ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷

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第1章

23話

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 ヴァルドーはディミロフを既に三回殺した。実際は仕留めたと思ったらそれはゾンビだったという現象、それが三回起こった。

吸血鬼の王ヴァンパイア・ロードでもこの俺は殺せん」
「つまり、実際はこの場にいない。ということか?」
「まさか、そんなことも分からないのか?」
「いや、見えてきた」

 前方のゾンビに剣を振るう。大量の血が吹き出して多数のゾンビが地面に崩れ落ちる。

「……浅かったか」
「何のことだ?」
「私が今斬った手前から三体目、僅かだがお前の血が混じっていたな」

 ディミロフは一切の返答をしなかった。が、このタイミングでの沈黙は肯定でしかない。

 もう一度ゾンビに斬りかかろうとしたときだった。後方で複数の木が倒れ、ジュラルドの気配が遠くなった。ヴァルドーは思わず振り返る。ゾンビはその隙を狙って襲いかかってくるが、大きく跳んで避けた。

「いいぞ、ネクロゲイザー! 次はこっちだ」

 ジュラルドに打ち勝つほどの力を持ったネクロゲイザーに興奮を抑えられなかったのか、ディミロフが指示を出す。
 ネクロゲイザーは真っ直ぐにヴァルドーを殺しにかかる。もう一度跳ぼうとしたが、ゾンビの統制のとれた動きがそれをさせなかった。仕方がないといった表情で剣に付着した血を指で拭って口に入れた。
 ネクロゲイザーの腕がヴァルドーの胴体を完璧に貫いた。

「幻覚ではないと思っていたが、こんな仕組みだったとはな」

 ネクロゲイザーの頭が潰れた。首なしの化物の背後にはヴァルドーが立っている。貫かれたそれはゾンビだったのだ。

「俺と同じ能力だと……?」
「違う。お前の能力だ」

 自らの血を一定量以上体内に取り入れた対象の中に潜り込む。これがディミロフの能力の正体だった。つまり、全てゾンビにあらかじめ自分の血を混ぜておくことでゾンビの内部を行き来していたのである。

「ふん、頭を潰しただけで倒したと思ったのか? こいつは元々死体だぞ」

 ネクロゲイザーが起き上がろうとしたそのとき、ジュラルドが叩き斬った。

「生きていたか」
「お前に勝つまで死なねえよ」

 それっきりネクロゲイザーは動く気配も無い。

「まだ使いたくなかったが、そうも行かなくなったな。来い!」

 森の奥から誰かが一直線にヴァルドーへ向かってくる。

「同胞まで弄ぶか……!」
「人間に負けるような雑魚を同胞だと思ったことなんてないな」
「…………」

 ゾンビとなったジェロームの攻撃を受け止めて、地面に叩きつける。

「やはりリューナの遺体を預けなくて良かった」
「何を感傷に浸ってやがる。これから親子三人仲良く俺の駒になるんだよ! 早いか遅いかの違いだ!」

 ディミロフは高らかに笑う。その間にもゾンビたちを操り、二人を逃がさないように取り囲む。

「殺せ」

 ゾンビが一斉に動きだす。二人は周囲の死体の群れを倒していく。ヴァルドーは、次第にゾンビが減っていることに気がつく。ジュラルドもそれに気がついたのかヴァルドーに声をかけようとした。

「ヴァルドー! こいつら……っ!」

 彼の声はそこで途絶えた。ネクロゲイザーの腕がジュラルドの腹部を貫いていた。ジュラルドが前のめりに倒れる。

「弱イ。こレが吸血鬼か…………」
「ハハハハハハ! ついに貴族ロイヤルをも凌ぐ力を得た! ヴァルドー、俺の命令一つでネクロゲイザーは貴様を殺せるぞ」
「やってみろ」

 すでに周囲のゾンビは数えるほどになっていた。ネクロゲイザーが吸収したのだ。
 ネクロゲイザーはヴァルドーの方へゆっくりと歩きだした。手を伸ばせば届く距離まで近づく。先程ジュラルドを襲った右腕でヴァルドーを狙う。
 ヴァルドーは最小の動作でそれを払う。ネクロゲイザーは左腕も使い始める。雑だが動きは速く、避けるのは容易ではなかった。
 一瞬の隙を突いてネクロゲイザーの片足を潰す。無論これくらいで死なないだろうが、しばらく動けなくはなった。

「そこまでだ。大事な副官を失いたくはないだろう?」

 ディミロフが倒れているジュラルドの首元で手刀を構えていた。

「…………」
「そうだ、大人しくしていろ」

 頭の半分が潰れたジェロームが起き上がる。ネクロゲイザーのもとへ歩き始めた。
 ネクロゲイザーは探るように手を動かして、ジェロームに触れると人間のゾンビと同じように吸収したのだ。全身が肥大し、筋肉質な体となり、潰された頭も元に戻って立ち上がる。

「……オレハ、死ナナイ」
「意思を持ち、何度でも立ち上がり、その度に強くなる! 流石は俺の最高傑作だ!! やれ、ネクロゲイザー! 傲慢な吸血鬼の王を始末しろ!」

 ネクロゲイザーが動いた。ヴァルドーは身構えたが、自分の方へは来なかった。

「……なっ?」
「マダ、足リナイ……」
「やめろ! 俺を誰だと思っている!」

 ネクロゲイザーの手にはディミロフの頭ががっしりと握られていた。そして断末魔の叫びとともに取り込まれる。
 吸血鬼の王は初めて屍の王に恐怖を覚えた。数百年感じることの無かった死の恐怖である。
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