推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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隣にいるために(8)

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 心からの思いを伝えたくて、必死で言葉を積み重ねたけれど、ふと我に返ると、恥ずかしさが込み上げてきた。

 なんだか告白をしてるみたいだ。……いや、みたいじゃなくて、実際そうなのかもしれないけど。

 私は急激に顔に熱が集まるのを感じた。慌てて成瀬さんから視線を外すと、そのまま足元に視線を落とした。

 私が一人で悶えていると、しばらくして小さな声で「ありがとう」と聞こえた。その声に恐る恐る顔を上げると、成瀬さんと目が合う。彼は照れくさそうに微笑んだ。

「……そんなふうに言ってもらえるなんて、思ってなかった」

 その声は、少し震えていた。私は何も言えず、ただ成瀬さんの顔を見つめる。彼の瞳は、どこか潤んでいるように見えた。

「俺、ずっと石川さんに応援してもらいたいと思ってたんだ。だから、すごく嬉しいよ」

 そう言って、成瀬さんは笑う。いつもの成瀬さんの笑顔。つきものが落ちたようにすっきりとした顔。だけど私はその顔を見て、はてと首を捻った。

 ……ん? 応援してもらいたい? それってまるで、これまでは応援してなかったみたいな言い方じゃない? 私はずっと成瀬さんを推していたのに。

 そこで、はたと気がついた。私は今まで一度も成瀬さん本人に推しだと言ったことがない。それどころか、隠していたのだ。嫌がられたり、気持ち悪がられたりしないように。だけど――。

 もしかして私の推し活って、もう隠す必要ないってこと?

 そう思ったら、全身の力が抜けたような気がした。

「成瀬さんは、私の推しですよ。応援するに決まってるじゃないですか」

 自分でも驚くほど静かな声だった。それでも、成瀬さんにはしっかりと届いたようで、目を丸くした。

「え、だって石川さんは蓮が」

 私はこくりと頷く。

「でも、推し活に一人しか好きになっちゃいけないなんてルールはありませんから。好きになったら、その人を全力で応援する。それが推し活唯一のルールですよ」

 私は成瀬さんの目をまっすぐ見つめる。

「隣人として仲良くしてもらっているのに、ファンだなんて言ったら距離感おかしくなるかなって。だから、言えなかったんです」

 成瀬さんはしばらく黙っていた。それから、ぽつりと呟いた。

「……嬉しいよ。石川さんが俺のこと、そんなふうに見てくれていたなんて」

 伝えられた嬉しさと、伝えきれていない苦しさ。それらが混ざり合って、胸がいっぱいになった。だけど、成瀬さんの笑顔を間近で見られること。それが全てだと思えた。
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