笑い方を忘れた令嬢

Blue

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懐かしい笑顔

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 紳士は真っ直ぐアリアンナの前にやって来た。
「失礼いたします。お薬をお持ちしました。よろしければお使い下さい」
聞き覚えのある優しい声に、アリアンナの肩が震える。優しい面影は幾分か老けたが変わらない。
「……トマス?」
震える声で名を呼んだアリアンナに、優しい笑みを見せた老紳士。彼は、ノヴェリアーナ公爵家で家令をしていたトマスだった。

「お嬢様、お久しぶりですね。思っていた通り……いえ、それ以上にお美しくなりましたね」
変わらない声と優しい笑みに、アリアンナの瞳から涙が溢れた。そんな彼女に、トマスに負けぬ程優しい笑みを見せたジルヴァーノ。
「トマスだけではありません。ノーランドもここで働いております」
「!」
言葉にならない歓喜がアリアンナに押し寄せる。アリアンナがお菓子を食べた時、懐かしいと言っていたのは当然の事だったのだ。小さい頃から食べていたノーランドの作ったお菓子だったのだから。

「近くの公爵家って……ジルの家だったのね」
アリアンナは、子どものようにトマスに抱きついた。
「トマス、トマス。会いたかった」
泣きながらしがみつくアリアンナの髪を優しく梳くトマス。
「おやおや、大きくなっても甘えん坊さんですね」
そんな二人を屋敷の中で見ていた王妃も、ユラも、他の貴族たちも泣いていた。
「嫌ね、歳をとると涙もろくなって」
「ふふ、本当ね。でも幸せな涙だからいいじゃない」
招待されていた貴族たちは、皆、アリアンナの境遇を知っている者たちばかり。皆、アリアンナの涙に誘われるように涙を流していた。

「クウゥゥ」
アリアンナの喜びに、感化されたように銀の竜が鳴いた。以前にも聞いた、まるで歌っているような美しい声だった。

「美しい声……」
「まるで歌っているよう」
屋敷で見ていた王妃たちも、幻想的な竜の声に聞き入った。
「なんだか、胸の中が温かくなる気がするわね」
「マッシマ様も?私もそんな感じがしたわ」
この場で竜の声を聞いた誰もが、同じ感覚を味わっていた。

「アリアンナ様、よろしければいつでも遊びにいらしてくださいね。別にジルヴァーノがいない時でも全然構いませんから」
トマスとの再会の後、厨房に案内してもらいノーランドとも再会を果たしたアリアンナは、持ち切れない程のお菓子を持たされいた。そんな姿にユラは笑みを浮かべていた。
「はい、是非。ご迷惑でなければ」
アリアンナが言うと、ユラの笑みがますます深まる。
「ふふ、迷惑だなんてどんでもございません。私としては未来のお嫁さんに会える事が嬉しくて仕方がないので」
ユラの言葉が、大きな咳払いの音でかき消えた。
「嫌だ、ジルヴァーノ。私の言葉を遮らないで」
ユラがジルヴァーノを睨む。咳払いをしたのは彼だったのだ。
「母上は、口を、謹んで、下さい」
「ジルちゃんは、早く、プロポーズ、しなさい」
ジルヴァーノの言い方を真似て言い返すユラに、アリアンナも王妃も笑ってしまう。

「ふふふ、ユラったら」
王妃が言うと、大袈裟に驚いたような表情をしたユラが、すぐにニヤリと笑う。
「あら?マッシマ様もそう思っているでしょ?」
「ふふ、そうね。いい報告を聞くのが楽しみだわ」
王妃にまで揶揄うように言われ、再び大きく咳払いをしたジルヴァーノが、徐に銀の竜へ近付いた。
「私はロワと竜舎に戻ります。お二人は馬車でお戻りになりますよね。すぐ近場とはいえ、お気を付け下さい」
いたたまれなくなったのだろう。そう言ったジルヴァーノは、銀の竜へ飛び乗るとあっという間に飛び去って行った。

「はあぁ、嫌ね。うちの息子ったら本当に不甲斐ないんだから」
飛び去って行った竜を見ながら、ユラは大きく溜息を吐いた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 学園の寮に戻って来たフィガロ王子とピア。ピアはイライラした様子で爪を噛む。
「全然ダメだったじゃない。アリアンナ様を落とすどころか、ロワにまで嫌われてしまって……やっぱりアリアンナ様が邪魔だわ。姫神子だかなんだか知らないけど」
ピアのボヤキにフィガロ王子が顔を上げた。
「姫神子って?」
「え?ああ、竜の姫神子よ。知らない?童話に出てくる竜の為に天から降りて来たっていう。なんでもアリアンナ様はその竜の姫神子かもしれないって、竜騎士たちが話しているのを聞いたのよ。そんな訳ないのに。あれはあくまでもおとぎ話なのに」

ピアがそう言ってケラケラ笑う横で、真剣な顔になるフィガロ王子。
「竜の姫神子……」
そう呟いた彼の口元が、歪んだ笑みを作った。
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