうね。
そもそも、私にとって、王子様との婚約はそれほど意味がありません。私はもう少し静かに、そして、慎ましく生活できればいいのです。
完結いたしました。今後は後日談を書きます。
ですから、一度は婚約が決まっているのですけど……ごたごたが生じて婚約破棄になる前に、私の方から、婚約を取り下げます!!!!!!
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる