推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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好きだからこそ……(17)

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 わたしは涙を乱暴に拭うとニカリと笑ってみせる。私の泣き笑いを見た成瀬さんは、深く息を吐いて頭を抱えた。

「本当はまだ言うつもりなんてなかったんだ。もっと自分に自信が持てるようになってから。石川さんが俺だけのことを見てくれるようになるまでは、ってそう思ってたんだけど」

 成瀬さんはそこまで言うと、もう一度大きなため息をついた。それから顔を上げて私を見つめる。その瞳にはもう切なさはない。

「グループデビューが決まって、途端に忙しくなっちゃって、最近はずっと余裕なんてなかった。きみと話したい。そればかりを考えてた。だから、今日ベランダにきみの姿を見つけて、慌てて帰ってきた。いつもみたいになんでもない話をするつもりで」

 成瀬さんはそう言って微笑んだ。それから少し不貞腐れたように唇を尖らせる。

「それなのに、きみが、あんなに可愛く煽ってくるから」

 成瀬さんが子供っぽい仕草で、恨みがましく私を見る。

 なんだか急に照れ臭くなってきた。そんなふうに思っていてくれたんだ。嬉しいけど、恥ずかしい。頰が火照ってくるのがわかる。

「わ、私のせい?」

 私がたじろぐと、成瀬さんは可笑しそうにクスクスと笑う。そして、大きく息を吸ったあと、姿勢を正して私に向き直った。

「うん。俺がフラれたのは、石川さんのせい」

 その言葉に、私は思わず目を見開く。

「違う。振ってなんか……」

 私の抗議を遮るように、成瀬さんが再び口を開いた。

「いや。いいんだ、これで。きみの選択は正しいよ」

 成瀬さんはそう言い切った。そして、そのまま続ける。

「さほど知名度のない俳優だった時の俺ならいざ知らず。アイドルという立場になった以上、俺は恋愛はタブーだと思ってる」

 私は成瀬さんを真っ直ぐに見つめた。

「バレずに彼女をつくる奴はいる。それがいいとか悪いとかそういうことじゃなくて。俺自身はそんなに器用じゃないから、多分ボロが出る。彼女の存在が……石川さんのことが世間に知られたとき、俺のせいで、きみにもファンにも嫌な思いをさせてしまうことになる。そんなのは嫌だからさ。だから、これでいいんだよ」

 成瀬さんは私に向かって微笑んだ。全てを受け入れたような清々しい笑顔。

 ああ、もうこの人のことを好きでいることはやめられそうにない。私はこの人のこういうところに弱いんだ。どこまでも誠実で真面目。そんなところが本当にかっこいいと思うし、愛おしいと思う。

「やっぱり、私の推しは誠実な人だ」
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