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4.アレキサンドライトの輝き
3.後始末 1日目 戦場にて
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「うわぁ~、これは流石に予想してなかったね~」
僕は殊更明るく声を出しましたが、イリスさんの反応がありません。疑問に思って、軽く突いてみると、クテッと白目をむいて気絶してます。もう、だからあれほど言ったのに……
「死霊の数も数ですが、その他のアンデッド系も多いですね。ゾンビと呼ばれる半死半生の物も含めると1000体は居ます。尚、彼らは『黒死病』の媒介となりうる状況にありますので、クロエもイリスも接近戦をされる事は推奨できません」
ジェシーの分析結果でもそうなりますか。そうなると良い魔法攻撃はあるでしょうか? 聖なる光なら確実ですが、昼間でも目立ちそうなのに、夜間に使ったら下層街も上層街も目を覚まして騒ぐ人が出そうです。他の手段、他の手段っと……
「《聖なる神の息吹よ、風となって彼の地の不浄を清めたまえ》」
詠唱が終ると、DM2を中心に淡い緑色の燐光を伴った風が吹き、戦場を駆け抜けます。陣地の一角にあった黒こげの物体と化した身体も、赤く光る淡い燐光を伴ってグズグズと音を立てて崩壊し、消えていきました。
空中を飛び交っていた死霊も、風に吹き散らされて悲鳴をあげながら消えていきます。僕はホッと息をつきます。
「下方から魔法攻撃、火球です」
なっ、咄嗟に僕は無詠唱で《魔法障壁》を発動します。直後に3度機体が揺れましたが、被害はなさそうです。エマが更に高度をとって、魔法攻撃を回避します。びっくりしましたよ。イリスさんも、機体の揺れた衝撃で目を覚ましたようですね。
「本機直下に生体反応があります。数1。第2波攻撃、土弾きます」
くそ、属性変えただけじゃなく物理も交えてきましたね。咄嗟に魔法防御から物理防御に切り替えます。
「《魔力よ、壁となりて敵の攻撃を弾け!障壁》。エマ、更に上空に退避!」
障壁に土の塊がぶつかって、先程よりもやや揺れましたが何とか被害は無しで済みました。高度をとって様子をみてみますが、先程の状態で対地高度は130mは有ったはずです。それなのに、火球と土弾を当ててくるとは驚きです。特に土弾は実体がありますから、重力の影響を受けるはずなのに。
「何? 敵の攻撃なの? まだルキウス教賊が居たって言うんですの?」
「ホントに僕も驚きですよ。まさか、死の中心地に生者が居るなんてね。『黒死病』にかかったばかりの魔法使いかな?」
「暗視カメラの映像を中央に表示します。ご確認下さい」
ジェシーが中央のテーブル上に、暗視カメラの映像を投影します。暗くて見えにくいのですが、神官衣? を着た杖をもった人物ですね。顔は良く見えませんが、髪はさほど長くないように見えます。
「やられてばかりはいられないよ。灯槍」
僕は灯槍の魔法を詠唱して、敵に向けて放ちます。灯槍が当たると思ったそのときです。敵の前に真っ黒い空間が現われて、灯槍が完全に無効化されました。
「……うそ……今のは闇壁? 3つの属性魔法に、闇属性を使えるなんて」
イリスさんも言葉がありませんね。これは僕にも予想外ですよ。
*****
その者はただ1人、取り残された『黒死病』患者の為に祈り続けていた。周囲の者がみなこの地を去る中、旅を続ける事ができそうもない『黒死病』を患った人間だけが、この地に残される事になった為である。
敬虔な侍祭だったその者は、『黒死病』の患者を残していく事は出来ず、自分も残ると言った。王太子マニウスは、その者を連れ帰るために当身を腹部に喰らわせると、『黒死病』患者を残し、この地を去った。
夜半に気付いたその者は、深夜こっそり野営地を抜け出して、陣地にもどってきて驚き、座り込んでしまった。
そこには、『燃える水』を掛けられ炎上する、人の身体だったものしか既に無かったのである。
その跡地で、その者は死者の冥福をルキウス神に祈り続けた。そして……
その者の願いは神に届いたのである。それは、その者の身体に顕現した。ひたむきな祈りと願いは神の届き、神が顕現したことによって、自身の魂が耐え切れず消失したが、充足感をもってその者の魂は、輪廻に戻ることなくその場で消失したのであった……
顕現した神は、その者の最後の願いではなく、死者たちの願いを実現したのである。『死にたくない』と願った者達を、生者でも死者でもない存在、アンデッドにかえて……
そして、そのアンデッドを消滅させられたその者は、彼らを敵と認識したのであった。
*****
「これはいけませんね。空中では分が悪いようです」
「……だからって、地上に降りようとしたら、降下中に狙われますわ」
僕の呟きが、イリスさんに聞こえたようですね。僕はエマとジェシーに伝えます。
「上空200mで待機して。イリスさんをお願いするね……」
そして僕は地上へと転移したのです。最後にイリスさんが何かを叫んだようですが、お叱りは後で聞きますよ。聞くことができたらですが……
地上に降り立った僕は、風と炎の壁を身に纏います。暗闇での戦闘は不利に見えますが、幸い僕は夜目が効くんですよ。アイオライトに着てからね。
「《大蛇を切り裂け》」
詠唱して天羽々斬を呼び出した僕は、正眼に天羽々斬を構えて、目の前の存在に問いかけます。
「貴女が彼らを蘇らせたの?」
僕の前に立つのは、小柄な女性だったのです。そして、この地にずっといたとは思えないくらい、綺麗です。つまり黒死病にかかっていないようです。でも、様子がおかしいですね。返答がありません。
「わ・た・し? 誰? 貴女は・私が・願い・かなえた者・消した……彼ら・は・唯生きたい・だけ・だったのに……」
たどたどしい言葉ですが、辛うじて意味はわかります。彼女が、死者の希望をかなえたのでしょうか?
「ち・が・う。彼ら・まだ・死んで・無かった。だから・生き続けられる・ようにしただけ。貴女は・彼らを殺した。」
心を読まれた?! しかも後半は言葉になってきてる。彼女は手に持った杖を持ち、横薙ぎに僕に打ち付けてきます。
風壁と炎壁があるから大丈夫と思いつつ、身体が咄嗟に防御反応をしめし、天羽々斬で受ける体勢をとった僕は、突如軌道を変えた彼女の杖に、左脚を打たれ一瞬身体が硬直します。なんとか後方にとび退りましたが、遅れれば杖の石突で左脚を貫かれていたかもしれません。しかも、
「風壁と炎壁が貫かれた?! うそ……」
少なくても、大人数人を弾き飛ばす力は風壁に込められています。炎壁は炎による焼却を行うはずですが、彼女が突き出した杖に、焼けた様子は見られません。
「この者、何か願っていた。この者の・声はもう聞こえない。だから、彼らの願い・聞いた。彼らは死にたくないと・願っていた。だから願いかなえた。この者の・願い、きっと同じ」
「……貴女が何者かは知りませんけどね。貴女がその人に憑いたせいで、その人の魂はもう消滅してしまってるんですよ……」
間合いを取りつつ、僕は防御魔法を更に重ね崖します。
「《障壁》《二重化》」
彼女は叫び、矢継ぎ早に杖を振り回し、石突で突いてきます。
「違う・違う・違う~、我はこの者の願いで降臨した。この者は死んでなどいない。我はルキウス、唯一の神にして絶対の神である」
くう、右に左に突き、回してくる杖は、人間の速度を超えていますよ。加速してても捌き切れず、二重化した障壁すら無視して、杖の当たる衝撃波で僕の身体を切り裂きます。しかも、ルキウス神だって? 神降ろしですか、僕は光の戦士じゃありませんよ!!
天羽々斬でも防戦一方になります。一体あの杖は何で出来ているんでしょうね。受ける天羽々斬の刃が欠けて、僕を傷つけます。くそっ、早い。
捌けなかった一撃が、一枚目の障壁を貫き、二枚目の障壁を打ちました。衝撃波が僕の頭を揺らし、一瞬意識が飛びます。
「貴様は神の敵、死ね~!!」
彼女が突くのは僕の左胸。あっ、駄目だ。さっきの一撃より強い。今度は二枚目も貫かれる。そう僕が思った瞬間、声が響きます。
「聖なるアテナの盾イージスよ、彼の者をあらゆる邪悪・災厄から守りたまえ。聖盾」
イリスさん! 聖盾で、杖の先が止まります。チャンスは今しかありません。どこかの11番隊長の刀の様に、刃が欠けまくり鋸みたいになってしまった天羽々斬を手放し、新たな武器を召喚します。
「《神穿つ槍》、その力を解放し、全てを穿て!」
僕が突き出したグングニルは、神官衣の左胸を大きく穿ちます。そして穂先が光り輝き、穿たれた穴は更に拡大して、左肩、首、腹部を大きく抉りました。彼女の身体はバランスを崩して、『ドゥッ』と音を立てて地に倒れこみました。
「我は・ルキウ・ス、唯・一の・神にし・て絶対の……」
倒れながらも呟く彼女の身体を、僕は見下ろし小声で呟きます。
「残念だけど、僕は君が唯一の神じゃないと知っているよ。僕は他にも神を知っている。……アリア、神とはいえ、全てを知るわけじゃないんだね。」
そして、彼女の頭部にグングニルを突き立てます。頭部が消失した身体は、やがて痙攣がとまり崩れ落ちていきました。
振り返ると、DM2が地上数mでホバリングしています。後部キャビンの風防が大きく開かれ、そこからイリスさんが身を乗り出していますね。
ホバリング中のDM2の後部登場口から、苦労しながらもキャビンへと入ると、イリスさんが涙目ですよ。
「ありがとう、イリスさん。今回は、本当に助かったよ」
「……馬鹿。だから、私が一緒で良かったでしょ」
イリスさんの言葉に今日は素直に頷くしかありませんね。さぁ、後はこの地に残る遺体とともに、ネズミや蚤を大地に還しましょう。
「《大地よ、安らかに眠る遺体と共に、黒死の使者を泥に飲み込め!泥濘》」
詠唱が完了すると、あちこちで遺体や草についた蚤の卵もろとも、泥濘と化した大地に飲み込まれていきます。その範囲は、ほぼ戦場の全域に及びました。
「これで、多分この土地での『黒死病』の発生源は消えたと思うよ。それに、イリスさんの苦手なアンデッド系や死霊もね」
僕の言葉を聞くと、イリスさんが徐々に赤く染まっていきます。
「このっ、命の恩人になんて事いうんですの~」
言葉と共に繰り出された右掌は、音高く僕の左頬を捉えて、疲れ果てていた僕の意識をしっかりと刈り取ってしまいます。
「ちょっと、クロエ、クロエ。大丈夫~」
慌てたイリスさんの声を聞きながら、がっくりと僕は座席に突っ伏したのでした。
*****
翌日、僕が目を覚ますと、目の前にはイリスさんの姿が……。怪我はきっちり治療されていましたが、空気が妙に重いですね……
そっと身体を起こすと、ベッドサイドには腕を組んでお怒りモードのユイとユーリアちゃんの姿が。。。
どうやら、深夜の外出は気付かれなかったようですが、僕とユーリアちゃんの身体を入れ替えて、僕を独り占めしたと思われたイリスさんが、2人に詰め寄られます。
エマとジェシーはそ知らぬ顔ですね。すいません、僕もそ知らぬ顔をしていいですか?
イリスさんは何とか誤魔化そうとしましたが、寝ぼけて僕とユーリアちゃんが夜中にトイレに行って、それぞれ間違ってベッドに入ったんじゃないかなんて言い訳は、通用する訳が無いじゃないですか。
結局僕とイリスさんの2人で、ユイとユーリアちゃんに謝り続け、朝食では2人にアーンをさせられる羞恥プレイをさせられ、記念すべきローカルSNS掲載の第一号写真となったことは、僕の黒歴史に新たな一頁となったのでした。
僕は殊更明るく声を出しましたが、イリスさんの反応がありません。疑問に思って、軽く突いてみると、クテッと白目をむいて気絶してます。もう、だからあれほど言ったのに……
「死霊の数も数ですが、その他のアンデッド系も多いですね。ゾンビと呼ばれる半死半生の物も含めると1000体は居ます。尚、彼らは『黒死病』の媒介となりうる状況にありますので、クロエもイリスも接近戦をされる事は推奨できません」
ジェシーの分析結果でもそうなりますか。そうなると良い魔法攻撃はあるでしょうか? 聖なる光なら確実ですが、昼間でも目立ちそうなのに、夜間に使ったら下層街も上層街も目を覚まして騒ぐ人が出そうです。他の手段、他の手段っと……
「《聖なる神の息吹よ、風となって彼の地の不浄を清めたまえ》」
詠唱が終ると、DM2を中心に淡い緑色の燐光を伴った風が吹き、戦場を駆け抜けます。陣地の一角にあった黒こげの物体と化した身体も、赤く光る淡い燐光を伴ってグズグズと音を立てて崩壊し、消えていきました。
空中を飛び交っていた死霊も、風に吹き散らされて悲鳴をあげながら消えていきます。僕はホッと息をつきます。
「下方から魔法攻撃、火球です」
なっ、咄嗟に僕は無詠唱で《魔法障壁》を発動します。直後に3度機体が揺れましたが、被害はなさそうです。エマが更に高度をとって、魔法攻撃を回避します。びっくりしましたよ。イリスさんも、機体の揺れた衝撃で目を覚ましたようですね。
「本機直下に生体反応があります。数1。第2波攻撃、土弾きます」
くそ、属性変えただけじゃなく物理も交えてきましたね。咄嗟に魔法防御から物理防御に切り替えます。
「《魔力よ、壁となりて敵の攻撃を弾け!障壁》。エマ、更に上空に退避!」
障壁に土の塊がぶつかって、先程よりもやや揺れましたが何とか被害は無しで済みました。高度をとって様子をみてみますが、先程の状態で対地高度は130mは有ったはずです。それなのに、火球と土弾を当ててくるとは驚きです。特に土弾は実体がありますから、重力の影響を受けるはずなのに。
「何? 敵の攻撃なの? まだルキウス教賊が居たって言うんですの?」
「ホントに僕も驚きですよ。まさか、死の中心地に生者が居るなんてね。『黒死病』にかかったばかりの魔法使いかな?」
「暗視カメラの映像を中央に表示します。ご確認下さい」
ジェシーが中央のテーブル上に、暗視カメラの映像を投影します。暗くて見えにくいのですが、神官衣? を着た杖をもった人物ですね。顔は良く見えませんが、髪はさほど長くないように見えます。
「やられてばかりはいられないよ。灯槍」
僕は灯槍の魔法を詠唱して、敵に向けて放ちます。灯槍が当たると思ったそのときです。敵の前に真っ黒い空間が現われて、灯槍が完全に無効化されました。
「……うそ……今のは闇壁? 3つの属性魔法に、闇属性を使えるなんて」
イリスさんも言葉がありませんね。これは僕にも予想外ですよ。
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その者はただ1人、取り残された『黒死病』患者の為に祈り続けていた。周囲の者がみなこの地を去る中、旅を続ける事ができそうもない『黒死病』を患った人間だけが、この地に残される事になった為である。
敬虔な侍祭だったその者は、『黒死病』の患者を残していく事は出来ず、自分も残ると言った。王太子マニウスは、その者を連れ帰るために当身を腹部に喰らわせると、『黒死病』患者を残し、この地を去った。
夜半に気付いたその者は、深夜こっそり野営地を抜け出して、陣地にもどってきて驚き、座り込んでしまった。
そこには、『燃える水』を掛けられ炎上する、人の身体だったものしか既に無かったのである。
その跡地で、その者は死者の冥福をルキウス神に祈り続けた。そして……
その者の願いは神に届いたのである。それは、その者の身体に顕現した。ひたむきな祈りと願いは神の届き、神が顕現したことによって、自身の魂が耐え切れず消失したが、充足感をもってその者の魂は、輪廻に戻ることなくその場で消失したのであった……
顕現した神は、その者の最後の願いではなく、死者たちの願いを実現したのである。『死にたくない』と願った者達を、生者でも死者でもない存在、アンデッドにかえて……
そして、そのアンデッドを消滅させられたその者は、彼らを敵と認識したのであった。
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「これはいけませんね。空中では分が悪いようです」
「……だからって、地上に降りようとしたら、降下中に狙われますわ」
僕の呟きが、イリスさんに聞こえたようですね。僕はエマとジェシーに伝えます。
「上空200mで待機して。イリスさんをお願いするね……」
そして僕は地上へと転移したのです。最後にイリスさんが何かを叫んだようですが、お叱りは後で聞きますよ。聞くことができたらですが……
地上に降り立った僕は、風と炎の壁を身に纏います。暗闇での戦闘は不利に見えますが、幸い僕は夜目が効くんですよ。アイオライトに着てからね。
「《大蛇を切り裂け》」
詠唱して天羽々斬を呼び出した僕は、正眼に天羽々斬を構えて、目の前の存在に問いかけます。
「貴女が彼らを蘇らせたの?」
僕の前に立つのは、小柄な女性だったのです。そして、この地にずっといたとは思えないくらい、綺麗です。つまり黒死病にかかっていないようです。でも、様子がおかしいですね。返答がありません。
「わ・た・し? 誰? 貴女は・私が・願い・かなえた者・消した……彼ら・は・唯生きたい・だけ・だったのに……」
たどたどしい言葉ですが、辛うじて意味はわかります。彼女が、死者の希望をかなえたのでしょうか?
「ち・が・う。彼ら・まだ・死んで・無かった。だから・生き続けられる・ようにしただけ。貴女は・彼らを殺した。」
心を読まれた?! しかも後半は言葉になってきてる。彼女は手に持った杖を持ち、横薙ぎに僕に打ち付けてきます。
風壁と炎壁があるから大丈夫と思いつつ、身体が咄嗟に防御反応をしめし、天羽々斬で受ける体勢をとった僕は、突如軌道を変えた彼女の杖に、左脚を打たれ一瞬身体が硬直します。なんとか後方にとび退りましたが、遅れれば杖の石突で左脚を貫かれていたかもしれません。しかも、
「風壁と炎壁が貫かれた?! うそ……」
少なくても、大人数人を弾き飛ばす力は風壁に込められています。炎壁は炎による焼却を行うはずですが、彼女が突き出した杖に、焼けた様子は見られません。
「この者、何か願っていた。この者の・声はもう聞こえない。だから、彼らの願い・聞いた。彼らは死にたくないと・願っていた。だから願いかなえた。この者の・願い、きっと同じ」
「……貴女が何者かは知りませんけどね。貴女がその人に憑いたせいで、その人の魂はもう消滅してしまってるんですよ……」
間合いを取りつつ、僕は防御魔法を更に重ね崖します。
「《障壁》《二重化》」
彼女は叫び、矢継ぎ早に杖を振り回し、石突で突いてきます。
「違う・違う・違う~、我はこの者の願いで降臨した。この者は死んでなどいない。我はルキウス、唯一の神にして絶対の神である」
くう、右に左に突き、回してくる杖は、人間の速度を超えていますよ。加速してても捌き切れず、二重化した障壁すら無視して、杖の当たる衝撃波で僕の身体を切り裂きます。しかも、ルキウス神だって? 神降ろしですか、僕は光の戦士じゃありませんよ!!
天羽々斬でも防戦一方になります。一体あの杖は何で出来ているんでしょうね。受ける天羽々斬の刃が欠けて、僕を傷つけます。くそっ、早い。
捌けなかった一撃が、一枚目の障壁を貫き、二枚目の障壁を打ちました。衝撃波が僕の頭を揺らし、一瞬意識が飛びます。
「貴様は神の敵、死ね~!!」
彼女が突くのは僕の左胸。あっ、駄目だ。さっきの一撃より強い。今度は二枚目も貫かれる。そう僕が思った瞬間、声が響きます。
「聖なるアテナの盾イージスよ、彼の者をあらゆる邪悪・災厄から守りたまえ。聖盾」
イリスさん! 聖盾で、杖の先が止まります。チャンスは今しかありません。どこかの11番隊長の刀の様に、刃が欠けまくり鋸みたいになってしまった天羽々斬を手放し、新たな武器を召喚します。
「《神穿つ槍》、その力を解放し、全てを穿て!」
僕が突き出したグングニルは、神官衣の左胸を大きく穿ちます。そして穂先が光り輝き、穿たれた穴は更に拡大して、左肩、首、腹部を大きく抉りました。彼女の身体はバランスを崩して、『ドゥッ』と音を立てて地に倒れこみました。
「我は・ルキウ・ス、唯・一の・神にし・て絶対の……」
倒れながらも呟く彼女の身体を、僕は見下ろし小声で呟きます。
「残念だけど、僕は君が唯一の神じゃないと知っているよ。僕は他にも神を知っている。……アリア、神とはいえ、全てを知るわけじゃないんだね。」
そして、彼女の頭部にグングニルを突き立てます。頭部が消失した身体は、やがて痙攣がとまり崩れ落ちていきました。
振り返ると、DM2が地上数mでホバリングしています。後部キャビンの風防が大きく開かれ、そこからイリスさんが身を乗り出していますね。
ホバリング中のDM2の後部登場口から、苦労しながらもキャビンへと入ると、イリスさんが涙目ですよ。
「ありがとう、イリスさん。今回は、本当に助かったよ」
「……馬鹿。だから、私が一緒で良かったでしょ」
イリスさんの言葉に今日は素直に頷くしかありませんね。さぁ、後はこの地に残る遺体とともに、ネズミや蚤を大地に還しましょう。
「《大地よ、安らかに眠る遺体と共に、黒死の使者を泥に飲み込め!泥濘》」
詠唱が完了すると、あちこちで遺体や草についた蚤の卵もろとも、泥濘と化した大地に飲み込まれていきます。その範囲は、ほぼ戦場の全域に及びました。
「これで、多分この土地での『黒死病』の発生源は消えたと思うよ。それに、イリスさんの苦手なアンデッド系や死霊もね」
僕の言葉を聞くと、イリスさんが徐々に赤く染まっていきます。
「このっ、命の恩人になんて事いうんですの~」
言葉と共に繰り出された右掌は、音高く僕の左頬を捉えて、疲れ果てていた僕の意識をしっかりと刈り取ってしまいます。
「ちょっと、クロエ、クロエ。大丈夫~」
慌てたイリスさんの声を聞きながら、がっくりと僕は座席に突っ伏したのでした。
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翌日、僕が目を覚ますと、目の前にはイリスさんの姿が……。怪我はきっちり治療されていましたが、空気が妙に重いですね……
そっと身体を起こすと、ベッドサイドには腕を組んでお怒りモードのユイとユーリアちゃんの姿が。。。
どうやら、深夜の外出は気付かれなかったようですが、僕とユーリアちゃんの身体を入れ替えて、僕を独り占めしたと思われたイリスさんが、2人に詰め寄られます。
エマとジェシーはそ知らぬ顔ですね。すいません、僕もそ知らぬ顔をしていいですか?
イリスさんは何とか誤魔化そうとしましたが、寝ぼけて僕とユーリアちゃんが夜中にトイレに行って、それぞれ間違ってベッドに入ったんじゃないかなんて言い訳は、通用する訳が無いじゃないですか。
結局僕とイリスさんの2人で、ユイとユーリアちゃんに謝り続け、朝食では2人にアーンをさせられる羞恥プレイをさせられ、記念すべきローカルSNS掲載の第一号写真となったことは、僕の黒歴史に新たな一頁となったのでした。
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