笑い方を忘れた令嬢

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銀の竜の怒り

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「おば様」
ピアが扉の向こうからユラを呼び止めた。彼女の声が聞こえた途端、銀の竜と若い三頭以外の竜が、一斉に岩山の上へと飛び立った。
「え?皆?」
竜たちの早技に呆気に取られた表情になるアリアンナの視界の端に、こちらに向かって歩いてくるピアの姿を捉えた。

一方、わかっていない若い竜たちは、何事なのかとキョロキョロしている。銀の竜はそんな三頭を守るように前に立ち、アリアンナを前足で自身の胸元に引き寄せた。

「おば様、私も一緒に行かせて」
ピアが少し先にいるユラに頼む。しかし、彼女は驚いた表情で首を振った。
「ピアちゃん?あなたはそれ以上来てはいけないわ」
ユラの制止を促す声に、ゆっくりと進んでいたピアは足を止め俯いてしまった。自分はなんて惨めなのだと、そして何故自分だけ認められないのかと、悔しい気持ちと納得出来ない気持ちが腹の中でマグマの塊のように沸々と激っていた。

『どうして私だけが駄目なの?誰よりも竜と仲良くなりたいと思っているのに』
どうしても諦められないピアはユラの言葉を無視して、銀の竜に向かって再び足を進めた。銀の竜は動かずジッとピアを見ている。彼女にはそれが、まるで自分を受け入れてくれているように見えた。だが、すぐにそうではない事に気付く。
「……アリアンナ王女……」
銀の竜の胸元にいるアリアンナの姿を見つけたのだ。銀の竜の前足が、まるで守るようにアリアンナを抱え込んでいる。
「どうして……どうしてあの人ばかり……」
妬ましい気持ちがマグマの塊に落ちドロリと流れ出た。

「私の方が……私の方がロワに相応しいのに!」
激昂したピアは、ロワに向かって駆け出した。
「ピア!駄目だ!」
事務所内にいたジルヴァーノが、追いかけるが間に合わない。あっという間にユラを追い越し、ぐんぐんと銀の竜に迫る。

「私は、ジル様の許嫁よ!婚約者よ!その人じゃなくて、私と仲良くするべきでしょ!」
ピアは叫びながら、アリアンナに手を伸ばした。

「駄目だ!」
ピアを止めようと叫んだジルヴァーノの声は、銀の竜が放った咆哮でかき消されてしまう。以前放たれた咆哮よりも明らかに威力を持った咆哮は、竜舎。いや、この建物全てを揺らした。まともに浴びたピアは、いとも簡単に吹き飛ばされてしまう。
「キャーッ!!」
彼女の後を追っていたジルヴァーノが、悲鳴と共に飛んで来るピアを咄嗟に抱きとめる。しかし、そのままジルヴァーノごと吹き飛んでしまった。

何人かの竜騎士たちが、ジルヴァーノへ駆け寄った。
「団長!大丈夫ですか⁉︎」
「……ああ、大丈夫だ」
ジルヴァーノは壁に背中を打ち付けはしたがケガはなく、抱き止められたピアもどこもケガはしていないようだった。

「ヤバい、めちゃくちゃビビった」
「耳が痛い」
「はあぁ、鼓膜が破けるかと思った」
あれ程まで凄まじい咆哮は騎士たちも初めて聞いたらしく、皆興奮したように騒ぎ出す。

「やっぱり銀の竜は格が違うっすね」
「咆哮だけで吹き飛ばす事が出来るなんて、思ってもみませんでした」
未だ、興奮冷めやらぬ騎士たち。改めて、銀の竜の凄さを実感したようだ。

そんな中、銀の竜に抱かれているアリアンナだけは全く平然としていた。どうやら銀の竜自身が魔力で彼女を守っていたようだ。ピアが無事だった事がわかったからなのか、銀の竜は再び咆哮を放とうと再び大きく息を吸い込む。
「お願い、ロワ。もう止めて」
そんな銀の竜へアリアンナが両手を伸ばした。ほんの数秒、青い瞳と金の瞳が見つめ合う。すると、銀の竜は吸い込んだ息をゆっくりと吐き出し、鼻先を彼女の手に触れさせた。
「ありがとう、ロワ」
アリアンナは両手で、銀の竜を優しく撫でた。

「ああ、驚いた。ロワの咆哮、初めて聞いたわ」
驚いたと言う割には暢気な声を出しているユラが、ピアの元へ戻り彼女の顔を覗き込む。
「ピアちゃん、大丈夫だった?」
吹き飛ばされてしまったピアは、相当ショックが大きかったのだろう。呆けてままジルヴァーノにしがみついていた。しかし、ユラの声で覚醒した途端、今度は身体が恐怖でブルブルと震え出した。それはそうだろう。ジルヴァーノに抱きとめられていなかったら、壁に身体ごと打ち付けて大ケガを負っていたかもしれないのだ。下手をすれば命にかかわる惨事になった可能性だってある。

震えが止まらないピアをジルヴァーノは、事務所に連れて行きイスに座らせた。
「ジル様……」
か細い声でジルヴァーノを名を呼ぶピア。しかし、そんなピアを見下ろすジルヴァーノの視線は明らかに冷たかった。
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