推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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好きだからこそ……(2)

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 最終選考日は、午前中から候補者たちのパフォーマンスが生配信された。会場観覧の募集もあったけれど、私はあえて自宅から配信を観ることにした。腰を据えてしっかりと成瀬さんの雄姿を見届ける。そのための選択だった。

 画面の中の成瀬さんは、あの日のように「演者 成瀬陽一」だった。ベランダにいる成瀬さんとは少し違う。ちょっとだけ遠い存在の人。歌もダンスも、表情も、どれもが完璧。まさに、皆を魅了するアイドル。彼はそれを体現していた。

 少しだけ目頭が熱くなった。だけど、「成瀬陽一」を応援すると決めたのだからと、私は必死に涙をこらえ、パフォーマンスを見届けた。

 最終選考のパフォーマンスは、皆それぞれ個性があって素晴らしかった。だけど、やはり成瀬さんが頭1つ抜きん出ていたと思うのは、贔屓目ではなかったと思う。

 配信が終わると、SNSでは候補者への感想が飛び交った。それぞれの候補者についた新たなファンたちが好意的なコメントを投げていく。その中でも成瀬さんに向けられる熱が一番多いと感じた。

「成瀬くん、やばい」
「これはもう決まりでしょ」
「こんな素敵な人、どこに隠れてたの~?」

 そんな言葉が次々と流れていく。

 完全に決まった。私は安堵と寂しさを感じながら、成瀬さんへ票を投じた。

 ファンの投票数が多かったのは、やはり成瀬さん。だけどもう一人、僅差の候補者がいた。その差は既存メンバーのポイント次第ではひっくり返る可能性があった。

 私は祈るような気持ちで結果発表を待った。蓮がメンバーを代表して結果を発表する。

「これから活動を共にする仲間を、俺たちも公平な目で判断しました」

 画面を食い入るように見る。他の音が何も聞こえないほどに、心臓の音がうるさい。

 そして、運命の瞬間が訪れた。

Scorpioスコルピオの新メンバーは——」

 名前が呼ばれるまでの数秒が、永遠のように感じられた。蓮の声が、会場の空気を切り裂く。

「——佐久間翔太!」

 蓮のその宣言と共に、スポットライトが成瀬さんの隣に立っていた候補者に注がれる。

 時が止まった。私は画面を凝視したまま動けなかった。

 画面の中では、佐久間翔太が涙ぐみながらステージ中央に進み出ていた。成瀬さんを含む他の候補者たちは笑顔で拍手を送っている。その笑顔が痛かった。

 落ちた——その事実だけが、静かに心に沈んでいく。

 成瀬さんは笑っていた。悔しさを隠しているのか、それとも本当に納得しているのか。私にはわからなかった。
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