推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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ぶっ飛ばしたいほど尊い推し(20)

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「無茶でも俺はやる。努力はいつだって裏切らないんだ。今、動かなかったらそれこそ後悔する」

 蓮が何を決心したのかはわからない。だけど、何かが変わる。変えるつもりだ。それだけはわかった。

 成瀬さんは蓮の表情をまじまじと見つめ、やがて観念したようにはぁっとため息をついた。成瀬さんの反応を見て、蓮はニッと不敵に笑う。

「陽。気を抜くなよ。これからだ。準備しておけ」
「何をだよ?」

 成瀬さんの問いに、蓮は答えない。だけど、その顔は自信に満ちている。必ず自分の思いを形にしてみせる。そんな強い意志が感じられる。

 私はただ二人の様子を黙って見守ることしかできなかったけれど、なんだか胸が熱くなった。

 きっと大丈夫。

 根拠なんてないけど、そう思えた。

 だって、私の推しはどんな逆境でも絶対に諦めたりしない! ファンを悲しませることもしない!

 蓮がどんな選択をするのか私は知らない。だけど、その選択の先に希望があると信じている。

 がんばれ、蓮!

 心の中でエールを送っていると、蓮が私の名前を呼んだ。

「千紘!」
「は、はい!」
「待ってろよ」
「う、うん」

 返事をしてみたものの、話が見えずに首を傾げる。蓮はそんな私を見て、満足そうに笑った。

「じゃ、俺行くわ。急いで話を詰めなきゃなんねーし」

 言うが早いか、蓮は室内へと戻ってしまった。

 呆気に取られている私に、一緒に取り残された成瀬さんが申し訳無さそうに呟く。

「慌ただしくてごめん。あいつ思い立ったらすぐ行動するから。……ったく、挨拶もなしに」

 成瀬さんが苦笑いを浮かべながら悪態をついていると、それが聞こえたのか室内から蓮の声がした。

「じゃあな、千紘ー。またなー」

 その声を最後に、ドアが閉められたようだった。

「ここは俺の部屋だっつーの」

 閉められたドアに向かって成瀬さんがぼそりとツッコミを入れているのが聞こえてしまい、私は堪えきれずに吹き出した。

 嵐のような人だった。でも、そこがいい。推しが元気でいてくれれば、それだけで私も元気になれる。

 ふふっと笑い続けていると、成瀬さんが「そういえば」と口を開いた。

「あいつ、どさくさに紛れてずっと石川さんのこと呼び捨てにしてたな。ごめん。嫌じゃなかった?」

 申し訳なさそうな彼に向かって私は首を横に振った。

 別に嫌ではないし、むしろ嬉しい。推しに名前を呼ばれるなんてファン冥利に尽きる。

 そう伝えると、返ってきた相槌は「ふぅん。そっか」と思いのほかそっけないものだった。
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