駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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1.何処かで聞いた都市国家

3.謀(はかりごと)

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 目が覚めてから一週間で、僕はアレクシアさんの被保護者となったことを、アレクシアさんの言葉通り、かなり後悔していた。
 ちなみに、アイオライトの時間単位は1日24時間制で、1週は6日、ひと月は30日、1年は12ヶ月らしい。きりがよいのはいいことだと思う。
 アレキサンドリアは比較的温暖な地域に在るけど、四季はあり冬は雪も降る。海から程近いせいもあり、極端に暑くなったり寒くなったりはしないようだけどね。河の中にあるから常に川風が北から南に吹いていて、街中には水流を利用した水車だけじゃなく、風車もある。水車・風車の力はそのまま動力として利用されて、鍛冶のふいごや、穀物の製粉など、様々に利用されている。

 話がそれた。なんで後悔をしているのかと言うと、男女問わず僕に向けてくる、嫉妬や異質なもの扱いといった負の感情だ。理由はおおむね三つあり、1つ目は、僕がアレクシアさんの被保護者となった事に伴う、妬みなど。2つ目は僕の見た目、白髪紅瞳はやはり珍しいからだろう。そして、3つ目が此処が魔法都市であるがゆえに、魔力が無いと存在価値すらないからだろうなぁ。
 アレキサンドリアという国自体には身分制度はない。始祖四家と言われる建国の名士の家系でも、羨望の目で見られるだけで、別に貴族でも、議会の議員というわけでもない。だけど、アレキサンドリアの上階層は少し違う。ここは魔法都市でもある為、生活道具や様々な場所にある隔壁や扉などの開閉には、魔力を使う。魔力も人固有の特徴があって、それで個人特定もしているから、都市内の安全はかなり高い。その分、生活するには魔力が必須となるから、魔力の有無は上階層では大きな待遇の差となってしまう。
 アレクシアさんが傍にいなければ、僕に対する街の人の反応はほぼ無視といった状況だ。ファロス島には商店はないから、買い物は上層階に行くしかないのだけど、僕だけでは商品すら売ってもらえない。
 アレクシアさんの家があるファロス島の居住区画は3階層目で最上層にあたり、居住している人が少ないので、なんとか耐えられているようなものだ。人が少ないのは、3層に住むのは後述する始祖四家の直系と一部の血族だけだからだ。

 僕は読んでいた本を閉じると、ゆっくり背伸びをする。読んでいたのはアレキサンドリアの歴史書だ。なぜアレクシアさんが人々の注目と羨望を集めるかも判ってしまった僕は、ため息をつくしかない。
 アレキサンドリアは、今から154年前にやって来た一艘の帆船に乗り込んでいた200人程度の人達が、河を遡上し、今の下層街を河港として住み着いたのが始まりらしい。
 優れた魔法技術をもち、交易によって財をなした彼らは、海岸段丘上に住む人々と交渉し、河の中にある岩盤でできた中州のような部分を譲ってくれるように頼んだ。
 岩盤だから特に利用価値はないし、大雨が降れば小高い部分以外は水没してしまうのだから、周囲の集落の人も二つ返事で了承した。ある意味不毛な土地を利用してくれて、その見返りが得られるのなら大歓迎だったのだろう。そこに城壁と水車・風車を配置した上階層都市を建築した彼らは、段丘上に住むドワーフやエルフ、獣人の部族や人の町・村などの集落と友好的に付き合い(基本的に防衛を主としていたらしいけど、争いもある)、一つの協和国家として段丘上の諸部族と下層街から海までの河の両岸を領土とした。
 その最初の200名余りの移民の指導者層が、始祖四家といわれる家族で、、スミス、フィッシャー、エアリーと言うらしい。
 そう、アレクシア・ウィンターは、始祖四家の直系であり、リリーさん(リリー・エアリーでこの人も始祖四家の直系だ)が言った通り、現在後継者問題の真っ只中に居るのである。
 単純に婿をとればいいじゃないと思うんだけど、本人があの性格だからなのか、見た目があれだからなのか、彼女は結婚する気はないらしく、このままじゃ四家の直系が絶える事が懸念され、養子を取るか結婚するかという選択を迫られていたらしい。ウィンター家は女系の家なので。頭首は女性がなるのが決まりらしく、養子は女性から選ばれるようだ。
 そんなウィンター家に、魔力の欠片もない得体の知れない娘が同居を始めたもんだから、後継者の立場を狙う女子やその親からも厄介者扱いだし、アレクシアさんに好意を寄せている男性達からも、よけいな瘤がついたんじゃ、落としようがなくなる点でも、厄介者となり、男女双方から嫌われているのが、僕の現状なのだ。
 それと、魔力が無いというのが、地味に普通の生活がしずらいってのもあるんだよね。ここは、魔法都市であり大抵の生活道具はほぼ魔道具なんだ。その魔道具は、人の体内から漏れ出す魔力を力の源泉として作動するらしい。僕からは漏れている魔力が全く無いらしく、魔道具に力を供給できず、動作しない。
 水道も、部屋の照明もなにもかも。一番困っているのがトイレなんだよね。魔道具なので水洗で日本とほぼ変わらない筈なんだけど、力が供給できないので、使用後がごにょごにょ……。毎回アレクシアさんを呼ぶわけにもいかず、代わりに力の源泉となる魔石を首からぶら下げて、魔道具を動作させるのだけど、余計なことに使うと、魔石もすぐ魔力切れとなってしまう。仕方なく、晴れている日は外の木陰で本を読むのが、最近の僕の日課になっている。

 そして、3階層とはいえ、此処も平穏ではなくて……

 「やあ、クロエ。今日も使えもしない魔法書を読んでるのかい?いい加減に無駄だってことに気づけよ」

 くそっ、家に戻るタイミングをミスったみたいだ。いつの間にか傍にリアンが立っていて、僕が読んでいた本を覗き込んでくる。逃げようと家の方向を見ると、そちらからはゆっくりとワイアットが歩いてくる。
 リアンは、黒髪黒瞳でなかなかのイケ面だけど、悪餓鬼で通っている。性格的にも暑苦しいやつで、熱血少年ってやつだ。そして、エリックさんの息子さんでもある。
 ワイアットは、色の薄い金髪にアイスブルーの瞳を持つ無口な奴。冷たい態度がトレードマークなやつで、こいつもフィッシャー家の嫡男だ。リアンと一緒に居る事も多いんだけど、リアンよりも僕はワイアットのほうが苦手だ。いつも無表情で、何を考えているかわからないのに、何時も退路を絶ってくるし、冷たい瞳でこちらを見据えるくせにそこに感情が見られないんだよね。
 2人ともイケ面だから、僕としては余り関わりたくないんだよね。女子の敵愾心ヘイトが上がりまくるんだよ、こいつらといると。今も2層から3層への階段に、何人かの女子がいてこちらを見ているし……

 「今日は歴史書のようですね。新参者にしては勉強熱心だ。リアンも少しは見習うべきじゃないですか?」

 めずらしく、ワイアットが口を開いた。しかも、僕を援護してくれてるのか?

 「リアンが何時も読んでいる、大衆娯楽書は下層街で売っています。実用的な本ばかりではなく、そういった本を読むのも、人々の生活や文化を知るにはいいと思いますよ。生き抜きにもなりますし、一度読んでみてはいかがですか?」

 くそっ、イケ面の微笑みは破壊力が高いな。階段にいる女子がこちらを睨んでるよ。ワイアットはにこやかに笑いながら、リアンをみて何かを促しているようだ。渋々といった感じでリアンは話してくれた。

 「……アレクシア様の家の脇に扉があるだろ。あれが下層街に続いてる秘密通路さ。俺もたまに抜け出して、下層街をうろつくのさ。下層街は商人と船乗りの街だからな。魔力のない人も多いし、他国人も多いから色々と珍しいものも見聞きできるし。」

 機嫌は悪そうだけど、そこは仕方ないな。まあ、何時までもこいつらと一緒にいて、他の女子に絡まれるのも嫌だし、船乗りと商人の街ってのも気になる。ちょっと行ってみるかな。

 「ありがとう、ワイアットにリアン? 行ってみるよ」

 僕は2人に手を振り、教えられた通路に向かって歩き出した。

 「ええ、行ってらっしゃい。……無事に帰れるといいですね……」

 下層街へと続く連絡通路へと足を踏み入れた僕には、ワイアットが呟いた言葉の最後の方は聞き取れていなかった。
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