ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷

文字の大きさ
5 / 76
第1章

5話

しおりを挟む
 村が静かになった頃、フェルツは教会の裏口からひっそりと抜け出す。彼女がいると確信して口を開く。

「最近よく呼び出すな。暇なのか」
「失礼だなあ。君に逢いたかったんだよ」
「ぬかせ、今日も血だろ」
「いや、君の''後輩''とやらについて」
「セレスタが何か?」
「お姫様が引っ張ってった」
「は? 王は何か言ったのか?」
「いや、特に何も」

 フェルツはため息をついた。

「まあ、あたしと違って優秀な魔術師だからな」
「ボクは君の方が強そうだと思ったけど」
「伸びしろが違う。あいつの方が強い」
「ふぅん。まぁ、何でもいいけど」
「あいつのこと、見張っといてくれるか」
「それは、その娘がボクらの邪魔になるってこと? それとも、可愛い後輩が心配なだけ?」
「想像に任せる」
「嫌だよ、こっちは忙しいんだ」

 彼女は投げやりに断る。フェルツにはその返事は予測済みだった。ポケットからナイフを取り出す。

「飲むか?」
「もちろん」
「口はつけるなよ」
「分かってるよ」

 彼女の赤い眼が光る。
 フェルツが左手の人差し指と中指の先端を切る。親指でその二本を押すと赤い液体が溢れ出す。
 彼女はかがんでしたたる血を口に入れる。

「やっぱり、魔力のある人間は美味しい」
「終わりだ。そろそろ奉納者が帰ってくる」

 フェルツは手を引っ込めて指先の止血を始める。

「じゃあ頼んだぞ、ラシェル」
「はいはい、出来る範囲でやってあげるよ。ご馳走さま」

 ラシェルと呼ばれた吸血鬼ヴァンピレスは片手を小さく振りながら、ゆっくりと森の奥へ入っていく。
 彼女が見えなくなったところで、フェルツはセレスタの無事を祈りながら教会へ帰った。
 


「また会おうね」

 森と村の境界の辺りでリュシールは笑顔で手を振る。
 一方でセレスタはふらつきが収まらなかった。卒業祝いで飲んだときよりも辛い。一言も発さずに軽く手を上げて応じる。

「……」

 教会の近くまで戻ると、フェルツが早足でやって来た。

「大丈夫か!? 直接吸われたのか?」

 首を縦に振る。フェルツは肩を貸して、教会へと誘導する。
 それ以降の記憶は無かった。

 翌朝、目を覚ますと傍らで誰かが動いているのが分かった。

「あ、おはようございます」
「……おはよう」

 まだ朦朧とした意識で眼前の女性を思い出そうとする。……トリナだ。

「お二人のお陰でよくなりました。セレスタさんには奉納まで代わってもらったそうで……。すみません」
「気にしなくていいよ。元気になったのなら良かった」

 トリナは深く頭を下げ、水と食べ物を持ってくると部屋を出ていった。入れ替わるようにフェルツが入ってくる。

「もう平気か?」
「ええ……、迷惑かけました」

 フェルツの話によると、吸血鬼の唾液は麻酔に近く催眠効果があるとのことだ。加えて、魔力が強いものほど血の味が濃く美味しいらしい。
 話が一段落したところで、トリナが朝食を持ってきてくれる。今日は好きにしていて良いとだけ言い残し、フェルツは部屋を出て行った。
 食べ終わると体が大分楽になったことに気づいたので着替えをする。今日は修道服ではなく動きやすいシャツとズボンだ。ランニング、腕立て、腹筋などのトレーニングを一通り行う。体が動かなければ魔術も使えないのだ。

水よウォルス

 両手を器のようにして水を出す。水の量が多過ぎたため、手からこぼれていく。セレスタは水魔術のコントロールが苦手だった。両手を顔に近づけると、冷たい水が汗を流していく爽快感が得られる。
 頭が冷えたことで昨日のリュシールという吸血鬼ヴァンピレスが言ったことを思い出す。

『''光''』

 旅の初日、ミストという魔術師からも聞いた。二人はただの魔力という意味で言ったのではないだろう。特殊な何かを指すような言い方だった。帝国にいた頃には言われたことはない。また、あの吸血鬼に詳しく聞いてみようと思い、今は考えないことにした。
 トリナがこちらに向かってくることに気付いた。お昼の準備が出来たことを伝えに来てくれたようだ。どうやら 随分と遅い朝だったらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

処理中です...